よん。
エミルにお茶と……精神的に疲れたからか、物凄く甘い、蜂蜜をたっぷりかけたスコーンをお願いして次の手紙に手を伸ばす。
八通目の封筒にペーパーナイフを入れて開封。三つ折りにされた便箋を開いて出だしに目を通す。相変わらずレバーム嬢、と書き出された手紙には歩み寄ることが出来なかったことから、本当ならばもっと早く互いのことを知っているべきはずなのに、今の今まで知ることを放棄していたことを悔やむ。
という悔恨の文章が綴られその後から、そういうことで先ずは互いのこと……好きなものなどを教え合わないか、と綴られていた。
「それを聞いていなかったのは、あなた様の方でしょうに……」
ハァッ
あまりにも大きな溜め息が自分から発せられて、自分で動揺してしまう。
でも口から零れ落ちた本音は真実。
初対面であのようなことを言われて謝られなくても、決まってしまっている婚約が覆ることがない以上は……と、私は定められた交流日に歩み寄る努力をした。好きな色や食べ物に本。嫌いなことや苦手なこと。思い付いたままに話してみた。魔法の練習が始まる前は、魔法にとても興味がある、とも。
そんな話を私がしていても、相槌一つ打たなかったのは誰だろう。
私ばかりが話していても、と殿下に何がお好きか嫌いか尋ねた私に「うん」とか「ああ」という返事にもならない返事で終えたのは、どこの誰なのか。
好きなこと、嫌いなこと。
一言でも返して欲しい、とは思ったものの、それが「うん」や「ああ」なんて一言で、何をどう好きなのか嫌いなのか予想なんて出来るわけがない。一言でも返事が欲しい、なんて思った私が愚かだったと身に染みた。
そんな出会った頃の交流会が思い出として過ぎった。これが思い出というのもどうかとは思うけれど思い出。……もう言葉もない。ただ。まだ許せるのは聞いていなかったことを素直に書いてあったことと、もう一度きちんと教えて欲しいという望み。
コンコン
さて、どうしようか……と悩んでいた私の耳にドアをノックする音が届く。エミルだろうと思うけれど誰何の問いかけをすれば、お母様の声が聞こえてきた。
ーーお母様⁉︎
慌ててドアを開ければおっとりと微笑むお母様とお母様専属侍女とエミル。
「ごめんなさいね、ポリーナ。部屋でのんびりしていたのでしょう?」
「いえ、大丈夫です。どうかしましたの?」
「あなた付きのエミルが蜂蜜たっぷりのスコーンを準備しているのをマミィが見たようで、私に報告がきたものだから、何かあったのかしらと来てみたのよ」
マミィは母の専属侍女である。今、侍女長の任に就いているマーサの妹だ。マーサが侍女長に就任するに辺りマミィが専属に昇進した。ここの姉妹は本当によく周りを見ているし、母に忠実。
ちょっと困ったようなエミルの顔を見て気にしないように微笑んでから母を部屋に。マミィとエミルにお茶の準備をお願いしてから下がってもらった。尚、ローテーブルの上にある手紙は執務や勉強に使う机へ移動させて。
「手紙、開けたのね」
「ええ。目を通さないことには何も始まりませんから」
お茶を一口喫してお母様の問いかけに頷く。良い心掛けね、と笑ったお母様に肩の力が抜けた気がした。……読むのに気を張っていたらしい。
「それで?」
短い問い。
何を問われているのかは分かるから率直に最初に来た手紙から七通目までは懺悔というか謝罪というかそんなものが書き連ねてあった、と伝える。
「あら。……随分と遅いとは思うけれど、ようやくなのね?」
「はい。それも七通も。どうやら最初にあれこれと書きたいことを書いて、いざそれを封筒に入れようと思ったら入らなかったみたいです。無理やり七通の封筒に分けて入れたようですわね」
「あらあら……。なんていうか、外で聞く評判とポリーナに対する態度の差が酷いわね……」
お母様の呆れた口調に強く深く頷く。
「それで八通目からは、改めてお互いのことを知りたいと申し出て参られましたわ。私が話していたことをきちんと聞いてなかったことに対する謝罪付きで。きちんと知りたい、そうです」
「なんて言うか……今さら、ねぇ……」
「私もそう思っております。ですので、聞いてなかった相手に、いくら謝罪をされたとはいえ、今さら歩み寄るべきなのか……と考えておりましたの」
「そうねぇ。あなたが懸命に歩み寄っていたことを無かったことにしてきた相手、ですものね」
お母様は私の悩みに納得してくれたようで共感してくれる。そう、全ては今さらなのだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




