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ブサイクと言ってきた相手と婚姻しました。  作者: 夏月 海桜
ポリーナ十六歳〜十七歳
77/131

ご。

「それで、あなたはどうしたいの?」


 お母様から促されて少し考える。

 どう、したい。

 全ては今さら。だけど、相手がようやく私と向き合おうとしているのにそれを無しにしてもいいのだろうか。

 本音は殿下の気持ちなど知ったことではない、と思っているけれど。

 ーーでもなぁ。“王命”だからなぁ。物語ならば王命が覆ってしまうような大々的な婚約破棄モノとか読んだことはあるけれど。あれは物語だから成立するのよね、と結論に至ったことを思い出す。

 何しろ、王子が国王の命で結ばれた婚約を大勢の前で破棄する、なんて言って、王子の側近や友人が婚約者が虐めていただの、命を脅かそうとしていただの、だから婚約破棄、なんて言っているけれど。

 抑々の話。

 婚約者である高位貴族の令嬢が王子の恋のお相手……この場合は大抵、平民やら下位貴族の令嬢だけど……に対して、婚約者である王子にすり寄ったことを咎めることも、それで手を引かない恋のお相手を虐めようと排除しようと、それは婚約者の彼女が持つ正当な権利だし。まぁ例えば私だったら虐めなんて温情は与えずにお父様と国王陛下の許可を得て、王子の恋のお相手を排除するか、囲うかどちらかにする。

 排除するのは、恋のお相手が囲われることに同意するか否かだけど。

 王子と恋愛していたいならそれはそれで構わないので、私と王子が結婚してから、お相手様を囲う。お相手様と王子が私との結婚を反対しようと、そんなの知らない。結婚して初夜を終えれば、後は王子もお相手様もご自由に、である。王子が初夜を拒否すればその時点で王子は断種され廃嫡後幽閉。その後適当なところで病死させられるはず。

 お相手様が大人しく囲われているのなら、表舞台には立つことは無いけれど愛妾として地位が与えられて愛妾予算内ならそれなりの生活も出来る。この国や周辺は基本的に一夫一妻。子が産めない妃だった場合に愛妾を迎えることが出来る。つまり私は子が出来ない妃という立場で、お相手様が子を産むことを望まれるわけだ。

 でも排除されたくなければこれを受け入れるしか道はない。

 排除されるということは、平民でも下位貴族の令嬢でも騒乱罪(国を乱そうとした罪)として裁判にかけられ、処刑か終生牢に入っているか、というところ。まぁ排除される未来を知ったら囲われる道を取るだろうね。

 ……王命ってこれくらい重たいもの、なのよね。物語で貴族が一堂に会した場所で婚約破棄を告げたから、破棄を認める。……なんてあるけれど、実際にはそんなことがあったとしても、無かったことにされてしまう。だって王子の発言と国王の発言ならば国王の発言が上だもの。国王がそんなことは無かったと言えば、無かったことになるのよ。

 つまり、私と第一王子殿下との婚約が“王命”である以上、解消も破棄も有り得ない。

 どうしても無かったことにするのなら、私が死ぬくらいよね。私が死ねば王命は無くなる。公爵家から除籍されて平民になりました、程度なんて無かったことにされてしまうから、王命を覆すのは死ぬくらいしかない。あとは第一王子殿下が死ぬか廃嫡されるか、だと思うわ。さすがにあちらが廃嫡というのは難しいし、死んで欲しいとまでは思っていないから、殿下の方に王命を覆す何かがあることは期待出来ない。

 “レバーム公爵家”の私が死ねば……言い換えればレバーム公爵家ではない私ならば生きていられる、なんてこともない。本当に私が死んだのか、王家の調査が入っちゃうし。国内に居たら確実に捜索されちゃうし。だって、私の魔力目当てなんだもん。公爵家の後ろ盾も有るにはあるけど、一番の目的は私の魔力と王家の魔力持ちの結婚からの子ども目当てだからね……。

 王命が覆るわけがないよね……。国外に出られれば生きられるだろうけれどお父様の支援無しに国外に出られないし。お父様が介入したら裏でコソコソしていてもバレるし。さすがに師匠や大師匠を巻き込んでまで他国には行けないし。

 つまり、王命が出た時点で私は第一王子殿下と結婚する以外、道が無かったわけで。

 ……ああ、だから、国王陛下は五歳の頃の私と誓約を交わさずに契約で止めたのか。誓約する必要も無いわよね。私が逃げ出すことは出来ないから。逃げるイコール死だもの。

 ……でも。

 王命ってこういうものだっていうのに、第一王子殿下は全く王命に沿った行動はしていない……あらぁ? してる、わね?

 交わした契約は不履行になったことは無いわ。

 歩み寄る努力はしてもらっていなかったけれど、そこは契約書に記してないし。王命は私と結婚して子を生すこと、だから。私を蔑ろにしていても王命違反では無いわ。契約書に沿わない行動でもないから、処罰対象にもならないし。

 ……つまり、第一王子殿下も“王命”の怖さをきちんと理解しているわけよね。

 その上で今まで、私に対してああいう態度を取っていたって、やっぱり殿下の意思よねぇ。

 ……となると。この手紙、本当に殿下の直筆、つまり殿下の意思なのかしら?

 考え込む私をお母様が観察するように見ていたことに、私は気づかなかった。


 コンコン


 そして私が我に返ったのは、ドアをノックされた音によって、だった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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