ろく。
「陛下。最後の条件です。歩み寄る努力をお互いにすることは必要だと思います」
「それは、そうだ」
「私だけでなく、殿下も、ですよね」
「当然だ」
チラリと殿下を見るけど、話を聞いているのかどうか。それとも理解出来ていないのかな。兎に角、陛下からは互いに歩み寄る努力が必要、という言質を取った。問題はその先よ。
「では、具体的なこととして。互いの誕生日に贈り物をする。これはいいでしょうか」
「うむ」
「その際に会う必要は無い。これは?」
「病に罹った以外は有り得ない」
「という事は、私の誕生日パーティーに殿下を招待する、ということですね?」
「婚約者だから当然だろう。セスターが病以外で行かない選択肢は無い」
「畏まりました。では、贈り物は誕生日のみ、で構わないでしょうか」
陛下が少し言葉を詰まらせた。どういう意味なのか理解出来ないのでしょうね。
「殿下は私が嫌いなご様子。嫌いな者との婚約は苦痛でしょう。ですから、せめて嫌いな私からの贈り物は誕生日だけの方がいいのではないか、と考えました。手紙も同じです。嫌いな私からの手紙は読みたくないでしょうから、誕生日の贈り物をするのにお会いするわけですから、手紙は無しで良いかと思います。また年に二回、互いの誕生日に会うのですから、それ以外の交流は無しでいいと思います。いかがでしょうか」
「成る程。セスターの気持ちに寄り添っている……ように見せかけてそなたも会わずに済む、ということか。だがそれはならぬ。あまりにも交流が無くては歩み寄る努力にも至らない」
まぁ、そう仰るだろうことは予想してました。だからこそ、最初から最低限の交流を持ち出したのですから。これで私がこれ以上は無理ですよ、って限度を切ればいいんです。……上手く交渉出来るとは思いませんけれど。
「畏まりました。では、半年に一度交流日を設けるということにして頂けますでしょうか」
「それも少ない。一ヶ月に一度、だ。妃教育を受けてもらうために登城してもらうのだから、一ヶ月に一度でも少ないくらいだろう」
「恐れながら陛下。私の言葉を理解する能力は我が家でしか発揮出来ません」
「……は?」
あ、そうか。その話もしていませんでしたね。父はきっと陛下に私のことを詳しくは話していなかったでしょうから。
「ああ、陛下にお話をしていませんでしたね。ポリーナは王都にある我が家を出ることは殆ど有りませんが屋敷内の庭で本を読んでも理解出来ない、と。実際に何度も試しています。例えば大人が読む哲学書を屋敷内では読めるのに、庭で読んでみるように促すと文字そのものが読めませんでした。ただ、一度読んだものは覚えていますから屋敷内で読んだ本を庭で暗誦するといったことも出来ます。地形図を屋敷内で見ても理解出来ないことも把握済みです。庭で計算は出来ても五歳が出来る計算くらいで、それは屋敷内でも変わりません。外国語を庭で覚えようとしても覚えられませんが、屋敷内で覚えたのなら庭でも外国語の会話は出来ます。様々な分野の家庭教師に多額の口止め料を支払い、口の固い者を選んで行ってますので、家庭教師と信用出来る使用人は知っています」
陛下の疑問に父が細かく説明する。
「つまり、妃教育も屋敷内で行わないと覚えられないと? そんなことがあるものか!」
まぁ信じられないですよね。
「では、実際に試して頂けば分かるのではないでしょうか。私もポリーナを外に出す機会が無かったものですから、屋敷内ではなくても建物の中なら発揮出来るのか、知りたいとは思っていますから」
あ……。父よ、嘘を吐きましたね。陛下に認めさせるためなのでしょうけど。確かに私は我が家から出ることは殆ど有りませんけど、二度、領地にて隠居生活を送っている父方の祖父母と母方の祖父母の屋敷を訪れて試したじゃないですか!
結果として、私は王都内にあるレバーム公爵家の屋敷内でしか、理解出来ないって全くもってよく分からない能力だと判明したじゃないですか!
まぁ陛下を納得させないといけないのでしょうから実験には甘んじて協力しますけど……。
私が辞書を読んで理解していることが、実験に影響しなければいいなぁ……。
「うむ。では、その試しの結果によって、妃教育を考えねばならないから先に行うとしよう」
という、陛下のお声がかりで簡単な問題だけど、私が知らなそうな王家の歴史を教わります。……王家の歴史書には載ってなかった内容なのは確かですが、陛下から直接話を聞かされても耳から耳へと流れてしまいまして、覚えられません。
陛下に今、話したことを話してみよ、と言われましたが「覚えてません」 としか言えません。
嘘偽りを申すと罰を与える、と言われましたが、罰を与えられても覚えられません。罰ってなんだろうと思ったら、目の前のお菓子(もうクッキーとかパサパサを通り越して固くなっていると思いますけど)が食べられないそうです。
それでも覚えてません、と言ったらお菓子を目の前で片付けられました。
「ああ、お菓子……」
さようなら……と呟いて片付けられたお菓子を見送りました。陛下が食べたいなら、覚えたことを話してみよ、と命じましたけど、だから、覚えていないです。としか答えられません。だって本当に覚えていないのですから。
「ううむ……。これは本当に、覚えられないようだ。併しまだ分からん。今日が調子悪いのかも知れぬ。三日毎に登城し、妃教育を受けよ。十回行っても覚えられなかった場合、公爵家に教師を向ける。それで覚えられるようなら話を信じよう」
ということで、暫く妃教育を王城で受けることが決まりました。まぁ信じられないのも仕方ないですものね。諦めます。
さて、そんなわけで最後の条件は、婚約者として互いの誕生日に贈り物をする。その日はお互いに会うことにする。妃教育で登城するのなら登城した日は全て交流日とする。妃教育を受けるのに登城しないのであれば、三ヶ月に一度は交流日として場を設ける。
という事に決まりました。
それを婚姻式の一年前まで続けるそうです。一年前になると婚姻式の準備で顔を合わせる機会が多くなるから不要だろう、とのことです。
で。
婚姻式の年齢は、やっぱり私の成人年齢である十八歳だそう。十二年間、三ヶ月に一度は交流をして誕生日に顔を合わせる、と。
そこまでやっても歩み寄れなかったらどうするんでしょうかね。
まぁそうしたら子どもを三人産んで離婚するか、一年間出来ないことを祈って離婚ですかね。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




