さん。
大きな溜め息を一つついた私を、パッドリーは困ったように見て。何か言おうとしたのだろう、口を開けたところで執事が大変恐縮ですが、と現れた。
「どうかしたか」
パッドリーが尋ねる。
「第一王子殿下がいらっしゃいました」
ああ、会いたくない人が来てしまった、ともう一度息を吐き出して表情を切り替える。
「さすが姉上です。筆頭公爵家のレバーム嬢の仮面を上手く被れていますよ」
パッドリーが苦笑しながらそれでも淑女の仮面を被った私を煽ててくれる。それから師匠の代わりとばかりに玄関ポーチまでエスコートを申し出てくれた。我が家にいらっしゃる度にサロンか応接室か庭に茶席を準備して案内しようと執事が試みていることを知っている。
毎年毎年断られることは承知の上でそれでも私の婚約者であり王族だから。でも……二年前、私が陛下から十五歳の誕生日を迎えてからは公務に出席するように言われた時、お父様が決められた。
「ならば、ポリーナが十五歳を迎える誕生日までに殿下からの歩み寄りが無かったら、茶席など準備せずに殿下が望むように玄関ポーチで応対してそのまま帰ってもらえば良い」
これにはさすがに執事も拙いと思ったのか、お父様を止める。
「旦那様、あんなのでも一応第一王子です。それは拙くないですか」
執事の本音が丸出しだったけど。
あんなのでも一応って……間違いなく第一王子殿下よ、と内心で突っ込むだけに止めたのは、お父様が
「構わん。何故こちらだけが毎回折れねばならんのだ」
と不機嫌だったから。まぁその通りなのですが執事としては止める必要があった、という事で。でもその執事も「確かにその通りですね」とアッサリお父様に恭順の意を示しているから、まぁ内心はお察しだったわけで。
そんなわけで今年は、私の誕生日のいつ頃現れるのか分からないまま、その上プレゼントを渡して来るなりさっさと帰ると分かっていても茶席を準備していた去年までとは違い、最初から茶席は準備していない。
お父様の方針であり、お母様もパッドリーも師匠も大賛成の上、我が家に仕える使用人達も大賛成なので、玄関ポーチには執事と私とエミルが殿下をお迎えして、やや離れた位置からお母様とパッドリーが私達の様子を見守るという形になった。
執事が従僕に合図をして玄関のドアを開け、殿下が中に入って来るのを頭を下げてお迎えする。
「本日はお越し頂きましてありがとうございます」
足が止まったのを目で確認してそのように口上を述べて頭を上げると、去年までなら直ぐに手を出してプレゼントを渡して来たのに、今年はその素振りが無い。どうしようか無言でずっと殿下付きである侍従に目をやれば、侍従も戸惑った表情を浮かべた。……どうやら彼にも読めない態度を取っているらしい。
侍従が戸惑った表情を消して咳払いをすると、殿下はハッとした顔をして、何かを堪えるような表情をしてから、やっぱり無言でプレゼントを差し出して来た。私は一応「ありがとうございます」と心など全く篭っていない口だけのお礼を述べてエミルにそのプレゼントを託すと、そのまま頭を下げた。これにて私の誕生日における婚約者である殿下との交流は終わりである。
これが交流会だったら出迎えの挨拶をした後、嫌そうな顔で案内された茶席に着いて無言でお茶を一杯飲んで帰るのが流れ。
判を押したよう、という表現そのもののような毎年変わらない遣り取りをする殿下と私。自分で言うのもなんだけど此処まで同じことの繰り返しが出来るのはある意味凄いことじゃないかな、なんて思ってしまう。
そうして立ち去る殿下の足が玄関のドアの向こうに行ったのを見届けて頭を上げた私は、従僕がドアを閉めたのを確認するより先にエミルに視線を向けて預けたプレゼントをその場でお母様とパッドリーと確認するように開けた。
ーー今年も、判を押したように毎年同じな白いリボン型の髪飾り。
「ここまで来ると本当に私に興味が無いだけでなく同じことを繰り返さないと落ち着かないという殿下側の問題があるのかしらね」
私の溜め息混じりの言葉に、お母様が嘲笑う。
「ポリーナも我が家も一応第一王子の殿下には必要が無いのでしょうよ」
一応箱の隅々まで確認してメッセージカードみたいな物を探し、やっぱり無いことが分かって、エミルにプレゼントをクローゼットの中に入れておくように頼んだ。
何とか今年も憂鬱な時間が終わって後は食事会を楽しむだけ。……その後のことは、明日以降に考える事にした。
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