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に。

 そんな私たちだがこれでも婚約が無くなることは当然無い。無いったら無い。お父様もお母様も五歳で結ばれた婚約のあの日の殿下の暴言からずっと私の味方。十二歳までは殿下に関することになるとずっと怒ってくれていたのだけど、さすがにこんなに怒りを持続されてしまうと、お父様とお母様のお身体に障りが出ないか心配になってしまって、あまり怒り続けなくていいです、と宥めた。あれからもう三年か。尚、この三年で当主教育が少しずつ進んで十歳となる現在では、急激に大人びた思考に至ることが垣間見えている弟のパッドリーことパッディですが、さすがに姉様姉様とくっついて回ることは無くなってしまったものの、シスコン気味に成長しております。いえ、私もブラコンですけどね。


「姉上、支度は進んでいらっしゃいますか」


 誕生日でも私の意見を聞き入れて今年も生誕パーティーはしない方針の我が家では、その代わりに近しい親戚や友人を招いての昼食時の食事会を開いてくれるので、私は今、エミルを中心とした侍女達に支度を整えてもらっていた。パーティーだと豪華にしなきゃならないし、親しくなくても客を招かないといけないので、第一王子殿下の婚約者という地位を狙う家を招いてゴタゴタすることを避けたいし、治療魔法士として活動していることから、専属の治療魔法士契約を結ぼうと企む家を遠ざけたいし、でパーティーは開催せず、食事会に留めている。

 その支度の合間に様子を見に来てくれたのが弟のパッディ。

 満面の笑みを浮かべることもなく、常に無表情に近い顔を見せるパッディは公爵家の跡取りとして順調に成長している。家族やウチの使用人の前では時折表情を綻ばせてくれるので、そんな所はまだまだ可愛いと思える弟は、私と殿下の婚約者としては最低限過ぎる交流やほぼ無言のやり取りを見て、静かに怒っていることを知っている。

 いくら王命による婚約でもこんな関係では姉上が可哀想だ、とお父様に抗議してくれたらしい。お父様からこっそり聞いている。それでも婚約が無くならないことは理解しているパッディ。公爵家の跡取りと言っても自分は無力だ、と嘆いたともお父様は教えてくれた。


「無力なんかじゃないよ、気持ちが嬉しいよ」


 そう言ってあげたいけれど、これは男同士の秘密の話し合い、らしいので(私とお母様に喋ってしまったら秘密ではないよ、お父様)私は知らないことになっているので、言えないけれど。弟が優しい子のままであることは、とても嬉しい。

 さておき。


「支度は進んでいるわ。ありがとう。パッディ、師匠は来たかしら」


「いえ、まだですね」


 そう、と肩を落とす。毎年必ず私の誕生日には側に居てくれる師匠は、今年は間に合わないかもしれないという手紙をもらっていた。師匠の師匠が他国からこの国へ来る連絡を受けたらしい。なんでも師匠の師匠がこの国に滞在中は、師匠は弟子としてその身の回りの世話を仰せつかるらしくて、その準備で私の誕生日は会いに行けるかどうか分からない。行けても食事会に間に合わないかもしれない、とのことだった。

 誕生日パーティーを開かない理由の一つとして第一王子殿下を招きたくないから、というものがあるが、それでも必ず会いに来ることは婚約した時の契約がある以上、分かっている。もう何も期待していないので顔を合わせても何とも思わないけれど、それでも心配して側に居てくれる師匠に救われていたのだ、と手紙をもらって初めて気づいた。

 だからやっぱり来られないのだろうと知ると、ちょっと落ち込む。

 それに今年は、十五歳の誕生日なのだ。

 尚更師匠に側に居て欲しかった。


「姉上、十五歳の誕生日です。そんなに落ち込んだ顔をなさらずに」


「さっき、エミルにも言われたわ。……だけど、到頭十五歳を迎えてしまった……と考えると、憂鬱になってしまって」


「それは……分かりますけれど」


 パッドリーが困った、という表情で私を宥める。私が今日を迎えることに憂鬱を覚えているのは、事情がある。

 王子妃教育を終わらせてしまっている私は、二年前、ブランカが私付きの侍女を辞めた年に、国王陛下から十五歳になったら公務を手伝うよう命じられたから、だった。

 第一王子殿下の婚約者として公務に顔を出すように、という王命には逆らえない。

 だから、十五歳を迎えたくなかった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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