なな。
「いや、だが、その可能性はあるのか。考えてみれば私たちは生まれた時に魔力の量が決まる、と思っているだけだ。それは教会で判定されるからであって、母親の胎内で身体が成長していく際に魔力の器も成長していくと考えれば生まれる前には量が決まるな」
さすがお父様。
読んだ記憶の無い本と同じ考えに到達されるなんて素晴らしいです。
「正しくそのようなことが明記されておりました。ただ」
「ただ?」
「おそらく仮説であって検証も出来ないし、検証出来るだけの人も見つからなかったのかもしれないのでしょうが」
曖昧な言い方になってしまうのは仕方ない。
検証出来るだけの人を集めるのは大変だろうし、自分が実験の対象になるのは嫌な人だっているだろうから。
仮説を証明する、というのは大変なことだ。
膨大なデータを作成したり裏付け証言をもらったり客観的に物を見ることをしたり……様々にやることがあるのだから。
「ふむ。仮説の域を超えないということか」
「はい。その書籍を書いたのはハイドという人みたいですが、おそらく魔法士なのでしょう。魔法士としての推測だと思いますが、母親の胎内で子が成長するように魔力量を決める器も成長する。その成長の一環として両親の愛情が物を言う、と有ります」
お父様もお母様も言葉を失ったように口を開閉させるだけ。
まさか親の愛情が人の体内の魔力を溜める器に影響するなんて誰も思わない。
……ただ、私とずっと静かに話を聞いている弟に限って言えば、確かに生まれた時の魔力判定でお父様とお母様より魔力が多い、と判定されている。
つまり私と弟に関しては、この仮説が正しい、と証明出来るだろう。だって両親の愛情をたっぷり貰っている自覚はあるので。
「その、仮説でいくと……ああ、間違いではない、かもしれんな。私の両親は政略結婚だった。父は不貞を働くことは無かったが……公爵家の繁栄にしか興味の無い人であったから、母を顧みることが無かったし、私のことも跡取りという駒でしか見ておらず、愛情があるとは思わなかった。ただ母上はそんな私に母の愛を教えてくれたから婚約し、妻を迎えるに辺り夫婦の愛情や親子の愛情を注ぐことに恐れを抱かなかった。母上の愛情を知らなければ妻を愛すること、子どもを愛することが分からなかったかもしれない」
お父様が納得だ、という声音を響かせながら告げた祖父母の話に私は驚いた。
「えっ、あのお祖父様が、ですか?」
私と弟を可愛がってくれる祖父母……父の両親しか知らないから、お父様がそんな過去をお持ちだとは思いませんでした。
「うむ。あの父だ。だから私の魔力量は母上より多く父上より少ないと魔力判定を受けている。父上が変わったのは、私が結婚して公爵位を継いだ後だ。重責から放たれた父上は、母上と改めて生きて行くことになった時、実は母上から離縁を申し込まれてな」
……さすがの衝撃で私の方が言葉を失いました。
「あの時は大変でしたわね……」
そうか、お母様が結婚された後だから、お母様はその話をご存知なのか。
お母様がしみじみと仰るのでレバーム前公爵夫妻の離縁話は、余程大変だったと思われますね。
弟も興味津々の様子でお母様とお父様の顔を交互に見てますが、私も興味津々です。
「ああ。離縁を突き付けた母上を見て、父上は衝撃を受けて、初めて自分は自分なりに妻を大切に思っていたことに気付いた父上は、毎日母上におはようからおやすみまで挨拶をきちんと行い、母上が庭師と共に育てた花を母上と共に散歩しながら愛でることにし、毎日今まで顧みずに済まなかったと謝っていたからな……。母上が離縁より先に新婚である私たちの邪魔になるから、領地に引っ込みましょう、と父上を連れ去らなかったら、私たちは父上達のそんな姿を毎日見る新婚生活を送っていただろうな。私の結婚と同時に公爵位の継承が行われたから、私たちも新婚生活を送るより前に公爵と夫人の仕事で忙し過ぎたからな……」
「えっ、何その過酷な新婚生活」
思わずお父様にツッコミを入れてしまいました。
「そう思うでしょう? でもレバーム公爵家は代々跡継ぎの結婚と同時に爵位の継承を行ってきたから誰もそれに疑問を持たなかったのよね。でも、義母様はそのことに疑問を抱いていたようで、私に、結婚と同時に爵位が継承されて夫人としての仕事が大変になるから、婚約解消したらどうか、と何度も説得されたのよ」
お母様のこのお話に私も弟もギョッとしたけれど、一番驚いたのはお父様で、「えっ……」と言葉を発したまま、思考停止状態になってしまわれた。
……コレ、話が進まない気がするわ。
ーーというか。
私の社交デビューの話をしていたんじゃなかったのだった?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




