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弓の紋章師 エドルド



石畳を叩くひづめの音が太鼓のように激しく響く。

風が耳元で絶え間なく唸り声をあげる。周囲の景色はまるで突風がふき飛ばす水しぶきのように後ろに散っていく。

俺はエドルドの腰にしがみつきながら、声を張り上げた。



「さっきは、わるかった」



しがみつくエドルドの体がかすかに強張るのが分かった。俺は続ける。



「お前を殺しかけちまった」



エドルドは鼻で笑った。



「ふんっ、死なない程度の危機にはなれている。それに、わたしを殺した瞬間、貴様も死んでいただろう。お互い、首の皮一枚でつながっただけだ」



エドルドは手綱を握りなおし、少しだけ肩越しに視線をよこした。



「で、わざわざ、わたしの大馬に乗った理由はなんだ? 謝罪のため、というわけではないだろう」



俺はエドルドの耳元でさけぶ。



「逃げ出した亡者を捕まえる為だ。奴のもつ木剣には亡者の呪いが込められている。木剣に打たれると、みな亡者になっちまうんだ」

「ほっほっほ、なかなかに、おかしな話だ」

「あいつは皆を危険にさらす。あいつを誰もいない場所へ、フラウス円形闘技場へ誘導してくれ!」

「フラウス円形闘技場だと?」

「ああ。今日は閉場されているはずだろ。誰も居ないフラウス円形闘技場へ誘いこめば被害を最小限に食い止められる」



エドルドは冷ややかに前方をにらんだ。



「ふむ、一理ある。しかし、亡者をフラウス円形闘技場に閉じ込めた後、どうするのだ?」

「……うまくいくかわからないが『呪いの剣』には……『呪いの剣』で対抗する」

「なんだそれは。よくわからぬが、勝算があるのか?」

「さぁな、こうなりゃ()るか()るかだ。俺をフラウス円形闘技場の前にあるモンドの石像のところで降ろしてくれ。それと、お前さんの弓の魔術でモンドの石像を破壊してほしい」

「この国の英雄の石像を壊せと? 何かの冗談か?」

「冗談なものか」

「なんとも面白い男よ。何をする気か知らんが、同じ野良の紋章師のよしみだ。手を貸してやろう」



エドルドは、ふと黙り込んだ後、小さくきいた。



「貴様、名は?」

「ああ? こんな時になにいってんだ?」

「何かあった時、貴様、では呼びにくい」

「俺はウルだ。呪いの紋章師、ウル」

「では、ウル。もう一度、首の皮一枚で切り抜けてみせよ」

「けっ、勝手に言ってろ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





フラウス円形闘技場前の大広場には異様な静寂が満ちていた。

まばらに見えるのは鎧姿の衛兵たち。民の姿はあまり見えない。

すでに避難はある程度、済んでいるように見えた。

目の前にそびえたつのは剣闘士モンドの石像だ。

その誇り高き横顔を見上げながら、俺は隣にいるエドルドに視線を向けた。

エドルドは無言でうなずくと弓詞(ノリト)を唱えた。



「出でよ、魔光器」



エドルドの手の中に青白く光る弓矢が浮かび上がる。



【弓の魔術:重砕きの青光矢(グランドバニッシャー)



弦が鳴る。そこから放たれたのは魔力を凝縮させた青い矢。

青白く光る魔術の矢は剣闘士モンドの両の足首を砕いた。

すると、重厚な石の表面にみるみる亀裂が入り、蜘蛛の巣のようにひびが広がる。

石像はあっけなく台座からはがれ、ぐらり、と地に落ちた。

途端、驚くほどのもろさで粉々に砕け散る。



「なんでぇ、こりゃぁ……そりゃ、もろいわけだ」



石像の中は空洞だったのだ。

それを見たエドルドも呆れ声を上げる。



「なんと、表は随分と立派な石像に見えたが……中身はからっぽではないか」

「……英雄なんていうのは、そういうものなのかもな」



俺は散らばった瓦礫の中に一歩踏み込んだ。

粉塵が舞う、その奥。石像の殻の中から現れたのは、黒ずんだ縦長の木箱。



「これか……」



俺は箱のふたを強引にこじ開ける。

悲鳴を上げて、腐りかけた蝶番が剥がれ落ち、蓋はあっけなく開いた。

そこにおさまっていたのは、拍子抜けするほどに質素な一本の剣だった。

鞘はひび割れ、鍔には錆が浮いている。まるで歴史に取り残されたような古びた鉄剣だ。

エドルドがそばにより、その剣を覗き込む。



「ウルよ。この鉄塊(てっかい)がお前の言う『呪いの剣』とやらなのか?」

「だと思うが……俺が想像していたのと、ちょっと違うな。俺が絵画で見たモンドの剣はもっと立派な湾曲刀だったような気がしたが……」



このオンボロの鉄の剣が『カンダタの血吸いの剣』とやらか。

装備するものに人知を超えた力を授け、やがてその体も魂も喰らいつくすような代物だとは到底思えない。

しかし、呪具というものは得てしてそういう外見の物が多いのも事実だ。

俺は木箱のまま呪いの剣を抱え上げた。



「エドルド、俺はフラウス円形闘技場の中で待つ。亡者を誘い込んでくれ」

「やってみよう。闘技場の正門は閉じている。南の裏手にある給排水用の抜け道から行くがいい。案内する」

「わるいな……それにしても……」



エドルドが不思議そうにこちらをみた。



「なんだ?」

「いや、亡者の事だ……おとなしかったのに、なぜいきなり暴れ出したのかと思ってよ」

「わたしが受けた報告では、あるものを見た途端、急に暴れ出したそうだ」

「あるもの?」

「ああ……どうやら、その亡者はサマル家の紋章がお嫌いのようだ。ならば逆手にとって、闘牛の赤い布(ムレ―タ)よろしく、サマル家の紋章でおびき寄せてやろう」





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