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亡者、逃亡



サマル家の威光の為に無理やりモンドに握らせたという呪われた剣。


___『カンダタの血吸いの剣』


それは、モンドにとっては二度と握りたくないであろう代物だ。

そんな呪いの剣を、あろうことか、モンドの石像の中に押し込めるとは何て連中だ。

その話を聞いた瞬間、喉の奥でどす黒い反吐がせりあがる。

俺は思わずぐっと拳をにぎる。



「……お前さんには悪いが……サマル家の祖先ってぇのは、本当に最低な連中だ。ヒトを侮辱するにもほどがあるってもんだ。それともなにか、反逆者であるモンドに対する罰のつもりか?」



ドル・サマルがこちらに顔を向け、何かを言いかけたその時。



ドンッ、ドッ、ドッ!



重厚な扉が慌ただしい勢いで叩かれた。室内の全員がオーク材の古めかしい扉に目をやる。



「サマル様、恐れながら申し上げます。き、緊急事態です」



扉の向こうからの呼びかけに、ドル・サマルが「入れ」と返事をする。

部屋に飛び込んできたのは鎧に身を包んだ若い衛兵だった。

よほどの事があったのか、兜の隙間から見える目は大きく剥かれ、呼吸は乱れている。

ドル・サマルは不機嫌そうに眉根を寄せた。



「いったい、何事だ?」

「あ、いや、あの、しかし……」



衛兵は俺たちの姿を見つけると驚いた様子を見せて、何かをいいあぐねた。

まるで俺たちがいると話しずらい内容でもあるかのような顔だ。

しかしドル・サマルが、気にせず報告してかまわないと伝えると衛兵は息を切らしながら続けた。



「わ、我々が移送中だった例の者が……移送の最中に逃走いたしました」

「なに!? あれだけ万全を期すようにと言ったはずだ!」

「も、申し訳ございません。突如として捕縛の鎖を引きちぎり……」

「何という事だ……」

「現在、重装部隊を編成し確保に努めていますが、とても我々だけでは……紋章師部隊の出動が必要かと」

「エドルドに報告し、すぐに紋章師部隊を向かわせろ。わたしの命令だと伝えれば良い。表にいる紋章師二人も連れていけ」

「はっ!」



衛兵は駆けだした。扉が再び閉まる。

俺は青い顔をしたドル・サマルになんとなくたずねてみた。



「随分とあわてていたが……?」



ドル・サマルは苦い顔をし、白状するように呟いた。



「もはや、お前たちに嘘をついても仕方がない。ここにお前たちを呼んでいる間に……お前たちの棲み処から……亡者を連れ出し、移送中だった」

「な、なんだって!?」

「妙な紋章師がサマル家を嗅ぎまわっているとの情報から、お前たちの所在を突き止め監視していた」

「ちっ、どうして俺たちの居場所を……」

「情報源となる子ネズミはどこにでも潜んでいるものだ」



情報源となる子ネズミ____

その言葉をきいて、俺の脳裏にある一人の男の顔が浮かんだ。

小男のラトゥだ。

ラトゥが述べた『サマル家に直接行かず、宿でゆっくり休み、明日まで待て』というあのセリフ。

あの時、俺は深く考えずにその提案をすんなりと受け入れてしまった。

バンナムからひどい扱いを受けていたラトゥ。その姿を見た時、つい沸き上がった同情心から、奴への警戒心が知らず知らずの間に薄れてしまっていたのかもしれない。



「くそっ! ふざけるなよ! 俺たちがせっかく……!」



あの時の、あのラトゥの言葉は、長旅で疲れていた俺たちを気遣って出たものではなかったのだ。

俺たちをわざと引き留め、一度宿に戻らせ、俺たちの居場所がどこかを探るための罠だったのだ。

俺は思わずテーブルを叩きつけた。立ち上がり、ドル・サマルを睨みつける。

俺はドル・サマルの顔を一発なぐりたい気持ちをぐっとこらえる。

そして、アーシャに目をやる。



「アーシャ。ここで待っていろ」

「え? わ、わたくしも、ともに参ります」

「まともに歩けねぇんだろ」

「でも……」

「とにかく、まってろ」



俺は黙りこんでいるドル・サマルに背を向けると、部屋を飛び出した。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






俺が屋敷の敷地を抜けると、その行く手に開かれた黒い大門。

その先に内地へと続く長い石橋が見えてきた。

橋の前には黒いマントを羽織った一団が大馬に乗り待機していた。



____あれは紋章師の一団か。



その集団の中に、ひときわ目立つ体躯の大馬にまたがっている男が目に入る。

弓の紋章師、エドルドの姿。

どうやら無事だったようだ。

俺に気がついた数名の連中が警戒の色を見せ、手綱を引いてこちらに大馬ごと体を向けた。

しかし、俺はまよわずエドルドへと突き進んだ。



「エドルド! 俺も連れて行ってくれ!」



馬上のエドルドは眉をひそめて俺を見下ろす。

奴の目に困惑の色が浮かぶのも仕方がない。

なにしろ、俺はさっきこいつを殺しかけた男だ。エドルドは短く吐き捨てる。



「ふんっ、このわたしに手を貸せと? 随分と図々しい奴だ」

「ガタガタ抜かすな!」



俺はエドルドのマントをぐっと引っ張り、馬の背のわずかな隙間に強引に飛び乗った。



「な、な、何をする!」

「出発するぞ!!」



俺はエドルド大馬の尻を思いっきりひっぱたいた。

大馬は驚いたように大きくいななき、一気に駆けだした。


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