転7 〈邪神〉だけど、思い出の場所で確かめ合う。
さあ、イチャ♡イチャ♡の数を数えろ!///
────かくて、私たちふたりは、電車の最寄り駅で降りたあと、
思い出の公園へと向かっていた。
ちなみに、ヒメカとは、恋人繋ぎしたままで歩いている。
……ヒメカの手、柔らかいなあ~……うへへヘ。
などと、十数年間の空白を埋めるように、その感触を味わう私だ。
それはさておき。
おばあちゃんの家もある、この街並みは、私にとっては見慣れたものである。
一方、不慣れかと思っていたヒメカの、公園へ向かう足取りは、
確かなものだった。
その迷いのなさは、十年以上も海外に行っていて、この街を離れていたとは
思えない。
「───そっか。ヒメカの家、このへんにあるんだ?」
考えてみれば、当然だ。
そうでなきゃ、十年前に、この公園で私と会えるわけがない。
「………昔はね。今は、別のところに住んでる」
ヒメカの答えに、ふうん?、と納得しかねる私。
それにしたって、ヒメカの歩く道の選び方は、自信にあふれているように
思えたからだった。
「……ヒメカ、ひょっとして、日本に戻ってきてから、あの公園に通ってた?」
歩きながらの私の問いかけに、ヒメカは、照れ笑いを浮かべる。
「うん、実は、時間を見つけたら、行くようにしてたの────あゆちゃんに
会えるかな、って思って」
おいおいおいおいおいおい………やっぱり天使じゃない? この娘。
頬を染めて微笑むヒメカに、またまた見惚れてしまう。
ヒメカって可愛い、私は改めてそう思った。
「そっか。じゃ、私と一緒だ」
「えっ……」
「私もさ、あれからずっと、時間あれば、あの公園に行ってたんだ。
ヒメカに会えるの、期待して」
そう、私はヒメカと約束した日からずっと、公園を定期的に巡回していた。
おばあちゃんの家へ行くのにカコつけたり、ただ純粋に直行したり。
雨の日も、雪の日も、行ってみたことがあったっけ。
そうしていれば、ヒメカとまた会える、と信じて。
………なんか、下手しなくても、ストーカーっぽいな。
自分で自分の偏執気質、じゃなかった、恋心が怖い。
それにしても、ヒメカが日本に帰ってきてからの約一年。
その間で、偶然にでも、公園で会うことができなかったのは、
間が悪かったのか、運がなかったのか。
金髪ヒロインのエロゲのやりすぎで、邪念が高まって、徳が低くなってたかしらん。
そんなバカなことを考えていると、私の手を握るヒメカの力が、少し、緩んだ気がした。
そして、ヒメカは、立ち止まってしまう。
私も何事かと立ち止まって、その顔を見れば、ヒメカは、なんだか、沈痛な
面持ちになっていた。
「……ヒメカ?」
「ごめん────ごめんね、あゆちゃん………」
「えっ。な、なに? どした?」
ヒメカの今にも泣き出しそうな声に、私は慌てて問いかける。
「わたしがちゃんと、いつ日本に帰ってくるか言わなかったから、余計に
あゆちゃんを待たせちゃって────。でも、あの時は、十年以上も
海外にいるなんて、思ってなかったの……本当だよ?」
「あっ。いや、それは仕方ないよ! だから、全然平気! なんなら、
二十年とか、三十年だって、待ってたから!」
慰めるように、早口気味で言いつのった。
でも、実際、一言一句、本当に本気のことである。
たとえ、もし、高校一年生時にヒメカが帰ってこなかったとしても、私は、
公園に通い続けていた。
〈約束〉を交わした、ヒメカと、また会うために。
「────本当に?」
「う、うん、本当」
私の返答に、じっと目を見つめてくるヒメカ。
「………じゃあ、どうしてすぐに、〈約束〉のこと、わたしに言い出してくれなかったの?」
うぅっ!? 痛いところを……!
尻込みしていたというのが率直な事実なんだけれど───仕方ない、
それを、正直に話そう。
「───最初ね、名前を聞く前、学校でヒメカを初めて見た時、直感した。
私と〈約束〉したヒメカだ、って。でも……それを確認するの、怖かったんだ」
「怖かった……?」
「十年も前の〈約束〉だしさ、ヒメカと一緒にいたの、本当に、ほんの
短い間だったし、私が、一方的に大切に想ってるだけだったら、
どうしようか、とか、髪と眼の色と、名前が一緒の別人かも、とか……
そんな風に、いろいろ不安になっちゃって。それに────」
しどろもどろになりつつ、本音を、喉から押し出す。
それから、ヒメカから目をそらして、言った。
「ヒメカ、滅茶苦茶美人になってたし。その、私なんかが、うかつに
話しかけちゃいけない、って思っちゃうくらい」
「なあに、それ」
くすっ、とヒメカは優しげに笑った。
くぁー! そういうとこやぞ! 菩薩微笑や! 好き!
「つまりその……怖じ気づいた、っていうか────うん、結局、やっぱ、
ヒメカと、心の温度差があったら、な、泣いちゃうかも、って。
そう思ったら、怖くなって。〈約束〉のこと、ヒメカのこと、確認するの、できなかった」
言葉の最後になるにつれ、たどたどしく、片言みたいになってしまう。
自分の弱さをさらけだしたのが恥ずかしくて、つい、顔をうつむかせてしまった。
……〈邪神〉覚醒しても、やっぱり私は、自分に自信が持てない、
陰キャぼっち女子なのである。
そう自己嫌悪に陥りそうになっていると、ヒメカが、ぎゅ、と、手を握り直してきた。
「そうだったんだ……じゃあ、わたしも、一緒」
「え……」
ついさきほど、私が言ったようなヒメカの言葉に、顔を上げる。
「────わたしも、学校でひと目見て、あゆちゃんだ、って
わかったけど……わたしのこと、忘れてるのかな、って。あゆちゃん、
自分からは、話しかけてくれなかったし」
「あ、ご、ごめん……」
「それで、わたしも、怖くなってた。もし、〈約束〉のことも忘れちゃってたら、
どうしよう、って、不安で不安で仕方なかったんだよ? あゆちゃんの、
ちゃんとした名前、聞いてなかったし────直接、〈約束〉のこと、訊くに
訊けなかった」
あーっ!? そういやそうだった……!
私が最初、ヒメカに会った時、“あゆ”は愛称だということを、指摘せずに
放置したままだったのが悪い────!
即座に感動の再会に至れなかった原因は、まるまる私のほうにあった!
もぉ~! 当時の私の、馬鹿馬鹿お馬鹿!
「だからね、わたし、卑怯なことしちゃった。初対面のフリして、
あゆちゃんに思い出してもらおう、って、ちょっとずつ話しかけていって。
自分からは、小さな時のこと、〈約束〉のこと、言い出さずに………狡い
女の子でしょ? 天使様なんかじゃないんだよ、わたし」
えへへ、と、ヒメカは、嘘がばれた子供のように笑う。
そんな君は、小悪魔なエンジェル────! 充分に、天使ですとも……!
無言でひとりヒメカに胸をキュンキュンさせていると、ヒメカが、私の機嫌を
うかがうように、瞳をのぞきこんでくる。
「……幻滅した?」
「全然! むしろ逆!」
「えっ」
食い気味に即答した私に、ヒメカは、虚を突かれたような顔をした。
私はヒメカと正面から向かい合って、その両手を、きゅっ、と強く、
でも柔らかく、握る。
「────ありがとう、ヒメカ。……こんな臆病な私を、見捨てずに
いてくれて。それと、〈約束〉を、忘れずにいてくれて。本当、すっごく、
嬉しい………大好き」
“大好き”って、本日何回言うんだ、と思いながらも、ストレートに告げちゃう私。
言われたヒメカは、頬を紅潮させて、はにかんだ。
「見捨てるわけ、ない。〈約束〉を、忘れるわけないよ────あゆちゃん、
わたしも、大好き」
ヒメカは、微笑を浮かべて、そう告げてくる。
「ヒメカ……」
ヒメカの瞳を見れば、潤んでいる感じだし、これは、キスをする流れ……!
あっ、でもここはまだ天下の往来、さすがにJK同士がキスするには、
目立ちすぎる────!
早く公園に行こう、すぐ行こう!と、ヒメカを急かしたくなるも、グッと我慢。
ムードは大事、さっきヒメカに、ちょっと怒られたからね。
「───“本当の本当に、好き”。私がヒメカのこと想う気持ち、“真実の愛”なんだね」
ムードを重視して口にしたのは、ふたりの思い出の中にあるような一節。
それがわかったのか、ヒメカはいっそう嬉しそうに笑って、言葉を返してくる。
「ありがとう。わたしもあゆちゃんのこと、“本当の本当に、好き”、だよ」
なら、次に言うべきことは、決まっていた。
「「私たち、“両想い”だね」」
────お互いに、目を見合わせる。
シンクロ率100%でハモってしまって、驚き喜びワンダフルだった。
うん、つまり、そんな意味不明ワードを思い浮かべてしまうほどに、
滅茶苦茶嬉しい、ってこと!
右手で、ヒメカの左手を、絡め取る。
今度は、私のほうから、恋人繋ぎ。
「ちょっと、公園まで、走っちゃう?……一秒でも早く、ヒメカとキスしたいかな、って」
ヒメカの手を引いて、レッツゴーレッツゴーハリアッハリアッ!
ってゆー旨のことを、婉曲的に提案。
いや、最後のほうは、欲望ド直球だったけれども。
「うん────わたしも、あゆちゃんと、早く、したいな、って」
もじもじと、顔を赤くして、うなずくヒメカ。
はい可愛い~! うちの嫁は、三国一可愛い嫁や……!
「じゃ、行こう!」
「うん……!」
そうして私たちふたりは、走り出した。
運動神経抜群のヒメカは、走るのも当然、速い。
以前の私だったら、足をもつれさせてスッ転んでたかも。
しかし、今の私は、〈邪神〉覚醒済み。
逆に、ヒメカより速く走らないよう、具体的には常人レベルを越えないよう、
気をつけて走らなければならなかった。
それも、運動スペックの低い、陰キャオタクの最速を想定してのことだから、
ちょっと調整が難しい。
まあ、ヒメカと並んで走れるくらいのスピードにしておけば、問題ないかな。
そんな細かい部分で、地味に悪戦苦闘しているうちに、私たちは公園に
たどり着いていた。
────歩道と、設置されている遊具とかは、細々と幾度か
リニューアルされてはいるけれど。
公園の輪郭というか、その全体像は、十年前のあの頃と、まったく変わっていない。
ヒメカと笑い合って、そこからは、ゆっくり歩いていく。
お互いに何も言っていないが、私たちふたりは、示し合わせていたように、
思い出の場所へと向かっていた。
「ここだね」
「うん」
そこは、私が、ヒメカを見つけた場所。
ふたりが出会った、大きな木の下であった。
昔はもっと大きく思えたけれど、今見ると、そうでもない。
まあ、私が成長した、というだけの話なのだろうが。
「あゆちゃん、見て、木の根元」
ヒメカが、恋人繋ぎしてないほうの手、右手で、件の木の根元を指差す。
そこには、クローバーが群生していた。
まさか、私たちがあの時に埋めたから、というわけではないだろうが、
感慨深くなる光景である。
私は、握っている手に軽く力をこめて、ヒメカにうなずいてみせた。
「うん……不思議だよね。こんなにいっぱい────」
「知ってたの?」
「そりゃ、ヒメカと一緒の、“ラッキー”の記念だし。いつもチェックしてた」
照れ笑いを浮かべながら、私はふたりの思い出を口にした。
……ヤバい、顔がめっちゃ熱いんですけど。
私の言葉に、ヒメカは頬を染めて、嬉しそうに微笑んでくれた。
「────じゃあ、あゆちゃん。わたし、クローバーの花言葉、確かめたいな………」
そう言いながら、ヒメカは、さりげなく、髪をかき上げる仕草で、右手を振る。
………!
その時、〈邪神〉としての、私の感覚が、察知してしまった。
ヒメカは今、魔法を使った─────────!
おそらく、〈隠蔽〉と〈遮断〉の魔法……〈人避け〉の、結界魔法だ。
私たちふたりの姿は、結界に隠され、周囲の人間には、感知できないようになったはず。
「でも、その、まわりに他のひと、いるよ……?」
私は、ヒメカの魔法に気づいたことを悟られないよう、そらっとぼけてみせる。
そんな演技をしつつも、本心ではヒメカとキスしたくて、ウズウズの、
ドキドキなんだけれども。
大興奮の私の胸中では、同時に、十年前の公園でのことにも、納得がいっていた。
おばあちゃんがヒメカの姿を目にしなかったのも、遊ぶ時に公園の人気がなかったのも、ヒメカの魔法によるものだったのだろう。
「───わたしは、見られてもいいよ?」
ヒメカは私の正面に向き直って、私を見つめてきた。
その声音は、結界魔法がなくても、同じことを言っていそうな、
本気の響きに満ちている。
これに応えなきゃ、漢がすたるな。
いや、当方、女子ですけど!
「……じゃ、じゃあ、ヒメカ─────」
小さく咳払いなどし、私は背負っていた鞄を、思い出の木の下に降ろす。
すると、ヒメカも察したのか、自分の鞄を、私の鞄のそばに降ろした。
私は、おずおずと、ヒメカの両手を取り、その手の平を合わせる。
ひとつ、深呼吸。
それから、ヒメカの目を見つめて、ただただ、思ったこと、想い続けていたこと、
願っていることを、素直に口にした。
「────十年経ったけど、私はヒメカのこと、今も、大好きです。
………あの時と気持ちが変わってないなら、どうか私と、結婚してください」
「………変わらないよ。変わるわけ、ない」
頬を染めたヒメカが、そう言って、微笑む。
「わたしも、あゆちゃんが、大好きです────あの時と、
気持ちが変わってないから、わたしを、あゆちゃんのお嫁さんにしてください」
そして、ヒメカは、目を閉じながら、顔を近づけてきた。
ちょっと背伸びして、私も、目を閉じる。
唇を重ねたのは、どちらが先だったか。
────────────まあ、そういうのは、どうでもよく。
息するのも忘れて、ヒメカの感触を、心に刻み込む私。
永遠に続いてほしい、と思うこの口づけは、ヒメカがゆっくりと唇を放すことで、
終わってしまった。
「あゆちゃん……? 泣いてるの……?」
「へ───」
ヒメカの言葉に、私は、間の抜けた声を出してしまう。
それからようやく、自分の頬を伝っている涙に気づいた。
自分でも知らないうちに、泣いてしまっていたようである。
「あ、は、な、なんだろね。嬉しすぎて、幸せすぎて、なんか、泣いちゃったみたい」
涙をぬぐいながら、照れ隠しで、笑ってみせた。
「だってほら、ほんの短い間しか会ってなくて、子供の時の〈約束〉で……
私だけが、ひとりよがりで、勝手に好きなだけだったら、ヒメカには、
迷惑なんじゃないか、って不安に思ってたとこもあったし。私は私で、
チビの、パッとしない、陰キャ女子だしで────」
そこまで言ったところで、ヒメカに抱きしめられた。
「────あ、あ、ヒ、ヒメカ……?」
「……わたしの大好きなひとのことを、そんな風に言わないで」
静かに、そう言われた。
それでまた、ウルッと泣いてしまう。
「あゆちゃんは知らなかっただろうけど、〈約束〉をしたあの日───わたしは
あゆちゃんに、救われたんだよ」
─────救われた? ヒメカが? 私に?
「わ、私、なにもしてないよ?」
怒濤の勢いで結婚を迫ったり、チューはしたけども。
私がヒメカにしてあげた、救ってあげたなんてことは、記憶にない。
「……わたしを、大好きだ、って。大切な女の子だ、って。そう言って、抱きしめてくれた」
「それは、だって、本当にそう思ってたから────」
「うん……それが、嬉しかった。わたしの人生で、初めてのことだったから」
そう言って、ヒメカは目を閉じて、自分のおでこを、私の頭にそっと当ててきた。
「わたしと一緒にいると幸せな気持ちになる、って、あゆちゃんは
言ってくれたよね。それは、わたしも。誰かと一緒にて、幸せな気持ちに
なったのは、あゆちゃんが、初めてだったんだよ」
「ヒメカ………」
────私たちは、また、キスをした。
今度は、最初よりも長く、情熱的に。
互いに体を抱きしめて、心ごと全部、求めるように。
「………会えなかった十年間ぶん、幸せにしてね、あゆちゃん」
唇を離したあと、ほう───と、わずかに息をついて、ヒメカはそう微笑んだ。
バッカおめえ、そりゃこっちの台詞だっつーの!
反射的にそう思ったけれど、違う、そうじゃない。
ムード重視、あくまでもロマンティック方向で……!
「十年どころか、これからずっと幸せにするから──────ずっと一緒にいて、ヒメカ」
あああああああああああああああああ! “ずっと”がカブった……!
でも陰キャ女子的にとっさに言えたのは、これが精一杯───────!
だけどヒメカは、冴えない私の言葉に、頬を染めて、また微笑んでくれた。
「うん……ずっと、一緒にいるよ。わたしは、あゆちゃんのお嫁さんなんだから」
──────────────はぁ~……もうすでに、その一言で、幸せ。
〈邪神〉クトゥルフ本体が、なにを目論んで〈分霊体〉を人間に
転生させたか、いまだにまったく思い出せないけれど。
まず、覚醒した手始め、私の人生の行動指針は、明確に定まった。
ヒメカが生きてる限り、この地球と人類は、滅ぼすまい。
そう堅く、心の中で誓っちゃう私だった。
………………まあ、今は、そんなことより。
「ごめん、ヒメカ。もう一回、キスしたい」
欲望ドストレートに、ワンモアプリーズ、さらにおかわりを所望しちゃう私である。
「もう、あゆちゃん───────わたしも、したかったから、いいけど……」
ほんのり不満テイストが浮かんでいたけれど、頬を紅く染めながら、了承してくれるヒメカ。
………そのあと、一回じゃ済まず、何度もキスしてしまったり。
時間が許すかぎり、その場で思う存分イチャイチャした私たちであった───────。
評価ポイント、本当にありがとうございます♪もっとイチャ♡イチャ♡させますのでよろしくお願いします☆(*´Д`*)




