転6 〈邪神〉だけど、さらに過去をプレイバック、そして“再会”。
回想終わりで、イチャ♡イチャ♡カウントダウンSTART!(゜∀゜)
ヒメカが、ケッコンを了承してくれた。
私は、舞い上がって、とりあえず、すぐさまチューなどした。
……無理矢理じゃないよ? ちゃんと『チューしたい』って言って、
合意を得たよ?
なんか、変態親父が言い訳してるように、自分でも思えるけれども。
────ヒメカが、泣き笑いで頬を染めて、うなずいてくれたの、
かわいかったなあ………。
………さて、キスを済ませ、互いに笑い合ったのも束の間。
ヒメカは、にわかに暗い表情を浮かべた。
『────でも………ごめんね、あゆちゃん。わたし……わたしね───』
『ヒメカ……?』
『……わたし、がいこくにいかなくちゃいけないの』
『えっ────』
幸せの絶頂から一転。
ヒメカの一言で、幼い私は、絶望の底に叩き落とされた。
『な、なんで───わたしと、ケッコンしてくれるんじゃないの……?』
話が違うとばかりに、よろよろとヒメカに問いすがる私。
絵本(の話をごちゃまぜにした、私の思いこみ)どおりに、結婚して、秘密を守れば、ずっと一緒にいられるはずなのに、と。
今ならば、「誰もそんなこと言ってねえだろ!」と即ツッコミ事案だ。
『ケッコンは、する。あゆちゃんと、ぜったい』
力強く言って、ぎゅっ、と私の両手を握ってきたヒメカ。
お、おう……という感じで、言い出しっぺの幼い私のほうが一瞬、気圧されたほどの意気込みであった。
『………でも、おうちのことで、しかたがないの。どうしても、いかなくちゃ、
いけないの』
『ヒメカ……やだ、やだよぅ、いっちゃ、やだ────』
私は、ボロボロと泣き出してしまった。
そんな私を、ヒメカは優しく抱きしめてきた。
『うん───わたしも、あゆちゃんとはなればなれになるのは、イヤ………』
『────ヒメカ………』
私はそれ以上なにも言えず、そっと抱きしめ返すことしかできなかった。
私たちはしばらく、抱きしめ合ったまま動かなかった。
けれど、いつまでも、そのままではいられない。
ヒメカは、ゆっくりと、体を離して、言った。
『……………でも、かならず、かえってくるから。あゆちゃんと、
ケッコンするために』
『ほんとう? ぜったいだよ?』
『うん! ぜったい! だから………』
ヒメカは、すい、と右手の小指を差し出してきた。
『やくそく、ね。わたしがにほんにかえってきたら、またこのこうえんで、
あゆちゃんとあうの。それから────』
ケッコンしよう、と。
ヒメカは、頬を染めながら、微笑った。
『────うん……!』
小さな私は、大きくうなずいて、小指をヒメカのそれと絡めた。
ヒメカは目を閉じて、囁くように、祈りの言葉を口にした。
『────せかいのはてをこえても、このやくそくを、まもってね』
『……? せかいのはてをこえて? どういういみ?』
首をかしげる私に、ヒメカは目を開けて、また微笑んだ。
『もし、しんじゃったとしても。それでうまれかわって、べつのにんげんになったとしても、っていう、いみだよ』
『……! うん! わかった! せかいのはてをこえても、わたし、ぜったいに
やくそくをまもる……!』
心の底からそう思って、誓いの言葉を口にした私。
私の人生の中において、本当の本当に、純粋な気持ちから祈り、願ったのは、
今のところ、これが最初で最後。
それくらい、ヒメカのことが好き。
ずっと好き。
────そのあと、なにをどう話したかは、よく覚えていない。
でも、ただ、別れ際に。
『じゃあ、またね、あゆちゃん』
ヒメカが、頬に涙を伝わせて微笑んだ、その表情だけは、幼な心にしっかりと焼き付いたままだ。
………そうして、私は、“座敷童”と信じて疑わなかった、〈ヒメカ〉という、
不思議な女の子の背中を見送った。
せめて、そのあとを、追いかけることもできたのかもしれなかった。
けれど、それは、ヒメカを困らせるだけだと、子供心に理解していたのだったか、どうか。
ヒメカの姿が見えなくなって、私はその場で、メタメタに泣き崩れた。
いったいどこに行くの、とか。
いつ、日本に戻ってくるのか、とか。
そもそも、〈ヒメカ〉のフルネームを教えてもらってないし、私の名前も、ちゃんと教えていない。
聞いておくべきだったこと、言っておくべきだったことが、あとからあとから思い浮かんできて。
初めて好きになった子と、もう二度と会えないかもしれないと、不安と喪失感に襲われたのだった。
で、その、地面にへたりこんで泣いているところを、血相変えたおばあちゃんに発見されたわけで。
心配げに家に連れ帰られたあと、お母さんとおばあちゃんから、こっぴどく
怒られた、というオチがつくのだった。
いや、怒られただけじゃなく、心配もされたんだっけ。
〈ヒメカ〉が、私の妄想の産物だと、やんわりと諭されもしたのだった。
(でも、やくそくしたんだもん………!)
ふたりからなんと言われようと、私はヒメカの存在のことで、妥協はしなかった。
だってヒメカは、私の、未来のお嫁さんなんだから。
────と、頑なになってしまったせいで、以降、私の人生で、ひとつ、
弊害というか、問題が起こってしまった。
………なんというか、その。
うん、率直に言うと、私の性癖が、完全に歪んでしまった。
金色の髪の女の子にしか、恋愛感情が、わかなくなってしまったのである。
もっとぶっちゃけると、金髪娘にしか、欲情できない。
イケメン男子? おととい来い。
まあ確かに、オタク女子として、BLモノも嗜みはするけれど、本職は金髪娘。
金髪少女なら、二次元でも三次元でもウェルカム・マイ・シスターだ。
伊達に父親の名を借りて、
同人エロゲ『くっ殺金髪エルフ女騎士:幻想KAN-IN☆エクスタシー大全』を
フルコンプしちゃいない。
閑話休題。
時折、『あれって、やっぱり夢だったのかなあ……』と、自分の記憶を
疑った時も、あったけれど。
バリバリのオタク道まっしぐら女子になってしまい、金髪少女フェチを
こじらせてしまいもしたけれど。
私は、ヒメカのことを、一途にずっと、想い続けてきたのだ。
ほんの数週間、一緒に遊んだだけの女の子に、なにを、と他のひとが聞けば、
笑うかもしれない。
けど、好きなんだから、しょうがないだろうが! 文句あるか!(逆ギレ)
────苑草さんを初めて見たのは、一年生の頃、学校のグラウンドでのこと。
噂の帰国子女が、金髪美少女ということで、胸ときめかせて、その姿を探したものだった。
そして、見つけた。
(ヒメカだ)
一目見て、そう思った。
初めて会った時の、あの天使めいた雰囲気そのままに、美人さんに成長していた。
けれども、幼児の頃のように、その場で息せき切って、駆け寄ることはできなかった。
なぜかって?
だってほら、今や私は、髪をボサのばしの、イケてない陰キャぼっち。
苑草さんの美人オーラの前に、いきなり立ってしまったら、光になって消し飛んでしまう可能性があった。
……いやまあ、それは冗談だけど。
要するに、気後れしてしまったのだ。
それに、彼女が〈ヒメカ〉だと確信はあったけど、確証はなかったし。
苑草さんが転入してきたのは別クラスだったから、ヨソの生徒の私が直で話しかけに行くことは、ハードルが高すぎて無理だった。
────うん、無理、ってことも、なかったんだろうけど。
度胸、勇気、根性……そういうのが、私には、
足りてなかったんだな────────。
さらに言えば、なんと話しかけてよいものやら。
『苑草さん、私、昔、アナタと結婚の約束をした者なんですケド』
……………ないな。
間違っても、この言葉の掛け方は、ない。
秒でそう断念して、私はただ、遠くから彼女を眺めることしかできなかった。
で、結局、苑草さんに挨拶することはおろか、彼女の前に立つことすら
できぬまま、二年生となる。
そして、苑草さんとは、同じクラスの、隣の席になったのだった。
一学期初日には、目も合わせられず、ひとり心臓をドキドキさせながら、
机に向かってうつむく私の姿がありましたとさ。
『潮さん、だったよね? これから一年、よろしくね』
話しかけてきたのは、苑草さんのほうからだった。
『ふぇ…!? あ、う、うん、よ、よろしく……!』
やっと念願の再会が叶った、かもしれないというのに、私はキョドり気味に
そう返すことしかできなかった。
……自分で自分が、情けない────っ!
私の内心の煩悶はさておき、それ以降、苑草さんは、なにかにつけ私に話しかけてきてくれるようになった。
───────でもそれは、ひょっとして。
私を、〈あゆちゃん〉であると、確信してのことではなかろうか。
そう、淡い期待を、抱いてしまう自分がいる。
でも、〈約束〉のことを、確かめるのは、怖い。
もし、苑草さんの名前も髪も、思い出と偶然一致しただけだったら?
もし、そんな〈約束〉なんて知らない or 忘れた、とか言われたら?
家に飛んで(物理的に)帰って、ベッドの上で布団かぶって泣き喚いて、そのまま寝る自信がある。
今ならもれなく〈邪神〉覚醒してるし、もう、絶望して、地球を
滅ぼしちゃうかも。
………〈ヒメカ〉との〈約束〉は、もはやそれほど、私の心の根幹を成す、大事なものなのだ。
だけど、だからこそ、か。
大事で、大切なことだからこそ、このまま苑草さんに、〈約束〉のことを確認しないまま接するのは、不誠実ではないのか。
なによりも、自分の心と、〈ヒメカ〉に対して。
それに、私はもともと、陰キャぼっちのオタク女子。
絶望したところで、失うものとかなかったわ。
なにを怯えて、ためらうことがあっただろう──────────────。
………互いの連絡先を交換したあと、それじゃあ行こう、と、歩き出す苑草さん。
その苑草さんを、私は呼び止める。
「あっ、あのっ、苑草さん……!」
「えっ?」
振り返った苑草さんに、私は、意を決して、口を開いた。
「───苑草さん。わ、私、私ね……ずっと、苑草さんに、確かめたいことが
あったんだ」
「……………うん」
私の言葉に、苑草さんは、正面から向き直ってきた。
その顔からは、微笑みが消え、真剣な眼差しで、こちらを見つめている。
「……私、十年くらい前に、今、苑草さんの言ったのと同じ言葉で、〈約束〉を
した女の子がいて────」
「うん………」
あ、ダメ、やっぱ、怖い。
喉が、急激にカラカラになった気がした。
けど、今さら退くに退けない。
私は、なけなしの勇気を振り絞って、言った。
「私、その女の子が、苑草さんじゃないか、って思ってる」
言い切って、苑草さんの目を、じっと見つめる。
苑草さんは、何も言わずに、私の目を見つめ返してきた。
そのまま、数秒の時が過ぎる。
………えっ、無反応!?
まさか、本当に、別人だったか─────。
そう、落胆して、うつむきかけた時だった。
「────やっと、思い出してくれた? あゆちゃん」
「えっ……」
苑草さんの口元には、柔らかな微笑が浮かんでいた。
「あ、あっ、や、やっぱり、ヒメカ、なの……?」
「そうだよ」
短く言って、苑草さん────ヒメカは、私の右手を、両手で包みこんできた。
「……あゆちゃんのお嫁さんの、ヒメカだよ」
「あ────」
視界が、ぼやける。
胸がいっぱいになって、爆発的に、泣いてしまったらしい。
「ヒメカ……わ、私、会いたかった……ずっと、会いたかったんだよ────」
ヒメカの両手を握り返して、嗚咽まじりに、そんな言葉を絞り出す。
「うん────わたしもずっと、あゆちゃんに、会いたかったよ」
ヒメカは、まなじりに涙を溜めて、そう微笑んできた。
「───ヒメカ、すごく、背、のびたんだね。あの頃より、また、綺麗になって。やっぱり、天使様みたいだよ」
再会してからこっち、思っていたけれど、言えなかったことを、直で口走ってしまう私。
普段の陰キャモードでは口に出せないことも、ヒメカにだけは、言えてしまうみたい。
「……もう。わたしは、普通の女の子だってば」
そう苦笑したあと、ヒメカは、私に顔を近づけてきた。
「普通の女の子で、あゆちゃんのお嫁さんの、ヒメカだよ────大切なこと
なので、二回言いました」
顔を赤くして、照れ笑いで、いたずらっぽく言うヒメカに、私は見惚れてしまう。
はぁ────────────────────好き、大好き。
「ヒメカ……あのね、私────」
「うん……」
「大好き。チューしたい」
「えっ!?」
あっ、しまった!? 本音と欲望をダダ漏れさせちゃった!?
「あ、や、今のは違くて! いや、違わないんだけど、ヒメカが好きすぎて、
思わず言っちゃった、っていうか……!」
焦って、私は、わたわたと取り繕う。
うん、なにも取り繕えないね。
「あゆちゃん───もう~、いいムード、台無しだよ………」
ぷう、と、ヒメカは小さく頬を膨らませて、おかんむりだ。
ううっ、正直すまんかった。
「ご、ごめん……」
「───わたしも、大好きだから、いいけど」
そう言って、くるりと身を躍らせて、私の左隣に回るヒメカ。
それから、自分の右手を、私の左手に絡ませてくる。
あっ、恋人繋ぎ。
「………それと、キスは────ここじゃダメ」
「えっ」
どこならいいの!?、と、がっつきそうになるのを、私は滅茶苦茶必死に
こらえた。
欲望に忠実になりすぎて、ヒメカに嫌われたくはない。
そんな私の耳元に、ヒメカは頬を紅く染めて、囁いてきた。
「再会のキス、するなら、思い出の場所で、したいな─────」
「あっ……」
ふたりの思い出の場所、といったら、ひとつしかない。
カフェ行きは、現時点を以て、即刻中止。
行く先は、私たちが出会って、遊んで、〈約束〉を交わした、あの公園へと、
変更になったのだった。
─────やったぜ………!
こんなイキナリイチャ♡イチャ♡する!?、というくらいイチャ♡イチャ♡させます(≧∀≦)




