鈴木タカシ2
タカシは まだ 幸せな 夢を 見ている!
「先生」
振り返ると、そこには実直な青年が立っていた。
「荷物のことでちょっと、相談があるんスけど」
私はペンを置き、彼と向き合って話そうとした。このまま話すのは体勢的にツラい。
ローラー付きの椅子を座ったままぐるりとまわし、彼と向き合おうとする。その間にからだを影にしてそっと、今書いていた日記を棚に戻す。
「なんだい?なにか問題があったのか」
半ば決めつけるかのような口調。つい先日までなら、半ば、ではなく完全に決めつけていた。
この青年は屈指の、それも世界一のトラブルメーカーなのだ。いや、だったのだ。
いかんな。まだイメージが払拭されていないようだ。
「ちょっと先生、すぐにそうやってオレとなにか問題を結びつけるのはもうやめにしてくれよ」
青年は不満げに言った。しかしその仏頂面にはどこか、喜びを噛み殺しているようにも見える。
「ああわかったよたかし。悪かった。それでなにがあったんだ?素直に言ってみろ」
「おいおい先生!だからやめてくれって!」
私は晴れ晴れしたような心持ちで、彼をからかった。彼も、憑き物が落ちたかのように、それも邪神の呪いから解放されたかのような清々しい顔で笑っている。
あれほどのことを笑いとばせるようになったんだ。
彼はもう、大丈夫だろう。
※※※
彼が相談に来る時はいつも、彼だけでは解決できないほどの事件の時だけだった。
彼は当初、彼の問題全てを一人で背負いこもうとしていた。
だれの迷惑にもかからないように。
呪いがだれかに不利益を、とてつもない不利益を被らせることのないように。
しかし彼の運命は、一人で打ち勝つには強大すぎた。
それでも彼は抵抗した。逆らった。
しかし最後には、このまま一人で戦おうとしても、被害が止まらないだけだと理解した。
自分だけ傷つくだけならば、彼は人に頼ろうとはしなかったであろう(みかねて私たちが助けただろうが)。
しかし、被害は周りに広がった。そしてそれは彼自身だけでは収集がつかなかった。
泣く泣く、彼は人に頼るしかなかったのだ。
「…でこの荷物なんだけど、これは高校の親友から送られてきたものなんだけど…」
私は彼を非難しない。むしろ誇りに思う。
なんたって、笑えるんだから。人に愛されているんだから。
「ああ、わかった。考えてみる。ちょっと一人にさせてくれ」
「はい先生、…え。ちょ、ちょっと先生泣いてる!? どうしたの!?だいじょうぶ!?!?
オレなんか悪いことした!?したんだよね!?!ちょっと首つりながら、腹切って、ギロチンで首と胴を離して谷底に落っこちて最後にバズーカをこれでもかというほど撃たれてくるよ…」
めんどくせえヤツだなぁ相変わらず。一発ひっぱたいてやった。
先の文を終わらせてなかったな。
結論を書こう。
なるほど彼は呪われていたんだ。
しかし彼は幸せになることを諦めなかった。
だから私は彼を不幸だったと決して断じない。
そして断言しよう。
人の人生の目的は幸せになることだ。
彼はそれを今達成しようとしている。
願わくばそれが一過性のものでないことを。
先生いい人ダナー。




