4話 悪魔の視線
「盾を身体ごと構えるんじゃ!そこ、もっと詰めろ!隙間を開けるな!」
副将軍の怒号が響く。
この防衛線を破られれば、魔族が後方の木柵を越え陣中に雪崩込むだろう。
しかし、圧されてばかりではなかった。
荒野の先には、白馬の単騎駆。
「おらぁ!(通用する、魔物達に!やれる!)」
白と赤の魔法気を纏うヒデッカータが、踊るように、舞うように、邪なもの達をなぎ倒す!
元来の鍛え上げた体幹との相乗効果で、多少の接触程度では姿勢が崩れない。
「おおお!!!」
兵士達が歓声を上げて鼓舞する。
たった1人の、非魔法使いの男が一変させた戦況を、老獪な副将軍を含めて誰も見たことがなかった。
「ヒデッカータ将軍!やはり真の勇者正統後継者じゃ!」
武器は持っていない。素手で、素手に纏った魔法気で、魔物達をまるで蒸発させている。
「気が早って上裸で来ちまったが!動きやすくていいゼ!!」
疲れを見せる様子もない。
これが魔法遺具に込められた、かつての勇者が到達した“ゾーン”の残滓——
ひとしきり暴れまわると、空から地上に降り立つ禍々しい邪気。
恐らく、人々が悪魔と形容する類のものだ。
周りの魔物とは、明らかに違う様相に、兵士達も固唾を呑み静まり返る。
彼らは何度となく、魔物の猛威に戦況をひっくり返されては、すんでのところで防衛してきた経験ばかりだった。
「よぉ……いつぞやの奴か?それとも別の奴か?」
魔物の顔は、はっきりとしない。
人をなんとなく象ったような、気体のような固体のような、形容しがたいものだ。
「言葉はわからないか、だったら……拳で聞く」
馬で突進し、右拳の一撃!
ガッ!と顔面?に当たる!
が、受け流される。
そのまま駆け抜ける馬をなだめ、それに正対し直すヒデッカータ。
「硬いな」
全く効いていないわけでは無さそうだが、長期戦となると分が悪い。
(それに……なんだ?……憎しみ?悲しみ?……人の負の感情が伝わってきたような……)
悪魔はヒデッカータの左腕を、吸い込まれるような黒い窪みで見つめている。
「勘……?が鋭いな、これが欲しいのか?」
無言で佇んでいるそれは向きを変え、肉壁を作る兵士達の、さらに奥を眺めている様子。
「こちらに来るぞ!正念場じゃ!」
副将軍は、まだ複数残る魔物達を盾で押さえる兵士に檄を飛ばす。
次の瞬間、ブァッ!と土煙が舞い悪魔が天へ浮遊する。
そして、人間が築いた防壁を嘲笑うように、視線の先へ向かって飛び立って行く。
「ちぃっ!待てっ!!(他の奴らは目の前の兵士とじゃれ合うようだったが!……知能?目的は何だ?どこに行くっ!)」
ヒヒィィン!馬で猛追するヒデッカータ。
「1列開けろ!早う!!」
副将軍の指示に道を開ける盾兵士達。
疾風が通り過ぎると再び固く道を防いだ。
大半の人員が撤退を済ませた静まり返る陣中に、蹄の音が鳴り渡る——




