3話 魔力臨界
タッタッタッ——
「バスティ、どこ?バスティーッ!!」
撤退する魔法砲撃隊員達と逆走し、迎撃に向かう兵士達を避け、混乱する陣中を駆け回るルイーナが、相棒を探している。
バサッ!カサッ!ファサッ!
どのテントにも見当たらない。
ヒヒィィン!カッ、パカッ、カッ——
一頭の馬が風を切って横切る。乗っている人物の左腕には銅の腕輪。
「将軍っ!?(すごい……魔力の気配が鎧みたいに全身を包んで……あれが魔法遺具のホントの効果なの……?)」
試験課題として内部魔力の調整をするにあたり、学長ヨハナから聞きかじってはいたものの、実際に目の当たりにするのは初めてだ。
行き交う兵士に肩を押され、ハッと我に返り捜索続行に駆け出すと、やや大きめなテントが見えた。
副将軍が鎧を着せろと言っていたのを思い出し、そこが屯所と目星を付けた。
「失礼しますっ!バスティッ!」
ブァサッ!と幕を腕で押し開く。
奥には、地面に敷かれた布に横たわる、3つの人影が毛布に包まっている。
「嘘でしょ?もうやられてるっ!?」
確認の為に恐る恐る近づき、顔を覗き込む。
……違った。全員が女性だ。
「し、失礼しましたぁ」
小声で謝罪し、外へ出ようと幕に掛ける手が止まる。
ルイーナは机の医療道具を見て違和感を覚え、思考を整理している。
(ここは救援幕?みんなキレイな顔……)
戦場にいる女性ならば、それは魔法使いの可能性が高い。
言いようのない不安に、3人の元へ戻る。
「あ、あの……またまた失礼しますっ」
声をかけても反応が無く、1人の毛布を捲ってみると魔法衣の破れなども見られない。
だが、顔面は蒼白、汗はびっしょり、呼吸は浅い。
(これって病気?もしかして……!)
身体に触れてみると、内に魔力の素が微かに残っているだけ。
ゾッと背筋が凍り、肩を揺り動かし声を掛ける。
「先輩!私マシルスのルイーナって言います、先輩っ!」
出身施設の懐かしい名に反応するように、意識を取り戻す先輩魔法使い達。
「しっかり!今、回復薬を……」
慌てて麻の肩掛け鞄を探る。
魔法を使えないとはいえ、魔法使いの必需品として、まずは形から入っている。
ハンカチ、ティッシュ、手鏡、櫛。
(無い……バスティに預けた荷物の中だ!馬車に置いてきちゃった……)
ルイーナは推測を巡らせる。
(将軍達が魔族を食い止める間に、大混乱を抜けて馬車の薬を取って、ここに戻る……そんなこと、できるの?)
何が起こるか未知の状況に、即断できない。
バスティの行方と同じく、苦しい境遇で魔法使いとなった彼女達を放っていられない。
どちらを選択するべきなのか。
(あぁ……こんな時に治癒魔法が使えたら……どうしようどうしよう、考えろ、私!)
この場に居合わせたのが未熟な自分であることに、歯痒さと申し訳なさが交互に襲ってくる。
(そもそも……本当に、この二択しかないの?)
自身の思考を疑った、その時——
先輩の肩から伝わる微かな魔力の素と、今朝から半日かけて作業してきた指先に残る感覚に、活路とも賭けとも取れる可能性を見出す。
「手を……繋いでくださいっ」
そう伝えると、横たわる2人の手を握り合わせる。
ルイーナはそれを両手でそっと包み、目を閉じて集中する。
(この魔力の流れ……ここと……ここを……)
確信めいた予感に開く瞳には微かな希望の光。
「ぅぅ……っ」「ん……」
先輩達の顔に血色が戻る。
「ッ……ハァ……キレイな色、ですね……先輩」
彼女達の両手は、薄ピンク色の魔力に包まれている。
まるでお互いを思いやるような、柔らかで温かな、力強い生命の色。
互いの手を媒体に、魔力を巡回させている。
魔法遺具の調整を応用、そして成功させた——
「ありが……とう……ルイーナちゃん」
「そう……あなたが……魔法が出せない子の噂は、マシルスにいる時から聞いてたよ……」
「うん……あなたは、ダメな子なんかじゃない……ヨハナ先生に……抱かれてるみたいだった……」
大好きな恩師に比喩される言葉に、はにかみながら照れ隠しの言葉で応える。
「それだけ話せれば大丈夫そうですね!……撤退の指示が出ています。お城まで手を離さないで。戻ったら魔力回復薬を飲んでください!」
2人は、残る先輩の状態を気にかけながら、撤退と上官への報告の為に、支え合いながらテント
から出ていった。
ルイーナは1人の先輩の前に座ると、覚悟を決める。
彼女の回復薬も空っぽだ。
「先輩……お付き合いくださいっ!」
しっかりと指を絡ませ、掌を合わせ集中する。
手首から指先にかけて、何かを決意したような、真っ赤な魔力に包まれる。
「ぅっ、う……」
先輩とルイーナの魔力循環で、意識が戻る。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「えぇ……ありがとう……ルイーナちゃん……」
先ほどのやりとりが、おぼろげながら聞こえていたようだ。
礼を言いながら、支え合いゆっくりと立ち上がる。
「ハァ……フゥ……先輩、手を離さないで……一緒に、行きましょう……」
そう言うと、テントの幕へ歩を進める。
外は土煙が立ち登る、撤退戦が始まっている——




