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ヴォルダーノ【初心者ファンタジー】  作者: うぶいずむ
エピソード 0

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2/7

  2話 魔法遺具


「撃てっ! 撃て撃て撃てっ!!!」


 国防魔法砲撃隊長の声が荒野に響く。


「隊長! 3名、臨界間際です!」


「前後交代! 急いで!」


 杖から浴びせられる魔法弾の目標は、おびただしい数の魔物の大群。

 たびたび襲来しては、治安を悩ませる存在。


 まばらに現れては都度撃退してきたが、総力である約50名規模での対応は、この国の記録に無い。


 隊長の表情に焦りの色が見える。


「3名は救護幕へ撤退、休め! 体内魔力の素を決して空にするな! 尽きて死ぬ事は許しません!」


 魔法使いである彼女達は、マシルス卒業後この国へ派遣された才能達だ。


 魔法の属性は本人の素質ごとに異なり、内務的に助けとなる者が多数いる。


 国の存亡を直接左右する魔法砲撃隊に所属しているのは、軍事的にとりわけ突出したエリート達なのだ——






「まだかっ! やはりあの小娘にヨハナ様の代理など務まらんのではないかっ?」


 本陣幕では、怒声をまき散らしいきり立つ副将軍を、参謀が諭すようになだめている。


「落ち着いてください。人同士の戦ならともかく魔物相手には、現状に耐えつつ魔法遺具の到着を待つほかありません。」

 

「むぅ……とはいえもう夕暮れが迫っておる! 昼からこの消耗戦では、魔法隊が保たん!」




 このやりとりを割くように、飛び込んで来た伝令兵が急報を上奏する。


「ルイーナ様ご到着! ヒデッカータ将軍にお目通りをとのこと!」


「通せ通せ! すぐに連れて来い!!」


 副将軍は待ってましたとばかりに、机を強く叩き立ち上がる。




 本陣幕の布が捲られ、2人の制服姿の援軍が姿を見せる。


「ハァ、ッフゥ……お待たせ致しました……調整完了の魔法遺具、お届けに上がりました……」


 膝に両手を付き、息が上がっている。


「よくぞ参られました。この机に置いて、お身体をお休めください」


「フゥ、ハァ……承知致しました」


 参謀に促されるとルイーナは麻袋から、魔法遺具を取り出そうと、手を入れ——


「注進! 注進!」


 先ほどとは別の伝令兵が駆け込み、告げる。




「魔法砲撃隊、瓦解! 前線、散り散りに撤退!」




「なんと! 破られたか!」


 眉を吊り上げ目が血走る副将軍に、参謀は素早く次の指示を送る。


「ここからは撤退戦です! 副将軍は兵を率いて退路を確保! お二方は魔法遺具を置いて至急城へ引き返してください!」


「魔法以外に魔物への対抗手段はないのだろう? ならば、肉壁として食い止めてやろう!」


 兵士を並べて堤防とするには、1人でも多く動員する必要がある。


 男子たるもの、なりふり構わず誰彼構わず、国を守る。

 その信条である副将軍の目に、猫の手が留まる。




「お前も来い!」




 後ろの本陣幕に向けられた視線の先をバスティが振り返ると、そこには屈強な男が——


 いない。


「……ぇ?!?」「……ん???」


 それが自分に投げかけられたものだと悟ったバスティと、理解が追いつかないルイーナ。


「おい、お前達!こいつに鎧を着せろ!連れて行け!」


「えーーーっ!!」


 上官ではない無慈悲な宣告に驚きを隠せない。


「その制服! グレンディア生ならば、いずれどこかの国に仕えるのだろう、当然我が国も出資しておる! 存亡の危機じゃ! 今からお前はヤタガルドの兵士じゃ!」


 複数人の兵士がバスティの身体を担ぐ。


「痛いっ! やめてっ!」


 足をバタつかせて必死に抵抗するが、副将軍らと共に本陣幕の外へ連れ出されてしまった。


「バスティッ!?」


 ルイーナはますます状況が飲み込めない。




 その時、奥を仕切るように張られていた、一枚の布が捲られ、1人の男が姿を現した。




「フゥー〜……静まれ……」


 短髪の端正な顔立ち、切れ長の目、整えられた顎髭。

 引き締まった裸の上半身から立ち昇る熱気は、戦に備えて身体を造っていたのだろう。




「ヒデッカータ将軍……」


 参謀が状況整理をしようとするのを遮り一言。


「あれ、どこ?」


 鋭い視線がマシルス生に送られ、右手を差し出し、魔法遺具を催促する。


「っ!!」


 朝、城で国王に謁見した際に隣にいた、刃物のように飄々とした人物とは思えない。重厚な鈍器のような圧に、たじろぐ。


 ルイーナは、手を引っ込めた麻袋を両腕で抱え込み、俯きながら答える。




「わっ……渡せません……渡しませんっ!」




 絞り出す声は、震えていた。


「なにっ!?」「ル、ルイーナ様っ!」


 イラつく将軍と困惑する参謀に、続けて言い放つ、見習い魔法使い。




「……彼を! 解放してください! こんなのおかしいっ!」




 顔を上げるとポニーテールが揺れ、真っ直ぐに将軍の目を睨む。


 本人は無意識なのだろう。

 髪をこの結び方にするのは、真剣に物事に向き合う時だ。




「ルイーナ様っ!あなたはヨハナ様の代理、つまり国賓扱いなのです!」


 参謀は視線の交差点に身体をねじ込み、続ける。


「調整と称して我が国宝を返さないとなると!ただの窃盗とはワケが違いますよっ!」


 正論だ。

 ルイーナは反論が出ず、啖呵を切った手前、次の行動が思い浮かばない。




 その様子を見た将軍が、静かに口を開く。


「ルイーナ代理……君の言う事は、正しい」


「将軍!!」


 ヒデッカータを振り返る参謀。




(えっ? どっち??)

 大人の事情はわからない、と言いたげな心情を悟られないように、表情を崩さず将軍の意見に乗っかるルイーナ。


「……ですよね……」


 公私の区別がつかない自身の発言を、なんとか正当化しなければ、と押し切る。




「副将軍がした事は理に反している。まだ正規の兵士ではない御同行者の安全を、私が約束しよう……ただし、魔物達を退けた後で……だ」




 外の喧騒とはまるで別世界かのように続ける。




「代理……それは我が国の勇者の遺品に、ヨハナ様の魔力が込められているのだろう? 平時では魔除けの国宝、有事では身に着けた正統後継者に、魔物に対抗し得る力を授ける代物……なのだろう?」




 ヒデッカータは将軍職に就いて以後、30年前の魔法遺具の成り立ちを聞き及んでいる様子だ。




「代理はそれを私に託す為に、長時間努力して、約束通りここへ運んでくれたのだろう?……報いる為に信じて待っていたのだ……改めて、未知の力を貸してほしい」




 掴みどころがない。


 ルイーナは、そんな将軍の真摯な言葉にどのように返すべきか戸惑いながら、バスティを助けるその一点に絞った選択を思案する。




「将軍。私は魔法を使えません。魔物を退治できません……」

(ヨハナ先生が国宝調整に来てたら、こんなことにはなってないんだろうな……)




 魔法遺具を入れた、麻袋の口を広げる。




「だから、これで……」

(なんてダメな自分)




 目に涙を溜めながら、それをそっと取り出す。




「みんなを……」

(バスティを)




 悔しさと願いの、複雑な気持ちを込めて——




「っ……助けてっ!」

(これが私なりの答え)



 ——ぶん投げる!




 ゴッ!




 鈍い音がヒデッカータ将軍の胸に、直撃。




(えっ! いまの、取れたよね!?)


 微動だにしない無防備な様子に、困惑。


「おっ……お願いしまーすっ!」


 国賓代理は気まずい笑顔で、言葉と土煙を残し、本陣幕から走り去った。






「お、追えっ、捕らえ『待て』」


 取り巻き兵士達への参謀の指示を、将軍が諫めるように遮る。




「確かに受け取った。彼女の痛みごと、な……」




 右手に収まる魔法遺具の腕輪を左上腕に通す。




 国宝に埋め込まれた玉石が、白と赤の眩い光を放ち、ヒデッカータを包み込む。


「っ!!!お!ぐおぉ!くっ!……」




 一気に汗が噴き出し苦しむヒデッカータの様子を、饒舌な参謀が、唖然とした表情で見守る。




 やがて落ち着くと、切れ長の目を見開き呟く。


「これが……伝説と言われた……ゾーンの感覚か」


 不敵な笑みを浮かべる正統後継者。




「今ならなんでもできる気がしてくるゼ……!」


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