6話 宝石商
城の地下では、ルイーナとバスティが手枷のまま、牢に入れられていた。
静まり返った様子から、他に囚人はいないようだ。薄暗い廊下を柱の松明が照らしている。
スパイ容疑で投獄されてから2時間ほど経ったであろうか、壁を隔てた牢で枯れた声の会話が響いていた。
「もぉ……なんでバルマーロ様は助けてくれないのよっ! 国宝を再調整しろって言ったじゃない」
「弁解の機会も無いとか、ひどいよな……」
「宰相に頭が上がらないんだ。凛々しく見えて、きっとナヨナヨなんだわ! 守護騎士団長じゃなくて、くっころ団長なのよっ!」
「くっころって。この前の小説で覚えた言葉か」
「あの話、真面目と冗談の落差がおもしろかったわ。特に、あの場面なんて……ウッ!」
「ウッ? どうかした? おーいっ!」
ルイーナは突然うずくまり、身体をすぼめた。
(なに、この魔力……相当抑えてるみたいだけど、伝わる……怖いっ……)
宰相の執務室に、1人の商人が招かれていた。
初老の男が、きらびやかな装飾品をあちこちに身に着けている。
「1年……思ったよりも、早かったですね。欲にまみれたこの醜い身体とも、ようやくお別れか」
「それだけ無能ってことヨ〜」
「国庫の金をこちらに流して、美術品を買い取らせる。金は戻るが、美術品を失う。こんなに上手く運ぶとは……お見事です」
そう言うと、男は足を組み替えた。
「あなたが後ろ盾になってくれれば、あの国宝にもう用は無いヨ」
「フフ……破壊が目的じゃない。他国に気づかれず穏便に済めば、それでいいんです」
「将軍の準備もできてるヨ……私達が掌握したあとも、よろしくネ」
「逆らわなければ、ね。山を吹き飛ばして滝を作るなど造作もないと忘れなければ、安泰ですよ」
王宮から遥か北側の国境に、一夜にして突如出現した大滝のことだろうか。
友好とも忠告とも取れる言葉を残し、男は執務室を後にした。
守護騎士団の兵舎に立ち寄り、日中の街警備に異常無し、と夜間隊に申し送ったバルマーロは、その足で城へと歩いていた。
(メレネッシの捕縛をせずに戻れば、宰相は難癖をつけて私を失脚させるだろう……あの2人はご無事だろうか)
宮廷の中庭に差し掛かると、月明かりに微かに反射した違和感に、視線を配った。
(……? 正面奥の木陰に、1。池の茂みに、3。まだいるな……)
停車場には、1台の馬車があった。
(あれは確か、宝石商の……来ているのかっ! 取り引きされるのは恐らく、国宝……)
平静を装うように歩くバルマーロの右肩は、ほんの少しだけ上がっていた。
街の薄暗い地下酒場には、丸テーブルに3つの空き瓶が転がっている。
仲違いの苛立ちごと一気に飲み込んだかのように、表面にはまだ雫が残っていた——




