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【アンソロジスタ・アソート】魔法の卒業試験で国宝の内部魔力を調整して各地を周る話  作者: うぶいずむ
ウルテンジーア王国 編

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 5話 裏と表


 街に火が灯り始め、路地裏にはフードを被る男の姿があった。

 寂れた酒場の裏口で周囲を見回すと、古びた扉をそっと押し開け、地下への階段を降りていった。

 

 左手の親指と薬指を擦り合わせパチンと三度鳴らすと、ほどなくして同じ音が返り、木の扉を開けた。


「お久しぶりです。バルマーロ……さん」


 薄暗い小部屋の隅に、小振りな丸テーブルがひとつ。フェドーラ帽の鍔を左指で上げるメレネッシが腰掛け、泡酒を飲んでいた。


「あまり長居はできないんだ。動向は?」


「明日の定期連絡を待てない事情ですか。騎士団長様はお忙しいですね……掴みましたよ、特大のネタをね」


 メレネッシが机を挟んだ対面の椅子に掌を向けると、バルマーロはそれに腰掛けた。


「入国窓口の汚職役人関係者を締め上げたら、出るわ出るわ。その中でも、身元不明の宝石商に、莫大な金が流れてる」


「莫大な金。私が睨んでいた国庫の不明金か?」


「出どころまでは……ただ、王宮から宝石だの美術品だのを買い漁り続ける商人。不自然でしょう」


「……先に渡した国の金で、宝石を買い取る? 物が動くだけで、裏で手引きした者に得は無さそうだが……」


 少し考えたバルマーロは、ハッと顔を上げた。


「最後に売られる物は……国宝、魔法遺具!」


「悟られないように国庫を動かせる人物は……限られてますよ」


「柔和な態度で王に取り入り、国の魂を売るつもりかっ!」


「後継候補から後退したのは将軍も、でしたよね……」


 メレネッシは腐敗の元凶が国の中枢にあると推測し、辟易した表情を隠さない。


「2年前に君が軍を辞めて彼らの結託が深まったが……やはり残ってもらうべきだった」


「ハハッ! 後継候補にまで引き立ててくれたのに、つい奴を殴っちまった……王妃の信頼もあるあいつら相手に、筆頭の立場を維持してるバルマーロさんは、バケモノですよ」


 そう言うと、メレネッシは泡酒を一口飲んだ。




「……それで、そちらの用件は? 明日会う予定の人が訪ねて来たんだ。そろそろ聞かせてくださいよ」


 投げかけられたバルマーロは腕を組んだまま、視線を落とした。


「深刻なことですか? 決断が鈍る時は右肩がちょっとだけ上がる癖、久々に見ましたよ」


 メレネッシの一言に、身体の力が抜けたようにひと息つくと、苦笑いのバルマーロは口を開いた。


「フフ。敵わないな、メレネッシ。今日、私は君を……捕らえに来た」


 突然の宣告に、メレネッシは眉をひそめる。


「……まぁ、利害の一致で見過ごしてもらってただけで、本来ならば追う者と追われる者だ。ただ、なぜ今なのか。これまで情報共有してきたのに、理由がわかりませんよ」


 正対していたバルマーロは、身体の向きをほんの少しずらしている。


「国宝内部の魔力調整に、マシルスの使者が来た。その従者が君と密会したスパイとして、投獄されている……」


「バスティが? 言いがかりだっ!」


「守護騎士団長として君を捉え、彼の容疑を晴らし、勇者後継候補筆頭として彼女を解放しなければならない」


 バンッ!


 メレネッシは机を叩いて立ち上がった。


「あいつとはグレンディアの思い出話と、落ちぶれた俺みたいになるなって忠告しただけだっ!」


 一定の距離を保っているのは、バルマーロの間合いを熟知してのことだろうか。


「……腕は落ちてないな」


 座っているバルマーロはコートの隙間から、腰に提げた短剣に左手を掛けていた。


 メレネッシが声を張り上げる。


「俺達が斬り合って喜ぶのは誰だっ? 見損なったよ! さっきの言葉は撤回だっ! 出て行けっ!」


「………………」


 しばしの沈黙があり、バルマーロは左の掌を見せ、静かに立ち上がった。


 扉の前まで歩くと立ち止まり、メレネッシに背を向けたまま、問いかけた。


「……今日も、ワインは飲まないんだな」


 フェドーラ帽を深く被り、鍔で視線を隠している。


「……好きなんですよ、水より安いこの酒が。所詮は孤児の俺を、ウルテンジーアに居させてくれてる気がして……ね」




 外はすっかり日が落ち、遠くからは大通りの喧騒が微かに聞こえている。


(さて……どうしたものかな……)


 誰よりもこの国を憂うメレネッシの気概に触れ、捕縛を躊躇ったバルマーロは、フードを被り歩き出した——


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