4話 取引
城の宰相執務室に、ディアモス将軍の姿があった。
「まさか、今日訪ねて来るとは……」
「魔女ヨハナが教え子を遣わすのに、先の読めない旅程とはいえ、驚いたヨ」
「急がんとな……こちらの準備はできておる。そっちは?」
「もう来るはずヨ。宝石商の売買契約書にサインしたら、決行ネ」
2人が声を潜めて話していると、扉のノックに反応したモネーラ宰相が招き入れたのは、1人の市民だった。
「へぇ〜。同行者が、メレネッシとねぇ……お手柄だヨ! 追跡ごくろうさま〜」
モネーラはニヤリと笑うと金貨を1枚手渡し、市民に扮していた追跡者を退室させた。
「将軍〜。私に任せてヨ! これであの教え子に邪魔させないヨ」
そう言うとヒソヒソと耳打ちし、ディアモス将軍は深く頷いた——
バスティが城の来賓室に戻ると、机にはルイーナが突っ伏していた。
「ぅ〜ん……おかえりぃ……」
「ただいまっ。どした〜?」
「内部魔力の流れが他の国と逆だったのよ……左利きの勇者が遺した物だもんね。作業も左手でやらなきゃで、めっっっちゃ疲れたのっ」
心なしかポニーテールも項垂れているようだ。
「朝から行き詰まってたもんね、やったね!」
「うん。バルマーロ様の確認が済めば、王様から受領書をもらって……ミッションクリアよっ!」
伸びをするルイーナの隣に腰掛け、バスティはメレネッシと再会したことを話した。
不意に噴出した過去の出来事を、お互いの気持ちは伏せたまま、笑い合っている。
トン、トン、トン。
「失礼いたします。バルマーロです」
2人は顔を見合わせ、国宝調整の試験終了を告げるノックの主を招き入れた。
「バルマーロ様っ! ごきげんよう。ウフフ」
「ご、ごきげんよう。ルイーナ殿、調整は……」
既に翌日の観光ルートを組み立てているのだろうか、ルイーナはニッコニコだ。
「どうやら、不充分のようです」
「そうですかっ! では受領書を……えっ?」
ひと足早い開放感から一転、目を丸めてバルマーロの言葉を受け止めている。
「腕に通しても、何の変化も無かったのです」
(えぇ~っ……確かに、虹色に光ったのに)
「ルイーナ殿。恐れ入りますが、もう一度。お願いいたします……」
バルマーロはバツが悪そうに視線を落とした。
「もっ、もちろんですっ!」
ルイーナが慌てて椅子から立ち上がると、再び来賓室の扉がノックされた。
「は、はいっ。どーぞ……」
現れたのは、モネーラ宰相だった。
「失礼しま〜す。バスティさん、いますよネ」
唐突な名指しに、バスティは跳ね上がった。
「あ、はいっ! 戻ってますっ」
「怪我ないですカ? メレネッシさんと会ったって聞いたヨ〜」
「全然、大丈夫ですっ! ぶっきらぼうですが、優しい先輩です」
(……ん? なんで知ってるんだろ……)
この会話を聞いたバルマーロは、ハッとした表情をモネーラに向けると、2人の兵士が来賓室になだれ込んだ。
「バスティさん。おたずね者と密会、だめヨ……スパイ良くない!」
そう言うと、兵士達はバスティとルイーナの手首に、素早く手枷をかけた。
「えっ!」「痛ぃっ!」
「宰相! 何をなさるのですかっ!」
「牢屋に連れて行け!」
モネーラは兵士達に指示すると、2人は身体をよじって抵抗するも両手が塞がり、連れ出されて行った。
「宰相っ、乱暴が過ぎます! それに、まだ国宝調整の途中ですっ!」
「バルマーロ守護騎士団長。あなたがいつまでも謀反人を泳がせてるのも、知ってるヨ。彼らを放したいなら、メレネッシをすぐに捕えなさい!」
国の治安を任されていながら成果をあげていないと糾弾し、モネーラは来賓室を後にした。
(クッ……宰相! 勇者後継候補から一歩後退して、二面性がますます顕著になってきた……)
1人残されたバルマーロは苦々しい表情で、国の行く末を案じていた——




