↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アンソロジスタ・アソート】魔法の卒業試験で国宝の内部魔力を調整して各地を巡る話  作者: うぶいずむ
パルヴェンス王国 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/32

 7話 夢の共演


「あらぁ? 貴女ほどの魔力ならそんな軟弱男、すぐに殺せるのに……期待外れだわぁ」


 薄ら笑いを浮かべ、ネイムレスはすぐにその理由を見抜いた。


「出力方法を知らないようね。欠陥品、出来損ない、ポンコツ。フフ……人の言葉ではなんて言うんだったかしらぁ」


 バスティは不意打ちに理解が追いつかないまま、殴打され続けている。


(ぐっ! 急になんで……)


 一時的にふらついた足の力が戻り、腕で頭部を守りながら走り出すと、ルイーナは後を追う。


(よしっ! このままあの岩陰へっ)

「ルイーナっ! どうしちゃったの!」


 戸惑う声は、徐々に小さくなっていった——




 結果的にはひとまず指示通りとなったことで、

2人を魔力行使に巻き込まずに済む、とリノは安堵した。


(戦うところなんて、見せたくないな……)


 なりふり構ってはいられそうにない。

 相手の力量を察し、司令官は異形と対峙する。


「そうやって、みんなを困らせてきたんだ」


「フフ……3年前までは、ね。貴女が来てから、つまらなくなっちゃったわぁ」


「精神干渉魔法。発動条件はやっぱり……名前」


「誰も呼ばないんだもの……統率力ってやつなのかしら? ほんと、すごいわぁ」


 リノは派遣当初、魔法軍の一兵卒だった。

 未解決報告書を読解し仮説を立て、軍内での名前呼びを禁ずる進言が採用された。


 以降、防衛戦でも頭角を現し、またたく間に現職へ任命されていた。




「それと、もうひとつ……困ってるのよ……」


 ユラユラと髪を靡かせ、ネイムレスは続ける。


「あの子達の聞き分けがなくなってきてねぇ。あなたの魔力に、惹かれちゃってるの」


(あの子達? 低級の習性か……)


「だからぁ。私と貴女、どっちが主か……はっきりさせに来たの」


 魔物はより強力な魔力に従い群れを成す。

 約30年間に及ぶ損害の蓄積で、人が導き出した研究成果と一致していた。


「思ったよりも、おはなしするね……上級、だよね? ネイムレスさん」


 人語を解する知能を持つ魔物。

 いるともいないともされる概念。

 万が一出会ってしまったら‘逃げろ’が、マシルス学長ヨハナの金言だった。


「上級……?」この一言に過敏に反応した。




「お前等がっ! 勝手にっ! そう呼ぶだけだっ! 下品な偽物っ!」




 ヒュドッ——




 髪を逆立て放たれた魔法は、空気を切り裂く音とともに氷の刃となり、リノの両太腿に深く突き刺さった。


 白黒の法衣が、鮮血に染まる。


「ぅあぁっ!」

(速っ……風魔法で逸らさなかったら足がなくなってた……)


「あらぁ? さっきの子達と遊んで、おねむかしら……フフ。私も久しぶりのおしゃべりで疲れちゃったわぁ」


 苦痛に顔を歪め再び膝をつくリノに、ネイムレスはさらなる絶望の言葉を贈る。


「終わりにしましょ……貴女の名前もわかったもの……ね?」


 虚言。


 リノは確信する。

 たった1人でこの岬で戦っていたのだ。

(リノの名前は、まだ聴かれてない!)




 岩陰で殴られながら会話が聞こえていたバスティは、ルイーナが豹変した理由を理解し、電撃で焦げかけの靴紐を見て回想する。


(名前を聴かれちゃマズいのか? なら、リノは大丈夫だ。さっきの呼びかけはかき消さ……っ!)




「お友達、優しいのね。ずっと貴女を探していたのよ……崩れた本陣で、情けない顔をして、ね……キャハハッ!」


「?」


 リノは言葉の意味を理解できず、苦痛に耐えながら、ネイムレスを怪訝そうに見上げている。


 次の瞬間、バスティの背中に悪寒が走った。


(ぁ……僕はあの時、リノの名前を……叫んだ……)


 この妖女は兵士を操り、駐屯地で案内をしていたのだ。


 ずっと、隣で——




「私達の平和を乱す、貴女に相応しい罰。そうねぇ……」


 ネイムレスは岩陰の方向を見ながら、続ける。


「大切な物、気がついたら全部失くなっていました……は、どうかしらぁ? お友達、部下、国……醒めない悪夢をあげる」


 ガラドッガァァァァァンッ!


 リノの杖先から無詠唱の雷魔法……直撃。

 土煙から左足のような黒が吹き飛び、辺りに焦げた臭いが立ち込める。


 話しながらも隙を見せなかったネイムレスの、視線が逸れた瞬間を逃さなかった。

 連戦により魔力を振り絞ったリノは肩で息をしうつむき、戦果を確認することもできない。

 バスティが発した「やった!」の歓声が、おぼろげながら感触をもたらす。




 パチ、パチ、パチ……


「……お見事、だわぁ司令官。どうやら最後の魔法ね……人ならさぞ痛かったんでしょうねぇ」


 土煙が風で流され、うっすらと現れたネイムレスは、拍手を贈り……浮遊してる。


「楽しかったわぁ……さようなら。偽物さん」


 髪のようなものを操ると、極上の獲物との別れを惜しむように、そっと呟く。

 憎悪の塊のようだった声とは打って変わり、まるで子守歌のように優しい、呪詛。




「リノ。……眠れ……」




 次の瞬間。

 マシルスの最高傑作と称される少女を黒いモヤが襲い、くせ毛のおさげ髪は、闇に消えた——


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。