5話 この先に
「足元、気をつけて!」
地面の凹凸を、夕闇の陰影がことさら足場を悪くさせる。
「もぉっ! さっきの3人組が通してくれてればこんなことしなくてもよかったのに〜っ」
できる限りの全力疾走の最中、怪訝な顔で振り返り、「さっきの」と口を開いた、その時。
バリッ……ドッガゴロッ……ドーーーン!!!
鼓膜を破られそうな雷鳴に耳を塞ぐ。
光と音の時差がなく、間近に落ちたと想像しながらも、怯む足を止めない。
(雷魔法! 雲を呼ぶ行程を省くとか……あり得ないっ!)
教本の知識が頭に入っているルイーナは、この現象だけで、術者の力量が計測不能な域に踏み入っている、と理解した。
かがり火に照らされる木柵の周りに、松明の移動は見られない。
(思った通り、見張りはもういない!)
「このまま突入!」
頷くポニーテールを確認すると、2つの制服が防衛線を強行突破——
目に飛び込んだのは、惨状。
既に大多数の兵士達が横たわり、かろうじて呼吸の様子が見て取れる。
(大きな建物! 大きな建物は……)
何があっても一直線、その取り決め通り、目標を探すバスティ。
「お前達! 止まれ!」
またも背後から声がかかり、足を止める。
「どこの学生だ、名乗れ!」
振り返ると、痺れを切らしたルイーナが鬼気迫る表情で、今にも食ってかかろうとしている。
「先ほどの者か! マシルスよりの国賓として司令官への激励だっ! ほ、本陣へ案内、しれっ!」
「……」
「……」「……」
……。
ひと呼吸置くと兵士は敬礼し「こちらです!」と向きを変え、歩き出す。
数時間前は鋭い眼光に怯み逃げ出したが、この手があったか、と互いに親指を立てた。
やがて大きな陣幕が目視できると、2人の顔が青ざめる。
別の場所であってほしい願いは届かず「こちらです!」と、兵士は紐柵の前で足を止めた。
既に倒壊寸前のパルヴェンス国防魔法軍の本陣は、日没のかがり火に照らされている。
(さっきの雷で? ウソ! 嘘! うそだっ!)
「下がってよいっ!」と告げ駆け出すと、ひと足先に到達したバスティが、勢いそのままに幕を掻き開く。
「リノ!」
ルイーナが追いつき、恐る恐る様子を伺う——
もぬけの殻……誰の姿も見当たらない。
「ふぇぇ〜……」ホッと胸を撫で下ろし目配せすると、新たな懸念に向き合う。
「どこにいるんだろ?」
130センチほどの身体は、大柄な兵士達の中でむしろ目立つと推測し「外にいたら、すぐわかりそうだけどな……」と、バスティは思案する。
その時、遠方から複数の爆音が響き渡る。
「これも魔法の気配だ! みんなといるんだ!」
「急ごう!」
海風に誘われるように、駆け出した。
音がした方角へひとしきり走ると、木柵に出くわし、立ち止まる。
「あれ? さっきの所?」
「いや、合ってる……駐屯地の、反対側だ」
視界には、かがり火も届かない、闇。
バスティは潮の匂いで、岬の先端が近いと確信した。
同時にこの木柵が、抱き始めた違和感への回答に近づけた。
「ここからはきっと、あれだけの部隊を展開できるほど広くない。それと……」
ポカン顔のルイーナを差し置き、見てきた陣内の配置に言及する。
「だいたい一定間隔のひと塊で、大勢倒れてた。塊の前に、魔法使いのお姉さん達……定石と逆、なんだ」
「兵士達を魔法使いが、守ってた?」
「詠唱する間の安全を確保するために、盾陣形を組むのに。あれじゃ時間稼ぎもできない」
サボっている印象が強いバスティを「ふ〜ん。ちゃんと勉強はしてるんだ」と、見直した。
(まだ何か、引っかかる。けど、今は……)
「いるならきっと、この先だ」
2人は互いに頷き、闇へ足を踏み入れた——




