↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アンソロジスタ・アソート】荷物持ち以上、魔法使い未満!巡り合わせは国宝次第?  作者: うぶいずむ
パルヴェンス王国 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/31

 4話 二の腕パンチ


 翌朝。


 パルヴェンス城門に、不機嫌な制服姿があった。


「なによっあの王様! 邪魔者扱いじゃない!」


 ポニーテールを解き、前髪をピンで留めながら、ルイーナは先ほどの謁見に不満を隠さない。


「魔法遺具調整の受領書はもらえたとはいえ、リノに会えなかったのは寂しすぎるよな~」


 王が意地悪をしたわけではなかった。

 リノは岬での軍事訓練により、早朝に出発した後だったのだ。


「次はいつ会えるかわかんないんだよっ? せめてちゃんと挨拶、したいよ……」


 マシルスもグレンディアも、卒業後の派遣先が決まれば、その国の復興に尽力することが使命となる。

 個人的な往来など叶わないだろう。


「……だよね」


 卒検追試の名目で、魔法遺具作製者ヨハナの代理として自由に移動できる現状が、異例中の異例なのだ。


 昨晩交わした、来賓室での有耶無耶に中断された会話が、最後の別れとなった。


「昨日の不安な顔……あの子、何か隠してるわ」


 この後は、郊外の馬車屋へ行き、揺られながら読書をし、次の国で試験を行う。


「……」「……」


 本来であればそうするべき、その為の旅だ。


 目配せする2人は互いに頷き、それとは別の方向へ爪先を向ける。


 無言の目的地変更は、パルヴェンス岬——






 日が頭上まで昇った頃、ようやく軍の駐屯地が見えてきた。


「ふひぃ……さすがに歩きは、キツイわね……」


「ごゔじだでぃど……ゼェ……ゔぼっで……」


 息切ればかりの雑音に「えっ?」と聞き返し、「こうしないとどこかで止められちゃうもんね」だったのだと、ルイーナはやっと理解ができた。




 リノへの面会を求める為に、木柵の防衛線に近づき外から様子を伺うと、バスティは目を疑った。


 兵力の約8割ほどかと思われる規模の人員が集結し、武器弾薬も大量に確認できる。


「これ……軍事演習……じゃ、ないよ……」


 海風に重苦しい緊張感が混じり漂う。


 準備に追われる兵士達の会話が、否応なく耳に届けられる。


「低級218、中級6……先月低級70を追っ払うのがやっとだったのによ……ケッ!」


「魔力探知ってやつか。何かの間違いであってほしいよ」


「魔法軍司令官殿の観測らしい。今回も正確なんだろうな……」


 1体で街を更地にするほどとされる魔物が部下を従え、複数の小隊で襲来するようなものだ。




 ルイーナは青ざめ、硬直する。


(リノ……なんてものを相手にしてるのよ……)




「おい! 何してる!」


 背後からの牽制に、大きな荷物を背負うバスティは思わず「ぎ、行商の者、です~ぅっ……」と涙目だ。


「学生姿の行商人などいるか! 立ち入り禁止だ、立ち去れ!」


 2人の見回り兵に、ヘルメットの奥から鋭い眼光を向けられ「はーーぃっ!!」と声を合わせ、一目散に走り去った。






「はひぃ、ふひぃ……っぶはぁ~!」


 防衛線が目視できないほどまで戻され、防風林に身を隠し、バスティはようやく荷物を降ろすことができた。


「ここで、休みましょ……ふぅ~」


 長くなりそうな旅に携行している、グレンディア支給品の小振りな迷彩柄テントを、協力して手際よく設営し始める。


「野宿の記憶が蘇るわ……ハァ……」


 ため息をつきながらも、様になってきている。


 完成したポンコツ軍の本陣で、作戦会議と称される、休憩が行われようとしてる。




 なにやら集中しているルイーナが、閉じていた瞳を開けると、いつもの輝きは無かった。

 

「岬のずっと遠くに、まっ黒な塊がある……これが来るんだ……本物の、黒……」


「???」


 深刻な表情に反した抽象的な表現に、魔力を有しないバスティはキョトン顔。


「フィゼアの方角。つまり……魔物の親分がいる、魔族の国、ってこと……」


 世界半壊の発端となり滅んだ、魔法の国。

 今では魔族が棲み着く異界、と伝えられる。


「フィゼア!? ヴォルダーノの国だよね……」


 この岬から彼方の対岸にあり、最激戦区パルヴェンス王国が、才能を必要とした理由。

 大局的に見れば、対魔族における人類の防衛線を、リノは守っていた。


(こんなに、違うんだね、リノ……)


 全力で試みた魔力探知から得られた情報ひとつとっても、精度に歴然の差。

 出力できないとはいえ魔力を感じられる、ルイーナができる初歩技術から痛感している。




「僕達が今行って、何になるんだろ……」


 不意に呟くバスティは続ける。


「本物の戦場に、友達だからって会いに行く。邪魔になるくらいなら、ここから無事を祈ってるべき、なの……かな」


 我が身かわいさではなく、兵士育成機関生としての葛藤が伝わり、ルイーナは視線を合わせられない。


「ヤタガルドでは、将軍に魔法遺具を届ける為に戦場に行った。今は目的が違う……強い魔法使いが集まってるんだよね? これまでだって守ってこれたんだよね? だから、今日も……」


 途切れたらこの沈黙に押し潰されてしまう。

 泳ぐ目線がそう物語っている。

 言葉にしながら、要点を整理しているようだ。


(わかった……僕は、ルイーナも心配なんだ)

「僕達が行っても、一緒に戦えるわけじゃ……」


 自身の口から出た言葉に思わずハッとし、ルイーナに顔を向ける。

 この場に繋ぎ止めておくための忠言が、魔法出力ができずに泣いてきた少女への刃となることを、彼は知っていた……はずだった。




 ポコ——




 同時に、二の腕に当たる体温を感じた。

 それは、落第者の拳だった。


「……」「……」


 俯く顔を上げるルイーナは、ニコリと相棒に向き合う。


「それでも、だよ……ね?」


 何度、この笑顔に救われてきたのだろう。

 大きな頷きが、バスティなりの答えだ。




 ルイーナは立ち上がり、おもむろに大きな荷物袋を開く。


「理由が無いなら……」


 取り出した物をバスティに見せ、言い放つ。


「作ればいいのよ♡」


 全マシルス生の永遠のおやつ、干しイチジク。

 月に一度の買い出しを楽しみにしているのは、リノも例外ではなかった。

 2人はこれを、旅程の馬車で食べている。


「陣中見舞いか、いいかも!……もしかして、さっきの深刻な顔、これのこと考えてたの?」


「???」


 諦めるつもりなど微塵も無かったキョトン顔。

 どのように潜り込むかで、頭がいっぱいだったようだ。


「くっ……あっはははっ! できない理由より、どうすればできるか! うん、僕も一緒に、考える!」




 見聞きした情報を掻き集め、幾度にも及ぶ議論の末、方針が決まった。


・親玉は、リノがネイムレスと呼び、不安にさせるほどの魔物。

・魔法遺具の適合者はこの国に未だおらず、対魔物への援軍は期待できない。

・陣中見舞いと称して干しイチジクを届けたら、恐らく人生最後になるであろう言葉を交わし、速やかに撤収。

・本陣幕とは前線から見て最奥、現在地から手前側の大きめなどれか。

・見張り兵士の注意が逸れるのは、事態が大きく動く時、つまり開戦直後。

・開戦は恐らく、夜。


「条件は厳しい、機会は一度きり、かぁ……」


「始まったら、何があっても一直線にリノを目指す! 遅れるなよバスティ~」


 気づけば、辺りは松明が必要なほど。

 灯せば兵士に見つかってしまう。

 ルイーナは手探りで麻の肩掛け袋を手繰り寄せ、ポニーテールを固める。




「……」「……」


 いつ始まってもおかしくない、とバスティが靴紐を結んだ、その時。




 ゴゴオオオン……ゴオオオンン……


 地響きと共に、大砲の轟音。


「始まった!?」


「うん! 走ろう、ルイーナ!」


 最高司令官が、今なにより必要としているおやつには、青い魔法が込められている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。