1話 瓦礫のお花屋さん
パルヴェンス王国の軍事訓練報告書の一部に、未解決の不可解な記述がある。
逃げ延びた兵士により作成されたものである。
将来を約束された上流階級の若者が、上官に呼びかけられた途端、首にサーベルを斬りつけた。
1隻の小隊10名が、同士討ちの末、壊滅。
箔を付ける実績作り、1日限りの帯同だった。
検証の結果、乗組員達に落ち度は見られず、私生活に及ぶ要因とも結びつかなかった。
この日を境に、他小隊でも同様の事案が多発。
以後、この国では軍事作戦中に名前を呼ぶ事を、軍規として禁じた。
現場では、妖艶な女性の姿が目撃されていた——
「ここまでくれば大丈夫、だよね?」
街全体を囲う分厚い城門を潜り、バスティは胸を撫で下ろし、馬車を降りる。
「ええ、この国の魔法防衛隊は、ハンパないわ!」
そう言いながら、降り立つルイーナは続ける。
「あの子がいるんだもの。魔物が来たって、ここは今、いちばん安全な場所よ!」
ルイーナが卒業単位修得の為、バスティと共に訪れたのは、パルヴェンス王国。
近年、魔物の襲撃頻度が最も多いとされる。
2人がこの地の訪問を楽しみにしていた理由は、追試である魔法遺具の調整だけではない。
マシルスから派遣された、後輩との再会も兼ねていた。
「魔法使いとして、そんなにすごいんだ~」
バスティにとっては可愛い妹のような存在だ。
魔力を持ち得ない男性には、魔法使いのいわゆる‘格’がわからない。
「最強。幼女。以上。」
両手を腰に誇らしげ、ルイーナのドヤ顔魔法。
語彙力に乏しいが、的を射ていた。
「3年経ってるんだ、13歳に幼女はナイナイ」
残る瓦礫が最激戦区を物語る花屋の横で、小柄なあの子の成長を想像し、話に花が咲く。
店から出てきた大きな紙袋に気がつき「おっと……」とバスティが立ち止まると、その横からひょっこり覗く、やや太めの眉。
「えっ?」「おっ?」「んっ?」
……。
「あーーーっっっ!!!」
それぞれが、誰なのか。
3者がすぐに理解し、歓喜の声が揃う。
「リノ!!」「お兄ちゃんっ!」
話題のあの子は、嬉しさと気恥ずかしさの入り混じった表情で、満面の笑みを見つめる。
「お~ぃ、 私もいるぞ~」
マシルスの制服が割って入る。
「おでこのお姉ちゃんは邪魔しないでください」
「なんだと~」
日常のようなじゃれ合いの輪が夕日に映える。
ひとしきりはしゃぎ入国の目的を伝えると「お城に案内するよ、ついてきて!」と、リノはきゅるんと反転、歩きだす。
少し癖毛の短いおさげが、130センチほどの背丈に揺れている——




