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「ふんふんふ〜ん♫」
いつになく上機嫌なルイーナの鼻歌が、殺風景な馬車の中を華やかな雰囲気に染める。
ボロボロに読み込まれた教本を破らないようにそっと捲り、おさらいをしている。
表紙には微かに読み取れる、1の文字。
魔法の基本中の基本、その真ん中あたり。
『まほうのつかいかた』のページを開いている。
晴天の昼下がり。
バスティは外を流れる景色を、窓を開けずに眺めている。
風に当たればさぞ気持ちが良さそうではあるが、目の前の少女にとってそれがどれほど大切な物か、この少年は知っている。
魔力出力ができずとも、後輩達個々の理解力に合わせて翻訳しながら、手助けしていることも。
「よし! 今度こそできる、気がするわ!」
教本を閉じ荷物箱にしまうと、代わりに練習用の短い杖を取り出した。
「今日はどの魔法?」
毎日1回は聞いている言葉に、努力が報われてほしいと期待を寄せる。
「そうね、気分的には……風魔法ね」
ルイーナはこれから差し掛かる、1本の生い茂る木を指さし、続ける。
「あの葉っぱを落とすわ、全部!」
そう言うと目を閉じ、杖を前に集中を始める。
(おぉ……これはあるかも)
バスティは空気が変わるのを肌で感じた。
詠唱の文言は覚えたと常々豪語しており、構えも魔法使いの雰囲気を醸し出している。
目標の木が近づく。
目を開け杖を向けるルイーナ。
「風よ! 木の葉を……ぅっ……」
一瞬言い淀み、顔をしかめる。
「切り落とせっ!」
いつになく気迫のこもった声に、バスティは目を見張る。
ビュッ——
突風に馬車が揺れ、木の葉が落ちる。
その数……1枚。
「やった!?」
隣のルイーナに視線を移し、成否を確認する。
男性には魔力が宿らないとされており、バスティは本人に直接聞くしかない。
「……ダメね、また詠唱が途切れちゃった……」
こめかみあたりを押さえ、いつもの頭痛に襲われた結果を告げる。
(あと、ちょっとなのに……)
過ぎ去る木を名残惜しそうに見送り、ため息をついた。
「そっかぁ~、まぁ少し休もう」
「ぅん……」
バスティに促されるまま着席すると、すぐさま切り替えるルイーナ。
「よしっ! あとで水魔法だ、それならできるかも!……たぶん!」
夢を乗せた馬車は、未来へ進んでいく——




