第四話
十二月に入ったある日のこと。
「そういえば、うちの姉ちゃん子供産んだんだけど放課後見にいかない。産院も学校から近いし」
姉ちゃんのお見舞いに辰之助を誘い今、姉ちゃんの病室にいる。
「辰之助君、ありがとね。ついでとはいえ、寄ってくれて」
ついでって何?
あ、デートのついでってことか。
「さくらちゃんですか。可愛いですね」
あたしのほうが可愛いだろ⋯⋯。
フィアンセの前で他の女を可愛いって言うな!
「あたしとどっちがかわいい?」
あたしは不機嫌そうに辰之助に訊く。
「もちろんさくらちゃんに決まってんだろ! 何言ってんだよ」
なんだと!
「はあ? あんたこそフィアンセに向かって何言ってんだよ!」
「まあ、社交辞令だからよ。貴ちゃん」
姉ちゃんがフォローしてきたが、あたしの怒りはおさまらない。
「そういえば、なんで十二月五日に生まれなのにさくらちゃんなんですか?」
「私と旦那の初デートが権現堂のお花見デートだからよ」
姉ちゃんはそう言って辰之助にウィンクをする。
おいおい、あたしのフィアンセって言ったろ!
「じゃ、オレたちも初デートは権現堂のお花見デートでいい?」
「桜なんかまだ先だろ。その前にクリスマスがあんだろ!」
姉ちゃんは話題を変えてきた。
「そんなことより龍之介君どうだった?」
姉ちゃんの言葉に辰之助は首を傾げる。
「りゅう?」
今度は辰之助の言葉に姉ちゃんが首を傾げた。
「辰之助君の甥っ子でしょ。アレ、そのついでに寄ってくれたんでしょ」
「どこに?」
姉ちゃんはニコリと笑って、こう言った。
「隣の病室」
はあ?
あたしは辰之助と一緒に隣の病室に入る。
「やあ、義姉さん⋯⋯」
「あ、辰ちゃん。早かったわね。野村のとこ、もう終わり」
辰ちゃんって、あたしの辰之助をちゃん付け?
「可愛いだろ。さくらちゃん」
「あたしの方が一億倍可愛いですけど⋯⋯」
あたしは義姉さんを睨みつける。
「龍之介君か⋯⋯。アレ?」
辰之助が何かに気付く。
「そうなのよ。さくらちゃんと同じ日に生まれたんだよ。コレって運命の赤い糸だと思わない?」
あたしと辰之助の赤い糸の方が運命なんだよ⋯⋯。
「運命の赤い糸なら許嫁にしちゃえばいいじゃないですか」
あたしは笑顔で提案した。
「そうだな。龍之介君ならさくらちゃんを幸せにできそうだな。なかなか男前じゃないか」
「はあ? 辰之助の方が一億倍男前なんですけど!」
あたしは苛立ちを隠せない。
「まあ、辰ちゃんが男前なのはみんな知ってるから⋯⋯。そうだ、本当に許嫁にしちゃおうか。辰ちゃんと貴子さんもどう?」
それってあたしと辰之助も許嫁にってこと?
「いいんじゃないですか⋯⋯」
あたしが耳まで真っ赤にして答えた。
今日は二学期の終業式。その後、辰之助と渋谷でイブデート。何をするってわけではないが、放課後制服デートを決行する。今回もあの日記帳は温存する。どうせ書いたって違法行為なんだから実現しない。やるんなら自分の力でやるだけだ。
なんてたって、あたしと辰之助はお義姉さんから認められた許嫁なんだから。
朝、登校しようとすると電話対応している父ちゃんがあたしに声を掛ける。
「貴子悪い。佐藤さんのところの美和さんが亡くなったそうだ。俺も手伝いにいかなきゃいけないんだけど人手が足らないらしいから、お前も今日は学校休んで手伝いに行ってくれ」
はあ、今日はイブデートなんですけど⋯⋯。
佐藤さんのところの美和さん。
⋯⋯⋯⋯。
!!
それ、南先生じゃない!
「父ちゃん、わかったよ。一緒に行くよ」
こうして、あたしの初デートは消えてしまった。
でも、南先生がなんで?
南先生の実家である佐藤さんの家に到着したが、てんやわんやの状態だ。姉ちゃんと辰之助の義姉さんは産後ということもあり、ここには来ていない。南先生は女児を出産した際に亡くなったということをここで聞いた。
出産って命懸けなんだ⋯⋯。
さっき辰之助の家に今日のデートのキャンセルの電話を入れた。
なんで携帯持ってないんだよ!




