第二話
学校の帰りに辰之助君が店に来た。
「おう」
辰之助君はそう言って、いつもの席に座る。
「はい、日替わり定食ね」
あたしは日替わり定食を出した。
「あとで話があるんだけど時間取れる?」
「プロポーズ? 父ちゃん、そこにいるからここでいいよ!」
そんなことあるわけない⋯⋯。
「そうじゃねえよ。南先生からオレたち二人にもらったものがあるから⋯⋯。ちょっとあとでツラ貸せ」
「あいよ。あんた」
そう言ったものの、あたしの心臓は鼓動がうるさいくらいに鳴っている。
その後、あたしは自分の部屋に辰之助君を連れてきた。
何かあってもあたしは問題ないけど⋯⋯。
「で、南先生から何もらったの? 何なに、婚姻届の用紙?」
「これだ!」
辰之助君はそう言って日記帳を机の上に出す。
「なにこれ? うちらに真面目に日記つけろってこと? ウケるんですけど!」
「これは恋愛未来日記というアイテムらしい」
胡散臭え!
「へえぇ、辰之助ってそういうの信じるタイプなんだ。意外ぃ」
「別に信じているわけじゃねえけど南先生がくれたんだから一回くらい使ってもいいだろって感じなだけだよ」
一回使うだけか。
「いいよ。使ってみよ。ふーん、これが取説か⋯⋯」
取扱説明書の主な部分は次の通り。
十日以内の希望の未来を日記帳に日付指定で具体的に書き込む。
違法行為を書き込んだと認められた場合には、その日付の書き込みはすべて無効となる。
書き込む際、必ず最後に『。』を書き込む。その際、日記帳に叶ってほしいという強い念を送り込む。
どちらの日記帳を使用しても良いが、片方の日記帳は想い人に受け取らせること。受取前の記入はすべて無効となる。
想い人の日記帳の受取り後の廃棄等が確認された場合には、故意又は過失の有無にかかわらず、それ以降の恋愛未来日記への記入は無効となる。
なるほど、一回だけなら思い切ったことでも書くか!
十一月十九日 橋本辰之助は野村貴子に結婚のプロポーズをする。
あたしはおもむろに日記帳を開いてそう書き込んだ。
「何書いたんだよ?」
辰之助君が苦笑いをしながら訊いてくる。
「明日のお楽しみぃ。今日は遅いからもう帰ったほうがいいよ」
付き合って一ヶ月も経ってないのに結婚のプロポーズなんてするわけないだろ!
今朝、あたしは五時に起きて二人分のお弁当を作っている。昨日寝る前によく考えたんだ。何もないシチュエーションでプロポーズするバカはいないって。
とりあえずお弁当を一緒に食べて⋯⋯。
あたしはテレビの天気予報を凝視する。
埼玉は晴。
レジャーシートを持っていって、ポプラ並木の前で一緒に食べよう。
いつもより一時間も前に学校に着いてしまった。そりゃ、そうだ。通学時間五分じゃ、時間調整で寄る場所なんてない。とりあえず辰之助君の席に座って待つ。クラスのみんなは見ないふりをしている。フリってなんでわかるって? だって、あたしは隣のクラスだもん。隣のクラスの人が座っていたら気づかないやつのほうがおかしい。一時間待っていると辰之助君が登校してきた。
「おっはよ。辰之助、今日昼めし弁当作ってきたからね」
「そうかい。じゃあ、購買でパンでも買わねえといかねえな」
はあ?
どうゆうこと。
「定食屋の娘だぞ。美味いに決まってるだろ!」
「定食屋で料理作ってんのマスターだろ。まあ、大丈夫だよ。不味くても美味しいって言うのが男の仕事だからな。今日は体調がいいから大丈夫!」
「そう言う人にはあげ⋯⋯。なんでもない。昼休みはポプラ並木だよ」
あっぶねえ。
自分から⋯⋯。
我慢。
我慢!
昼休みになった。あたしはポプラ並木に来て、レジャーシートの上で昼食の準備をしている。
天気もいいし、風も吹いていない。
絶好のお弁当日和!
辰之助君がこっちへと歩いてくる。
よし、頑張れ、恋愛未来日記!
「おーい、こっち。こっち」
あたしが辰之助君に手を振った。
「わりぃ、ちょっと授業が延長だったから」
「社会の矢島でしょ。アイツいつも延長するよね」
とりあえずお弁当。
お弁当!
辰之助君はあたしの隣に座ってお弁当を物色してきた。
「へえぇ、お前、料理得意なんだ」
「そうだよ。今ならお買い得だと思うけど、どう?」
あたしの言葉に辰之助君は苦笑いをする。
「昨日日記帳に何書いたかわかったよ」
「マジ?」
「どうせオレと結婚するとかだろ。だいたい、お前、相手がオレでいいのか?」
なんでバレた?
「じゃ、野村貴子さん、オレと結婚してくれ」
この日、あたしは辰之助君から結婚のプロポーズを受けた。




