第六話
バレンタインデーは無事何事もなく終わった。そう何事もなく⋯⋯。陰キャなモブが女の子に何かできるわけないだろ。そんな折、ボクにある情報が入ってきた。南さんの件でヤンキー連中が若林君を捜し回っているらしい。そういえば若林君、ここ三日ほど見かけないな。
まあ、お父さんの権力を使って南さんを追い詰めたんだから、自業自得といえば自業自得だけど。
そんなことよりもホワイトデーのお返しを考えないと。ホワイトデーまであと一週間しかない。
ボクはお返しの意味を検索する。
え、ウソ!
あっぶねえ。
マシュマロ贈るとこだった。
そうだな。
無難にキャンディでいいよね。
小林さんのことが好きなんだから仕方ない。
そんなこんなで、三月十三日金曜日がやってきた。カバンの中にはキャンディがある。
下駄箱の中に⋯⋯。
ちょっと待て。
小林さんはバレンタインデー当日にボクを部屋に呼んでチョコくれたんだ。
それを前日に下駄箱の中って、絶対怒るだろ。
結局、学校では渡せなかった。
仕方ない⋯⋯。
ライン連絡するか。
『明日十九時、お店に行きます』
別に日中に用事があるわけでもない。時間に余裕がほしいだけだ。
とりあえずこれでOKだよな。
ホワイトデーの当日、十九時にボクはいつもの定食屋にやってきた。そして、いつものテーブルに座って日替わり定食を頼んだ。
「いらっしゃい。橋本君、じゃあ私も注文してもいい」
「持ってきたよ。お返しのキャンディの意味って知ってる?」
ボクは綺麗にラッピングされた箱を小林さんに差し出した。
「キャンディの意味?」
「そう、お返しのキャンディは⋯⋯」
ボクはそう言って小林さんの耳元で囁いた。
「好き」
小林さんは耳まで真っ赤だ。
「そうだ。さくらの名前ってなんでさくらか知ってる?」
オバサンはニヤニヤしながら話しかけてきた。ボクは首を横に振った。
「姉さんたちの初デートが権現堂のお花見デートだったからなんだって。ふざけた理由だろ。あんたたちも権現堂にデート行ってきなよ」
だから、冬に生まれたのにさくらなんだ。
「そうですね。もうすぐで桜も開花ですもんね。お花見デート行こう。小林さん」
ボクの言葉に小林さんは何度も頷く。
「そうだ。こんなにゆっくりしてちゃいけなかったんだ。もう帰ります」
ボクはそう言ってお店を出た。
別に用はないけど、あんまり長く居て、また小林さんの虎の尾を踏んじゃうかもしれないしね。
ボクが店を出るとオバサンが声を掛けてきた。
「さくら、渡すものがあるから待ってって」
ボクは道の向こうからオバサンに手を上げた。
十分ほど経ったところで小林さんは店の入口から出てきた。
一瞬だった。
赤いスポーツカーがクラクションも鳴らさずに小林さんをはねていった。
小林さんの身体は大きく空中を一回転して激しく地面に叩きつけられた。
「さくらあああああ!」
ボクが血だらけになった小林さんにたどり着いた時には小林さんは息をしていなかった。
その日、ボクは最愛の女性を失った。




