第三話
今日は年明け一月三日、母さんの実家に年始参りに来ている。決して高校生にもなってお年玉を貰おうとしているわけではない。まあ、くれるって言うなら貰いますけど、もちろん。母さんの実家はうちの高校の近所なのでさすがに年に一度くらいは行かなきゃと親に言われて渋々来ているだけ。まあ、くれるって言うなら貰いますけど。ちなみに二軒隣りは例の定食屋なので年に一度くらい顔出す程度では話にならないんだけど⋯⋯。
貰うものも貰ったので、ボクは散歩すると言って外に出てきた。そう、二軒隣りは小林さんの家。彼氏が正月に彼女の家に遊びに行っても何も問題ないはず。まあ、くれるって言うなら貰ってもいいけど⋯⋯。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
ボクがそう言うとオバサンはボクにお年玉袋を手渡す。
「おめでとう、橋本君。クリスマスの時はありがとね。帰って来たときは、さくらボロ泣きしてたよ。橋本君はすごいって! 今、さくら呼んでくるね。待ってて」
いや、貰うものを貰ったので。
「なんで事前に連絡しない」
なんだ?
誰もいないのに声がする。
ボクがキョロキョロしているとふたたび声がする。
「女は恋人に会うのに準備が三時間必要なんだよ! 三時間後出直してこい!」
あまりにも低い声だから気づかなかった。
小林さんだ。
いや、貰うものを貰ったので、もう用はないんだけどね。
とりあえず母さんの実家に戻ってばあちゃんとコタツで話し込んでいると小林さんからライン連絡が届く。まだ、あれから二時間しか経っていないのに。
『なぜ帰った。さっさと来い』
うわっ、怒ってらっしゃる。
ボクはそのまま小林さんの家に向かった。
「遅い! さっさと来い!」
小林さん、怒ってらっしゃる。
てか、スッピンだ!
スゲエ可愛い。
ん?
「あけましておめでとう。今年もよろしく⋯⋯」
小林さんはボクの言葉を遮る。
「そういうのいいから。さっさと不動尊に行くぞ!」
え、めっちゃ派手な振袖!
小林さんはボクの手を取って不動尊に向かってスタスタと歩いていく。
「橋本君、適当にちゃっちゃと済ませて帰ろう」
靴じゃないんだから、ゆっくり歩いたほうがいいよ。
「こんなに混んでてちゃっちゃは少し難しい⋯⋯」
そんなことをやってると高校の後輩らしき集団が向こうからやってきた。
「橋本先輩、奥さん先輩、おめでとうございます」
奥さん先輩?
ああ、修学旅行の時に若林君が言ってた、もう結婚していることになっているっていう噂ね。
しばらくすると、うちの班の四人に出くわした。
「小林さん、橋本あけおめ!」
佐藤君が先陣を切って挨拶すると、川崎君、林君、四條君も挨拶してきた。
「あ、そうだ。モブども」
小林さんは少し考えてから四人に声を掛けた。四人は恐る恐る小林さんの顔色をうかがう。
「今日のことはお前らの記憶から消去しろ! 今後のお前らの安寧な高校生活のためにもな」
小林さんがそう言うと四人は何度も首を縦に振った。




