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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第二章 橋本龍之介編
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第二話

 期末試験も無事終わった。昨日、小林さんからクリスマスプレゼントは誕生日にもらったからいらないとライン連絡があったので、今日の終業式後のデートには何も用意していない。なんか青いものを手編みしてたので、アレがボクへのプレゼントなのかなとは淡い期待を抱いている。まあ、小林さん自身にリボンを付けられても困るからモノであればなんでもいいけど⋯⋯。


今日の放課後はこのまま渋谷に移動する。制服デートだ。制服であればいくらなんでもラブ⋯⋯に入ろうなんて小林さんでも言わないだろう、たぶん。


今日は学校の終業式の後で半日で下校する。ボクと小林さんは駅へと向かう。小林さんのお店の前も通るとオバサンが店の前で待っているのを小林さんはスルーしようとする。


「渋谷に行く前に見せるもんがあるだろ」


オバサンの言葉を聞き、小林さんはボクを見てきた。ボクはわけがわからないまま首を何度も横に振った。


「あ、これのこと?」


小林さんはそう言って青い物体をカバンから取り出す。


「それじゃないでしょ。ほら、終業式の日に学校からもらってくるもんだよ。あんなの落としたら恥ずかしいだろ。さっさと出しな!」


小林さんはオバサンに通知表を渡した。


「橋本君、さくらは今日お泊まりでいいからね!」


オバサンはそう言って、ボクにウインクをした。


お泊まりって、そこは注意するとこでしょ!


 渋谷には十四時すぎに到着した。さすがにクリスマスイブの渋谷だけに人がごった返していた。


「じゃ、ちょっと何か食べようよ。お腹すいちゃった」


「イタリアンがいいかな」


イタリアン⋯⋯。

ガッツリ系がいいような気がするけど。

まあいいや。この展開は読めていたので、今日のボクのカバンには非常食のパンやペットボトルがたくさん入っている。


「イタリアンかぁ⋯⋯。美味しいお店はみんな大行列だと思うよ。牛丼じゃダメ?」


ボクが首を捻りながら最後の抵抗をする。


「もお、イブなのに⋯⋯。仕方ないなぁ」


小林さんは渋々承諾してくれた。


いやいやの割には特盛食べてるよ。


 ご飯を食べた後は一緒にウインドショッピングをした。小林さんは際どい服の試着をしてボクを困らせてきた。


本当、勘弁してほしい⋯⋯。


 十八時すぎ、イルミネーションが綺麗な渋谷が一瞬で大きく揺れ始める。小林さんがボクに抱きついてきた。


これって。

仕方ないか。


「小林さん、大丈夫だよ。ボクがついているから」


ボクは怖がる小林さんを抱きしめながら励ました。ようやく激しい揺れがおさまった。


これはひょっとしたら。


ボクはスマホを取り出して目の前に見えるネカフェのホームページを検索した。


よかった。

あった。


「よかった。カギ付個室が二席確保できた」


これで電車が止まってもなんとかなる。


「貴子叔母さんからの返信がこないんだけど⋯⋯。どうしよう、橋本君」


「大丈夫だよ。届いていないだけだから」


ボクは小林さんに冷静に答えた。


「そうだ、電車。電車」


小林さんがそう言ったのでスマホで確認しながらボクは首を横に振る。


「動いていないみたいだね。渋谷は震度六強らしいから、ひょっとしたら今夜は帰れないね」


小林さんが涙目でいる。


「どうしよう⋯⋯」


「とりあえず、あそこのネカフェを確保⋯⋯」


ボクの言葉を遮るように、ふたたび強い揺れが渋谷を襲う。


「やっぱり今日は帰れないみたいだね。とにかく予約したネカフェに行こう」


そう言って、ボクは前方のネカフェを指差す。


「小林さん、お腹すいてない? この状況だとネカフェで食事とれないかもしれないから⋯⋯」


ボクは小林さんの手を取って走り始める。ニューデイズでパンを三個手に取って会計をする。


カバンの中のものと合わせると、とりあえずこれで十分だろ。


 ネカフェに到着した後にそれぞれの席を確認する。


「ペアシートはなかったの?」


「ごめん。ペアシートは全部埋まってたんだよ」


ボクは小林さんの言葉に苦笑いをする。


あったんだけどね。


小林さんは余震で揺れた瞬間、ボクに抱きついてきた。


「私怖い。今日だけでいいから⋯⋯。何もしないから一緒にいて」


本当?

でも仕方ないか。


「わかったよ。小林さんが寝るまで一緒にいるよ」


ボクは小林さんの個室に一緒に入った。


「そうだ。さっき買ったパン食べよう。お腹すいたでしょ」


ボクはそう言って、さっき買ったパンを取り出す。それとカバンの中にあるペットボトルのお茶を取り出して小林さんに渡す。やがて、大きな余震がきて建物は大きく揺れだす。個室に灯っていたライトとパソコンの画面が消える。


そして、ボクの意識は薄れていった。


その夜、ボクは夢を見た。目覚めてからも鮮明に覚えている不思議な夢だ。


目の前には見知らぬ女の子がいる。白いセーラー服に赤いスカーフ、紺色のミニスカートにルーズソックスにローファーの女子高生⋯⋯。

なのに顔は銀髪碧眼のエルフ!


彼女はボクに気づいたかのように口を開いた。


「⋯⋯⋯⋯わたしはシェラ⋯⋯⋯⋯」


そこでボクは目を覚ました。


「あ、小林さん、ごめん」


うわっ、びっくりした!

小林さん、目の前でキス顔してんだもん。


「いい夢だった?」


小林さんにそう訊かれボクは黙って首を横に振る。そして、目の前にあるパソコンをいじり始めた。


「津波の被害はなかったみたいだね。これなら始発で帰れるね。今、三時すぎだからあと二時間くらいはゆっくりできるね」


ぐうギュルギュル!


小林さんのお腹が鳴った。


ムードぶち壊してくれて、ありがとう。


「はい、小林さん。一緒に食べよう」


真っ赤な顔をしている小林さんにボクは昨日のパンを手渡した。


 ボクたちは二時間ほどして外に出た。まだ暗い渋谷の街を駅に向かって歩いていく。地震のせいで飲食店はやってないし、コンビニも食べ物は置いてない。


「仕方ないね。大宮駅だったら駅そばくらいやってるかもしれないから、とりあえず大宮まで行こう」


ボクがそう言うと小林さんはボクの左腕に抱きついた。


「橋本君、何このライン?」


小林さんはボクにスマホの画面を見せる。


『橋本君はプレゼント用意しなくていいからね。誕生日にもらってるから』


「おととい送られたヤツだよね。それがどうしたの?」


「へへへ、寝ぼけてるみたい」


そうだよね。

あんなことがあったら普通眠れないよね。


 大宮駅に到着すると小林さんと一緒に駅そばを食べた。


「あのさ、小林さん。何か忘れてない」


小林さんはカバンから青い手編みのマフラーを取り出して、ボクの首に巻きつけてきた。


「メリークリスマス! さくらサンタからのプレゼントだよ」


「ごめん。催促したみたいで」


今年のクリスマスは忘れられそうもない!

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