第六話
バレンタインデーが土曜日ということは閏年でもない限りホワイトデーも土曜日。今日は三月十三日の金曜日。時間は十九時すぎ。
はあ⋯⋯。
店でため息をついていると貴子叔母さんがニヤニヤした顔で話しかけてくる。
「お返しもらったか?」
お返しもらってため息ついていたら、それはそれで問題だろ!
その時、私のスマホからラインの受信音が聞こえてきた。
『明日十九時、お店に行きます』
橋本君からだ!
「あら、橋本君からラインでもきた?」
貴子叔母さんは下品な笑いを浮かべた。
ホワイトデーの当日、十九時に橋本君は店にやってきた。そして、いつものテーブルに座って日替わり定食を頼んだ。
「いらっしゃい。橋本君、じゃあ私も注文してもいい」
「持ってきたよ。お返しのキャンディの意味って知ってる?」
橋本君はそう言って、大事そうに綺麗にラッピングされた箱を私に差し出してきた。
「キャンディの意味?」
「そう、お返しのキャンディは」
橋本君はそう言って私の耳元で囁いた。
「好き」
もう、橋本君!
耳元でそう言うのは禁止だから。
「そうだ。さくらの名前ってなんでさくらか知ってる?」
貴子叔母さんはニヤニヤしながら話しかけてきた。私と橋本君は首を横に振った。
「姉さんたちの初デートが権現堂のお花見デートだったからなんだって。ふざけた理由だろ。あんたたちも権現堂にデート行ってきなよ」
「そうですね。もうすぐで桜も開花ですもんね。お花見デート行こう。小林さん」
橋本君の言葉に私は何度も頷く。
こんなに幸せでいいのかな⋯⋯。
橋本君はその後一時間ほどお店にいて私と話しをしていた。
「そうだ。こんなにゆっくりしてちゃいけなかったんだ。もう帰ります」
橋本君はそう言ってお店を出た。
「貴子叔母さん、そういえば橋本君から借りた問題集返すの忘れた。確か宿題で使うはず。取ってくるから呼び止めといて!」
私はそう言って自分の部屋に向かった。
部屋の入口を開けて部屋の電気のスイッチを押す。
アレ?
電気かつかない。
というより身体が動かない。
言葉も発せられない。
立ちながら金縛りってあるの?
机の椅子に誰か座っている。
バレンタインデーの日の夢の中の男の子だ!
「アレ、さくらちゃんの方に来ちゃったか。それじゃ、また」
男の子がそう言うと、電気がついて部屋が明るくなった。それと同時に私の身体の自由も戻った。
なんだったんだろう。
私は気を取り直して問題集を手に取って部屋を出ていった。
店に戻ると入口から貴子叔母さんが入ってきた。
「橋本君、呼び止めておいたよ」
「サンキュ!」
私はそう言ってお店を出た。お店を出た私に待っていたのは橋本君ではなかった。
私の目の前には車のヘッドライトがまばゆいばかりに光っていた。




