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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第三部 別離 第一章 小林さくら編
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第四話

 三学期が始まった。うちの高校は二月始めに生徒会選挙があるため始業式の時に候補者を選出することになっている。各役員はクラスで重複しないのが通例となっているため、ホームルームで候補者を選出して担任が選挙管理委員にまとめて提出することになっている。候補者調整するためであって必ず候補者を選出しなければいけないという訳でもない。


そのホームルームが始まった。私は生徒会長は南さんが候補者となると予想している。


私?

私は学校のことよりも橋本君のことを考えるのが手一杯なので当然パス。


「じゃあ、生徒会長なんだけど立候補する人います?」


先生がそう言うと前の方で一人手を上げる。


南さんだ!


「他にいる? いないなら南さんで決まりだけど」


先生がそう言うと、もう一人前の方で手が上がる。


若林君!


「若林さんもか。他にはいる?」


先生がそう言うと若林君が突然立ち上がる。


「俺じゃなくて橋本を推薦します」


はあ?

コイツ何言ってんの。

立候補って言ってんだろ。

それになんで橋本君なんだよ!

橋本君は私とデートするので忙しいんだよ。


「若林さん、推薦じゃなくて立候補する人を訊いているから。他にいないなら南さんで決まりだけどいい?」


先生がそう言うと若林君は噛み付く。


「橋本は文化祭の件で一年生の人気が高いです。絶対に勝てます」


若林君がそう言うと今度は南さんが若林君に噛み付く。


「私じゃ勝てないってこと? 失礼ね。あんた!」


「お前じゃ絶対に勝てない。絶対に。立候補じゃなきゃダメって言うなら橋本、立候補しろ!」


橋本君は怯えるように俯いている。


「橋本、お前はどうなんだよ!」


南さんが橋本君を恫喝する。橋本君は俯いたまま。


仕方ない⋯⋯。


「じゃあ、私が立候補するよ。立候補だったら問題ないだろ!」


私は手を上げ南さんを睨みつけた。


橋本君に恫喝なんて万死に値する。


 結局、生徒会選挙には生徒会長の二人以外の立候補は出なかったため翌日のホームルームでクラス内投票が行われることになった。おそらく南さんは票固めをしてくるので南さんが生徒会長選挙の候補者になるのは間違いないだろう。まあ、私の場合は勢いだからそれでも別にいいんだけどね。ホームルームが終わると若林君がこちらに歩いてくる。今回のすべての元凶だ。


「まあ、橋本じゃなくて奥さん先輩でもいいんだけどね」


コイツも奥さん先輩かよ。


「まあ、どうせ南さんの勝ちでしょ。相手が悪すぎるだろ」


「大丈夫。明日のことは既にケリがついている。奥さん先輩はその後を考えておくべきだよ」


若林君は不敵に笑う。


 そして、放課後。てっきり南さんは票固めをしていると思いきや下駄箱で私を待っていた。


「小林さん、ちょっといい」


ウソ、こんなのでイジメが始まっちゃうの。


私は素直に南さんについて行く。橋本君はあの後、若林君と何か話していたのでここにはいない。食堂裏までくると南さんは立ち止まって私の方に振り向く。


「小林さん、悪かったわね。どうせ橋本を庇って立候補したんでしょ。やる気がないんだったら取り下げなさい。立候補を」


「なんか気に入らないんだよ。あんたのやり方」


私は精一杯の勇気を振り絞る。


「ああ、そういうことね。それならそれでいいわ。私もそっちのほうが都合がいいから」


そっちってどっち?


南さんはそう言って、私に殴りかかってきた。


「痛っ!」


怖くて目をつぶった私の耳に飛び込んできたのは橋本君の声だった。


「橋本! ヘタレの陰キャが何しゃしゃり出てくんだよ。お前には関係ねえだろ」


南さんが橋本君を罵倒する。


「関係なくはないよ。小林さんはボクの恋人だから⋯⋯」


そう言っている間にも南さんの拳が何度も橋本君の顔をとらえていく。


「ちょっと、橋本君が死んじゃう。やめてよ⋯⋯」


「こんなんでコイツが死ぬわけねえだろ!」


南さんはさらに橋本君に殴りかかっていく。


橋本君の顔の腫れって南さんの暴力が原因なの!


「ああ興ざめだ。小林、明日の取り下げの件わかってんな」


南さんはそう言って私たちの前から消えた。


「橋本君、大丈夫?」


私は橋本君の鼻血をハンカチで拭っていく。


「ごめん。カッコ悪いとこ見せちゃったね」


カッコ?

カッコ!


ひいー!

私の彼ピがカッコ良すぎてキュン死にしそう⋯⋯。


翌日以降、南さんは学校に来なかった。理由はわからない。


 生徒会選挙が公示され、生徒会長の候補者は三人が立候補することになった。


陰キャのイジメられっ娘が生徒会長選に出馬ってマジウケる!

しかも金髪ギャルが下馬評では圧倒的な一番人気って大丈夫か、この学校。


「小林さん、ちょっといい」


私は先生に呼び止められた。


「全校生徒に挨拶する時までに金髪とギャルメイクやめてほしいという要望が出ているんだけど⋯⋯」


私が黙り込んでいると、橋本君が口を挟んできた。


「金髪ギャルがダメなら落選させればいいじゃないですか。先生たちが裏から手を回せば落選させれることできますよね」


「ははは、それができないから私にこんな要望がきたのよ。生徒会長は小林さんっていうのは避けられない状況だからね」


マジ!

これはマズイのでは⋯⋯。

橋本君といちゃいちゃする時間が削られてしまう!


「いいんじゃないですか⋯⋯」


私は吹けない口笛を吹きながらその場を去っていった。


何がいいんだか?


 その日の放課後、若林君がやってきた。


「三日後の全校集会での演説の原稿作ってきたよ」


頼んでねえし。

そんなの演説したら本当に生徒会長になっちゃうでしょ。

コイツ、空気読めよ。


私はその原稿をビリリと破り捨てる。


「こんなことやってるから、お前モブなんだよ」


本当、空気読め!


「まあ、確かになくてもいいけど、公約あんの?」


若林君がド正論をぶっ込んでいた。


「あるよ⋯⋯」


「あるならいいけど、持ち時間五分だよ。大丈夫?」


「余裕なんですけど、ギャル舐めんなし」


四分五十秒ダンマリだな。


 全校集会で候補者が演説する日がやってきた。さて、五分どうする。


「小林さん、大丈夫だよ。どんな演説だってみんなは受け入れてくれるよ」


橋本君が励ましてくれる。


いや、受け入れてくれないほうが私は助かるけど。


私の演説の順番が回ってきた。


よし、本音を言ってお茶を濁そう。


私はマイクの前で黙り込む。


何分くらい経ったかな?


私がずっと黙り込りこんでいるので全校生徒がザワつきだす。一年生の方から声が聞こえてくる。


「せーの、奥さん先輩頑張れ!」


だから、奥さん先輩ってなんだよ。

てか、頑張りたくないんですけど。


私は意を決して口を開く。


さあ、愚民ども。

聞いて驚け!


「二年の小林さくらっす。私の公約は私の明るい高校生活っす。橋本君といちゃいちゃラブラブ生活を楽しみたいので君たちの清き一票は別の候補者に入れてください。以上、現場から小林さくらがお送りしました」


よし、これで橋本君とのいちゃラブ生活は安泰だ!


私はそう言って壇上から降りていった。なんか全校生徒が騒然としているが私のふざけた演説のせいだろう。

私はそう高を括っていた。


騒然としている全校生徒の輪の中に戻るとみんなが拍手喝采をして私を出迎えてくる。


アレ、私はどこで間違えた?


 生徒会選挙の候補者は各クラスのホームルームにお邪魔して選挙活動することが許されている。私の場合は全校集会であんなことをぶちまけてしまったため特に選挙活動は行っていない。


「そういえば前から気になっていたんだけど」


私は意を決して橋本君に訊く。


「選挙のこと?」


「奥さん先輩って何?」


橋本君は俯いて黙り込む。


「何よ、奥さん先輩って? なんか私は一年にバカにされてんの!」


「バカにされているっていうか。ポプラ伝説って知ってる?」


ん、それと奥さん先輩は関係ないでしょ!


私は不機嫌そうに黙り込む。


「文化祭の後夜祭で女子からポプラ並木の前で告白すると添い遂げられるって伝説なんだけど⋯⋯」


橋本君の言葉に私は固まる。


恋が実るじゃねぇのかよ。

貴子叔母さん!


「それでね。一年生の女子の間ではボクたちは⋯⋯。もう既に結婚しているって噂が出回っているらしいんだ。だから、奥さんなんじゃない⋯⋯」


橋本君の言葉に私は静かに頷く。


「ほら、だからさ。バカにされているってわけじゃないよ」


「橋本君、一年生のホームルームに二人で選挙活動に行こう」


だったら、話は早い。

このまま既成事実を作ってしまえ!


 今日は一年二組のホームルームにお邪魔する日。昼休みに橋本君と事前の打合せをすることになっている。公然と二人きりでいちゃいちゃできるのだ。


なんでこんないいことにもっと早く気が付かなかったんだろう。


「それでね。選挙公約はこれにしたいんだけど⋯⋯。説明するのが面倒ならボクが代弁するっていうのはどう?」


別に選挙公約とか必要ないんだけど⋯⋯。

そんなことしたら本当に生徒会長になって忙しくなっちゃう!


「それってこの間、若林が持ってきたやつ? 私、アイツ大嫌いだから無理なんだけど」


若林君って橋本君にデカい態度とるのよね。

父親がこの高校がある市の市長だからって態度デカいんだよ!

この親の七光りが。


「若林君の原稿の選挙公約じゃないよ。ボクが考えたものだよ」


「私は橋本君といちゃいちゃラブラブな高校生活が送れればそれでいいの。生徒会長になったらその時間が削られちゃうでしょ。どうしてわかってくれないの?」


私は橋本君に涙目で訴える。


「でも、ボクは小林さんに頑張ってもらいたいんだ。ボクの⋯⋯その⋯⋯」


「もう、仕方ないな。ダンナに言われちゃ、やるっきゃないでしょ!」


アレ?

ひょっとして。

橋本君って私の操縦上手い?


 一年二組の帰りのホームルームが始まった。私に与えられている時間は五分。まあ、適当に挨拶するだけだから五分でも長いくらいだ。補佐で橋本君がついてきてくれた。


「生徒会長に立候補しています二年の小林さくらです。よろしくお願いします」


全校集会であんなことを口走った女が何しに来たんだって感じだよね。


「選挙公約についてはボクから説明させていただいています。目玉としては部活棟改革⋯⋯⋯⋯」


突然、橋本君が口を挟んできて私の選挙公約を説明していく。


そんな立派な公約だしたら当選確実だよ!


「以上が選挙公約です。最後に質疑応答です。質問のある方は挙手お願いします」


橋本君がそう言うと一人の女子が手を上げる。


「橋本先輩は奥さん先輩と結婚してるって本当ですか?」


その言葉に教室中が色めき立つ。


よし、来た!


「えっと、高校生ですから結婚はしていません。婚約をしているだけです」


私の言葉に色めき立つ一年生と青くなって首を横に振る橋本君の姿がそこにはあった。


よし、これで橋本君の逃げ道を塞いだ!

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