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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第二章 橋本龍之介編
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第二話

 いつも通り定食屋で食事をし会計をしていると小林さんが店に出てきた。


「いらっしゃい。橋本君、明日文化祭の代休だよね。修学旅行の準備で買い物行きたいんだけど一緒に行かない?」


「明日いいですよ。どこにします?」


「私、春日部がいい。ダメ?」


春日部駅か。

東口なら大丈夫か。


「じゃあ、東口改札で十四時でどう?」


「わかった。東口改札、十四時ね」


まあ、いいか。


「ちょっと、さくら。連絡先は知ってるの?」


ボクが帰ろうとするとオバサンが小林さんに言う。


「じゃあ、ライン交換しよう」


小林さんはそう言ってスマホを差し出す。ボクもスマホを出して連絡先の交換を済ませた。


「あたしの高校時代の元カレも橋本君っていうんだけど、当時は彼が携帯持ってなくて大変だったんだよ」


オバサンの元カレって橋本君っていうんだ。


 翌日、午後一時半にボクは春日部駅に到着した。駅の外で昼食をとろうと東口改札に来てびっくりした。


アレ?


「ごめん。待ちました?」


「あ、今来たところだから大丈夫。顔の腫れ、だいぶ良くなったね」


「へへへ⋯⋯」


ボクは少し照れながら俯く。


「小林さん、お腹いっぱいかな? 早めに来て、軽く昼食取ってからここに来ようと思ってたんだけど⋯⋯」


「じゃ、一緒に行く?」


小林さんの言葉にボクは駅前の喫茶店を指差す。店に入って注文した。ボクは日替わりランチ、小林さんはいちごパフェ。


「橋本君って、どんな子供だったの?」


「ボクは陰キャなモブだから⋯⋯。小林さんが思っているような男じゃないから⋯⋯」


「そんなんじゃ、ダメだぞ。プンプン」


どうしよう。

こんな古いの、どうやって対応すればいいんだ。


「えっと、おいしそうだね。いちごパフェ」


「じゃ、一口だけならいいよ」


小林さんはスプーンでいちごパフェをすくいボクに差し出す。


えっ?

どうしよう。

仕方ない⋯⋯。


ボクは少し戸惑いながらもいちごパフェを食べた。


 食事が終わった後に買い物に行った。今日買うのは旅行バックと雑貨類。最初に旅行バックを買うことになった。


「橋本君はどんな色が好き?」


「青かな⋯⋯」


「じゃ、私も青にしよう」


小林さんがそう言った。


どういうこと?


小林さんはそのまま青い旅行バックがある方へと歩いていく。


「私もって? 小林さんはピンクとかがいいと思うよ」


「ピンクって⋯⋯。橋本君もピンクってこと? キャハハウケる」


「なんでボクもピンク?」


「だって、オソロにするからだよ!」


だったら。


ボクは黒い旅行バックがある方へと歩いていった。


「やっぱり黒がいいかな⋯⋯」


「黒ってオトナの感じだよね。やっぱり私は黒だよ」


ボクは苦笑いをしてごまかした。その後、ボクたちは雑貨類を買いそろえた。


「橋本君、最後はアレだよ」


「アレ?」


「やっぱりアレは白がいい?」


「だからアレって何?」


小林さんの言葉にボクは戸惑う。


「し た ぎ」


そんなのひとりで買えよ!


「どれでもいいんじゃない⋯⋯」


「どれでもって、橋本君もだよ!」


「えっ、ボクも?」


「そうでしょ。オソロだし」


ボクは少し考えて口を開いた。


「黒でいいんじゃない」


「黒! いいんじゃない。じゃあ、ランジェリー売場に行くよ」


「いや、ボクはこれでいい」


そう言ってボクが手に取ったのは黒のボクサーパンツ。


「じゃあ、私も!」


小林さんも!


小林さんはそう言ってボクと同じ黒のボクサーパンツを手に取る。


「オソロだよ。うふふ」


「えっ、オソロって色だけじゃないの?」


「ハハハ、ジョークよ。ギャルジョーク! じゃ、ランジェリー売場に行くよ。橋本君」


小林さんはそう言ってボクの手を取ってランジェリー売場に直行する。


「ボクは入口で⋯⋯」


ボクの言葉に小林さんは耳を貸さずに黒のランジェリーの売場に到着した。


「橋本君、彼女がどんなの着たら興奮する?」


ボクは何も考えずに目の前を指差す。


「橋本君、ちょっと試着するけど」


小林さんはボクの手を取って試着室へと向かう。


「橋本君いる?」


小林さんが試着室から声を掛ける。


「います」


恥ずかしいんですけど⋯⋯。


「橋本君、見る?」


何の罰ゲーム?


「橋本君、いないの?」


「います」


「じゃ、彼女のランジェリー姿見ておく?」


もう無理⋯⋯。


「私が彼女じゃ不満?」


小林さんは涙目でボクに訴えかける。


「ボクなんかじゃ⋯⋯」


「橋本君じゃなきゃダメなの⋯⋯。なんでわかってくれないの?」


小林さんはそう言ってその場を立ち去った。その場に買ったものを残して⋯⋯。


とにかくこれ持っていかなきゃ。


ボクは自分の荷物をコインロッカーに入れて電車に飛び乗った。小林さんに電話やラインで連絡を入れながら⋯⋯。


なんでこんな弱いボクなんか。


荷物を持ってお店に行くとオバサンが対応してくれた。


「ごめんね。さくら、今日は無理そう」


「ごめんなさいって伝えておいてください」


ボクがもっと強い男だったら。


 その日の真夜中、ボクはずっとスマホとにらめっこをしていた。どうしても眠れない。小林さんからの返信がきた。


『大好き』


ボクは即座に返信する。


『知ってる』


すぐに小林さんから電話がきた。


「ごめんね」


「ごめんは私のほうだよ」


「じゃ、今回はお相子ってことでいい?」


小林さんが黙り込んでいる。


「明日の朝話したいことがある。ポプラ並木の前で待っているから⋯⋯。おやすみ」


そう言ってボクは通話をきった。


翌日、ボクは学校に到着するとポプラ並木へと急ぐ。


やっぱりまだ早かった⋯⋯。


「おはよう、橋本君。昨日はごめんね」


アレ、小林さん。

今日はいつもより可愛い。


「ボクも煮えきらない態度ばっかりだったから⋯⋯」


「大丈夫、なんか私ひとりで暴走してひとりで自爆しちゃったから、気まずくなって逃げ出しただけ」


なんだ?

今日は一段と可愛いんだけど。


「それでね。修学旅行までのお試しだけどボクとお付き合いしてください。今朝はそれだけを伝えたくて⋯⋯」


ボクがそう言った瞬間、小林さんはボクに抱きついてきた。


あ、もうどうでもいいや。


 今日は十月三十一日。明日から修学旅行。集合場所は東京駅の新幹線改札前。大宮駅で小林さんと合流して東京駅に向かう。修学旅行の準備をしていると小林さんからラインがきた。


『わかった』


何がだよ?


『何が?』


ボクは小林さんに返信した。


ボクにどうしろっていうんだ⋯⋯。

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