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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第二章 橋本龍之介編
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第一話

びっくりした!

定食屋のお姉さんが小林さんだったなんて⋯⋯。


とりあえずボクは定食屋へと向かって歩いていった。カバンも置きっぱなしだからね。


店に入るとオバサンが対応してくれた。日替わり定食を持ってきた後にオバサンは苦笑いをしながら言った。


「ごめんねぇ、あの娘まだ帰ってないの」


「はあ、大丈夫です⋯⋯」


嫌われたのかな?


 帰りの電車の中、ヤンキーの集団を見かけたのでボクは隣の車両に移った。車両を移るのではなく一回降りて次の電車に乗り換えればよかったと後悔した。


「おい、橋本。話あるんだけど春日部駅で一回降りろよ」


南さんがボクに強い語気で言った。ボクは頷くしかなかった。


 春日部駅西口に降りると南さんに暗がりに連れ込まれた。別に南さんひとりなんだからビビることもないんだろうけど、ボクは萎縮していた。


「お前、恋愛未来日記って知ってるだろ!」


南さんの言葉にボクは黙って首を横に振る。


「そんなことねえだろ! なんで小林さくらみたいな陽キャなギャルがお前みたいな陰キャなモブに告るんだよ!」


そんなのボクが訊きたいよ。


「お前、恋愛未来日記を使ったよな。素直に言えば⋯⋯」


南さんの言葉はそこまでしか覚えてない。気付いたらボコボコにされて顔が腫れ上がっていた。


なんだよ、恋愛未来日記って?


 翌朝、ボクは顔が腫れ上がっているので机に突っ伏していた。


「橋本君、おはよう」


小林さんが挨拶をしてくれたのでボクは机から顔を上げた。


「橋本君、顔どうしたの?」


「おはよう。階段から転がり落ちただけだよ」


ボクは苦笑いをするのがやっとだった。ホームルームは修学旅行の打ち合わせをした。


「まずは新幹線の席決めなんだけど、希望はある?」


班長の佐藤君が話し始める。


「私は橋本君の隣じゃなきゃ、修学旅行欠席するから」


小林さんが無理難題を言い始める。


「じゃ、橋本と小林さんはこの二人席で⋯⋯。後は適当にこうしよう」


そう言って、川崎君が新幹線の席順割に名前を書いていく。


「それじゃあ、二日目の自由行動だけど、小林さんの希望は?」


佐藤君が小林さんの顔色を伺う。


「嵯峨野と伏見稲荷大社。それ以外はダメ!」


「ああ、嵐山と伏見稲荷ってことでいいかな? 他に希望は⋯⋯。ないってことで決定だね」


佐藤君は話をまとめる。


「えっと⋯⋯、それで部屋割だけど⋯⋯」


林君が口ごもる。


「二人部屋なんだから席通りにすればいいじゃん」


小林さんの言葉に場の空気は和む。


「じゃ、橋本と小林さんは別の班の人⋯⋯」


四條君の言葉に小林さんは噛み付く。


「聞こえなかったのかよ! 席通りでいいって」


「いや、男女一緒はさすがに無理だよ。それが決まりだし」


佐藤君が正論を言う。


「決まり? どこの法律? 女の私がいいって言ってんだ。それでいいだろ。ガルルル!」


小林さんが吠える。


「あんたが橋本君を襲う恐れがあるからよ。小林さんは私と一緒の部屋。それでいいでしょ?」


いつの間にか南さんが小林さんの前で腕組みをしてこちらを睨みつけている。小林さんが渋々頷くと、南さんは話を続ける。


「それから若林君のところは男一人だから、橋本君は若林君と一緒の部屋でいい?」


南さんがそう言うとボクは頷くしかなかった。


 ホームルームの後は文化祭の後片付け。後片付けっていってもボクたちのクラスは昨日のうちに片付けてしまったので後片付けすることはほとんどない。小林さんが廊下にいたのでボクは隣に歩み寄った。


「小林さん、ちょっといい?」


小林さんが頷くのでボクは話しを続ける。


「小林さんがいつも行く定食屋さんのお姉さんっていう認識で合っている?」


「そうだよ。ごめんね。ずっと黙っていて。ほら、私のスッピンってあんなんじゃん。恥ずかしくて言い出せなくて⋯⋯」


「あんな? すごく可愛いと思うけど⋯⋯」


いや、ホントに!


「そういえば、その顔のケガどうしたの?」


「あの後浮かれ気分で帰ったら階段から思いっきり転げ落ちちゃって⋯⋯。カッコ悪いね。ごめんね」


本当のことは言えない。


「それでね。昨日の返事なんだけど⋯⋯。もう少し待ってもらっていい?」


小林さんは静かに頷いた。

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