6ターン目:タイトル回収は最高のタイミングでやるべきなのよね
私は、取得した《暗黒のスライム》のカードを眺めた。
えーと、コストは2。
ライフは10ポイント。
そして、攻撃力は6ポイント、か。
この辺は、さっき戦った時の黒だるまくんと同じパラメータだよね。
攻撃力6は《通常攻撃》のことだもんね。
でも、カードの挙動がよくわからないな。
2コストを払って、このカードを使ったら、具体的に何が起きるんだろね。
黒だるまくん……《暗黒のスライム》を召喚することができるのかな?
だとして、召喚後はどうなるんだろ。フィールドにとどまって、そのまま戦ってくれる?
それに、このカードを取得したって……それは、デッキに投入されたことになるのかな。
それとも、デッキ編集モードみたいなのがあるのかな。
うーん、わからないことはまだまだ多いですね。
私はなんとなく、《暗黒のスライム》のカードをとりあえずブンブンと振り回してみる。
そして、ちょっとかっこよくビッと前に突き出し「召喚!」なんて叫んでみたのだった。
すると、さっきのカードバトルの時と同じように、カードが巨大化して輝いた!
「うっひょい!?」
ぼてりっ。
その光の中から目の前に、黒くてでかいお餅のようなカタマリが落ちてきた。
……え、これって、黒だるまくん?
あれ、でも、さっきまでは戦ってた時はさ、ほら、鎧とか兜とかつけて、剣を持ってたりしたのに。
もう今は本当に、黒いカタマリとしか言いようがないよね。
「お、おーい」
黒だるまくんらしきそれに手を振ってみる。
するとそのカタマリは、ももっ、と体を大きく膨らませてアピールする。
おっ、おっ、これはまさかやはり。
私は手を、おそらく顔かな?ほっぺかな?みたいなところに伸ばし、もちもちも、もちもちも、と触れてみた。
……ああーーー。
この柔らかい感覚。やっぱり黒だるまくんだぁ。うひひぃ。
鎧や兜がなくなった分、すっかり持ちやすくなった黒だるまくんを、私は力を入れて抱き上げてみる。
……うーん、やっぱり結構ずっしり重い。
この重みがさっき、私に6点ダメージを与えたんだもんな。ぐっ、傷が痛む。
それにしても、本当にどこをもちもちしても、全然怒らないんだね、君は。もちもちも。
あー、すごいやわいよー。抱いて寝たいよー。ひんやりしてるし。
そうやって、黒だるまくんと一方的なもちもちコミュニケーションをとっているうちに、いつの間にか痛みが和らいでいた。
よいしょっと。足を踏み出して。
うん、歩ける、歩ける。
私が数歩歩いてみると、私の後ろをボテボテもちもちと、黒だるまくんがついてくるのだった。
やっぱり、私のカード、つまり仲間になってくれたって認識でいいのかな?
私が立ち止まると、黒だるまくんも、もももも?と立ち止まって、私の顔を覗き込む。目はないけどね。
そうだなぁ。
だったら、名前をつけてあげた方がいいね。
《暗黒のスライム》っていうカード名だけど、ちょっとそれじゃ怖いし冷たいし、呼びにくい。
暗黒、暗黒、ダーク?
でも感触としてはめちゃめちゃおもちだしな。
お餅。
大福。
……暗黒もち。
あんころもち?
あ、そうか。
餡子だ。
「あんこ」でいいんだよ。うん!
「よーし!君の名前は、今から「あんこ」だ!
君はあんこ!
あっ、そうだ、私はつつじ!
よろしく、あんこ!」
私の言葉が通じてるかはわからないけど。
あんこは、テンションの上がった私の言葉に、ももーんと黒い体を伸ばしてアピールするのだった。
あー、なんかこういうのいいな。
私って、元の世界でも、あだ名で呼べる友達なんかいなかったし。
…………。
うーん。
でも、だからといって、元の世界に戻りたくないわけじゃない、かな。
家族とかは、あっちにいるわけだし。
あんことの戦いを通して、存分に痛みを味わったことで、これは夢じゃなさそうだってなんとなくわかってる。
私は、日本じゃない、ファンタジーっぽい異世界に転移してしまっているんだ。
……どうやったら、元の世界に帰れるんだろう。
急に、不安が心の中にぶわっと広がる。
戦いの興奮が収まって、現実的な問題に対処しないといけないフェーズに入ったんだ。
本当に、これからどうしよう。
こんな、ゲームオタクの陰キャ女子が、一人ぼっちで生きていけるはずがないもんね。
隣にこのあんこがいなかったら、不安で泣き喚いていただろうな、なんて。もちもちと、あんこの腹らしき部分を揉みながら思う。拒否されないのが嬉しい。
「ねえあんこぉ。
この近くになんか、人が住んでるところってないのかな?」
あんこが何か答えてくれるわけじゃない。
もちょ?と首?を傾げるだけだ。
でもよし。
まあ、考えててもしょうがないよね。
いざとなったらあんこもいるし。
私はとりあえず、勘に従って、力強く一歩を踏み出した。
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で、しばらく意気揚々と進んで、茂みを抜けたらそこは崖っぷちでした。
っあー。
しまったなー。
こっちじゃなかったなー、なんてため息が出るけどね。
高い崖の上ということは、かなり広く世界を見通すことができるってこと。
えーと、崖の下には平原が広がっていて、その先に、明らかに人工の建物が集まった集落のようなものが見える。
うん、とりあえずは、あそこを目指せばいいかな。
もちろんこの崖からは直接降りられないから、どこか回り道しないといけないけどね。
でも、結構歩きそうだな。
すでに足が痛いんだ。
日頃から、もうちょっと運動しとけばよかったな、と、ブルーの長い制服スカートから覗く、貧相な細い足をながめて苦笑。
と、視界を横に移動させると、本当に、ザ・ファンタジー、といった光景を見つけたのだった。
崖の下の平原、少し遠くに。
人間が2人と、ゴブリンのようなモンスターが対峙しているのが見えた。
今からバトルが始まるんだろう。
わー、すごいな。
本当に、剣と魔法の世界って感じがしてくるぞ!
あの、しっかりした鎧を着た人は、戦士とかタンクとか、そういう役割の人だろうし。
後ろの、帽子をかぶった女性は、魔法使いなんだろうな。
いずれにしても、私より段違いに強そう。
声も届かなさそうな距離なので、絶対にこっちにはダメージが及ばないと思えるからこそ、ムクムクと興味本位の気持ちだけが湧き上がる。
えー、あんなに強そうな人たちって、どういうカードで戦ってるんだろうな。
デッキレシピ見せてほしいよ!!!
私が今まで見た最大火力は2コストで15点だけど。そんなのとはレベルが違う火力のカードとか使ってるんだろうなー。
もしかしたら、3桁ダメージもありうる!
それからそれから、魔法カードっていうのもちょっと気になるよね。
詠唱のために、ターン待機とか必要なのかな?
それで、私も、デッキにカードを取得することで魔法を使えたりするのかなー、なんて!
……えへへ。ついカードゲーマーのサガとして。
大変な状況を忘れて、カードのことで頭がいっぱいになってしまいました。
……あ!接敵する!戦いが始まる!
戦士と魔法使い、どっちからカードを使うんだろう。
それに、ライフポイントも、体力値も見たい!
距離があるので、もしかしたら細かい数字までは見えないかなー。
…………
…………
必死に目を凝らすんだけど。
あれ?
……なんか、あれれ?
ゴブリンのこん棒攻撃を、戦士の人が盾で弾きながら、剣で切り返してる。
その間に、後ろの魔法使いの人が、多分あれは呪文を唱えてると思う。
あっ、炎の矢が出てきて、ゴブリンに炸裂した。
うわー、古き良きRPGって感じだ。
ものすごく親しみが湧くなー。
……でも、でも、でもね。
おかしいよね。
あれ?
あのさ。
カードは、どこ?
めっちゃ、普通に戦ってるようにしか見えないんだよ。
距離が遠いからとかじゃなくて。
カードも、ライフポイントも何もかも見えないし。
リアルタイムで淡々と、戦闘が進んでいってる。
うおーっ、雷魔法!
これでゴブリンはダウン!
立ち上がれません!試合終了っ!!!
……ふぅ。
いや、終わったけど。
カード1枚も出なかったけど。
おいおい。おかしいよね。
ねえ、あんこ?
あんこはもちっと首をかしげる。
だってさぁ、私とあんこはさ、ああやってカードでバトルしたもんね。
……あれ?
もしかして、もしかしてだけどさ。
もしかしてこのカードバトルって、私だけがやってるのかな。
マジで?
ええ?
け、剣と魔法の世界で……
私だけカードバトルしてるのは、何なの?
これにて、第一章が終わりです!
区切りがついたー!ホッとしました。
これから、つつじちゃんとあんこがどうなっていくのか!お楽しみに!
早くガールズラブが書きたいなぁ!




