3ターン目:死ななきゃ安い、は机上の空論なんですよな
最初だけ!最初の章は丁寧に説明させてください!ルールをね!
ひん、と喉から情けない音が鳴った。
山札からカードだけは引けたものの、発動ができないままにどうやら、目の前の黒だるまのターンが始まり。
《通常攻撃》のカードが表になった。
カードテキストは【1体を対象とし、6点のダメージを与える。】
ひっ、ひいいっ!
私は思わず、ギュッと目をつぶってしまう。
6ダメージがどれほどか全くわからないが、衝撃に備える。
……
……
……
んっ……?
あれ?
数秒経っても、特に何も起こらない。
薄く目を開けると、状況は何も変わっていない。
私の少し前には、黒い鎧をつけた小さなだるま型モンスター。
大きく表示されている、相手の《通常攻撃》のカード。
そのまま、時が止まっているかのよう。
だからと言って、私の足が動くわけでもないのだった。
な、何、この時間?
目を泳がせる。
できることを探す。
私に今、何が、できるのか、可能性は……!
可能性……。
カードゲームにおいて。
可能性は、いつだって。
その手にある、カードの中にある。
左手に構えた5枚のカードのうち、2枚がぼんやりと光っているように思えた。
それはいずれも《防御》のカード。
【次の攻撃のダメージを、5点軽減する。】
今?
今、まさか。
このタイミングで、カードを使う権利が、私にある?
考えながら、体は勝手に。
カードゲーマーの習性のように。
相手が攻撃のカードを切ったから、防御のカードで『対応』する、慣れ親しんだ流れ。
カードを1枚抜き、前に突き出し、まるでアニメの主人公のように私は叫んでいた。
「対応して《防御》を発動!」
何も起きなかったらどうしよう、とも思ったが杞憂だった。
いつの間にか私の横に浮かんでいた光る球が、《防御》のカードに吸い込まれ。
次の瞬間、カードが巨大化し、強い光を一瞬放って、うっすらと消えていく。
「発動、したんだ……?」
したのかな。
したっぽい。
したんじゃないかな。
しててください。
と、祈る私の体が、
「うひああああああ!!??」
勝手に、私の意思と関係なく動く!
足が大きく開き、地面にがっしりと体重をかける!
腰を落とし、少し前傾し、両腕が上がって上半身と頭を守る体制をとる!
わかった、わかった!
カードの効果が、私の体を勝手に動かしているんだ!
《防御》させているんだぁ!!!
混乱と理解を同時に体感しながら、両腕のガードの隙間から、黒だるまの様子を見た瞬間だった。
さっきの私の《防御》のように、黒だるまの《通常攻撃》が光を放って、消えた。
あ。
発動、したってこと?
じゃあ次に来るのは……!
もちもちも。
ももも。
もぎゅう……
黒だるまが、ぐっと下半身(?)に力を込め。
も"っ!!!
想像もできないスピードで、黒い塊が私の視界に急接近した。
同時に、
ごずっ!!!
重い衝撃と、痛み。
痛いというより、経験したことのない熱さ。
「おぐぇ……ぇ……!」
叫ぶこともできない。
ただ、呻く。
じわ、ぼろり、と涙が溢れてこぼれた。
滲んだ視界の中で、もづん、と黒だるまが着地し、もちもちも、と移動してまた先ほどの場所に移動したのが見えた。
黒だるま。
そうだ。こいつが私に、今、すさまじい体当たりをしたのだ。
両腕でガードしていたのに。
直撃した腕がじんじんする。
見ると、赤く腫れ、わずかに擦り傷のような出血。
どろり、と嫌な感覚が鼻にも。
ぼたぼたと、草の上に赤い雫が落ちた。
血だ。
鼻血。
私の鼻血だ。
ガードした両腕が、衝撃に耐えきれず鼻に当たったのだろう。
いや、ただの鼻血だ。
手が痛い、加えて鼻血が出た。
それだけだ。
モンスターの攻撃を受けて、その程度の怪我なら幸運だ。
でも。
でもさぁ……!!!
かん、考えてみてよ……!!!
中学生の女の子が、顔を殴られて、鼻血を出すなんてことが……日頃から、あるわけがないじゃん!!!
ぼろぼろと、涙が滝のようにこぼれる。
痛い。
熱い。
怖い。
痛い。
いやだ。
逃げたい!
帰りたいよ!!!
「ふぅー……!
ふぅー……!」
鼻が血で詰まっているので、口で荒く呼吸をする。
こ、こんなの、私が好きな、ゲームじゃない!
ゲームじゃない!
ゲームじゃ……!
ピッ、と音がして、私のデッキの横に表示されていた赤い文字が変動する。
99/100
あっ……。
涙と鼻血でひどい顔のまま、私はその数字を考える。
赤い文字。
黒だるまの10/10と同じタイプの文字。
ならばやはりこれは、お互いのライフポイントを示すのだろう。
「は、はっ、ははっ……」
変な笑いが漏れてしまった。
じゃあ本当に……
6ダメージの《通常攻撃》を《防御》で5点軽減して、私は1点のダメージを受けたってことなんだね。
こんな……
痛くて熱いのに……1点のダメージなんだ。
あー……。
なるほど、なるほどね。
やっぱりゲームなんだ。
ルールだけは、バカみたいにゲームとして扱ってくれるってわけだ。
でも……ゲームであり、現実でもある。
それが、よーくわかりました。
だって、だってこんなに、こんなに痛いんだもんな!!!
私は、ハンカチを取り出して、べちょべちょの顔を拭う。
ハンカチさんは悲惨な色合いになったが、私の顔はいくぶんマシになったかも。わからん。鏡ないもん。
いずれにしても、ピンク髪に相応しくない、ヤバい顔面をしていると思う。
ああ、まだ血がついている、とかじゃなくてね。
「……じゃあいいよ、徹底的に……やるよ」
たぶん、恐怖を無理やり押さえつけて、プライドだけで気力を奮わせた、歪んだ表情だから。
こっちは、ゲームしかしてこなかった女なんだよ。
こんな……
ルールがわからないゲームだとしても、さ。
手札枚数は、相手が3枚で私が5枚。
ライフポイントは、相手が10で私が100、って。
明らかなハンデ戦だ。
飛車と角をこっちは使わないけど、そっちは2枚ずつ使っていいよ、くらいの。
ぼろり、とまた大粒の涙がこぼれたが。
これは悔しさの涙だった。
バカにしやがって……!
バカにしやがってぇ……!
この北斗つつじちゃんのぉ……教室の隅っこで培った、ゲームの実力、 見せてやろうじゃん!!!
気持ちが高ぶるにつれ、痛みは消え、考えはクリアになったような気がした。
黒だるまも、心なしか怯んだような、とても小さな、あんこ餅のように見えてくるのだった。
あんこ餅のイラストをAIで思いどおりに出力できず、困っています。




