4ターン目:リソース管理がカードゲームの美味しいとこだよって
長いバトルになってきたね。まだまだ続くんじゃ。
高揚した私に呼応するかのように、左手に持った4枚の手札がぼう、と薄く光った。
手から離れて浮き上がったそれらのカードは、デッキのすぐ隣に移動し、表向きで重なる。
デッキの横に、表向きで置かれるカード群。
ターンの最後に、手札が移動する場所。
もうね。
こんなのね。
めちゃめちゃ、見たことある構図だ。
(墓地、だ。)
セメタリー、ダークエリア、トラッシュ。
名前は何だっていいや。
とにかく、ゲームに使用したカードを置く場所なのだろう。
私が発動した《防御》も合わせて、手札として持っていた4枚も全て墓地へ置かれた。
今、私は手ぶらだ。
しかし、特に動揺はなかったのだね。
こういうタイプのカードゲームか、と落ち着いて飲み込んだだけ。
だったら、当然こうするんだ。
私は、ゆっくりと山札に手を伸ばす。
……
……
……
ほら、ね。
山札に拒絶されず、カードがドローできるってわけ。
スッスッ、と。
5枚、滑らかにドローして、私の新たな手札とする。
《通常攻撃》に《防御》。
そして初めて見るカードが3枚。
うん、5枚。
そして一応、もう1枚引けるかどうかチャレンジして、弾かれることを確かめておく。
ひひ……。
うひひ……!
わかってきた!
わかってきたんだよなぁ!!!
……陰キャスマイルが出てしまいました。申し訳ありません。
黒だるまを見ると、同じように手札を捨て、新たな3枚が頭上に浮かんでいた。
……うん。
今は、ちょうどターンの切り替わりなんだ。
つまり。
このゲームにおいて、1ターンは、手札をお互いに揃えてから始まるってこと。
そして、ターンの終わりには、使ったカードも使わなかったカードも全て墓地に置くということ。
(私は、そのタイプのカードゲームのが好きだけどね。毎ターン、たくさんドローできるから。)
カードを引きたくてこっちはカードゲームやってるもんでね……なんて、余計な考えが挟まるほど、私の頭は冴えていた。
はじめてのゲームで、チュートリアルがおもいっきり不親切だったとしても。
この北斗つつじちゃん、もっと不条理でどうしようもないゲームも、体験してきている!!!
ふん、と鼻息荒く、手札を確認する。
《通常攻撃》【1体を対象とし、6点のダメージを与える。】
《防御》【次の攻撃のダメージを、5点軽減する。】
の2枚は、さっきのターンでも見た。
問題は残り3枚。
うち2枚は《涙のしがみつき》という……、
……んー。
んんー!!!
えー、私が!北斗つつじが!
私がボロ泣きで、敵の足に、両手でしがみついているイラストが書いてありますね!!!!
もう慣れたよ!
問題は効果。
【1体を対象とし、このターン、阻害3を与える。】
あーん。
わからん用語が出てきたぁ……。
なんやねん、阻害3。
阻害3ね……相手に、何らかの、ダメージ以外の悪い効果を与える、デバフのカードであることはわかるけどさ。
何を阻害するの?
3は何?回数なの?
この意味不明のカードが2枚もある。
複数枚投入されているカードということは、有用なのかなぁ。
私がデッキ組んだわけじゃないから、わかんね。
手札の最後の1枚は《緊急回避》のカード。
おっ、これはイラストアドが高い。
い、いや、もちろん私のイラストなんで、あまり期待はしないで。
私が、敵の攻撃を、宙返りでひらりとかわしている、今までで一番マシなイラストだ。
【コスト2以下の攻撃を、1回回避する。】
効果もまあ、さっきよりまだわかる。
ただ……。
「コスト2以下……コスト、か……」
気になっていた。
さっきのターンで私は《大暴れ》のカードが使えず、《防御》が使えたという問題だ。
「コストが足りなかった……のかな?」
大抵のカードゲームにおいて、カードを発動するために必要な条件が設定されている。
たとえば、手札を捨てる。
デッキの上から必要数墓地に送る。
リソースを生む専用のカードを場に出す。
なんにせよそれは当然、 カードに書いてあるはずだ。
その前提で、あらためて手札を見れば、一目瞭然だった。
カードの右上に、白い丸が描かれているが、これは模様ではないと思う。
《緊急回避》のみ、丸が2個描かれており、他の4枚は1個ずつだ。
素直に受けとれば、《緊急回避》だけがコスト2のカード。その他はコスト1のカード、ということ?
「ぼ、墓地確認しますッ」
いつものくせで宣言し、わたわたと、私の墓地(たぶん墓地)に手を伸ばすと、シャッ、と下から順にカードが大きく表示された。大変便利だ。
……
……
……!
ほら、ね!
前のターンの手札で《大暴れ》だけが、白丸2つ。コスト2のカードだった!
それじゃあ、考えを先に進めよう。
じゃあ、そのコストはどうやって支払う?
たとえば今、私は何コスト使えるの?
その答えも実は、うっすらと見えていた。
さっきのターンで、《防御》カードの発動時。
私の横にいつのまにか浮いていた光る球が1つ、カードに吸い込まれてから、効果が発揮されたように見えたのだ。
あの球が、きっと、カードを使うためのコスト。
私のリソース。
そして今、目の前の黒だるまの横にも、2つの光る球が浮いているし。
私の横にも同じく、光る球が2つ浮いているのだ。
私の考えが正しければ、今お互いに、2コスト!
リソースを持ち合っている!
テンションを上げ、うひひ、と気味の悪い笑みを浮かべながら。
調子にのって考察を続ける私だったが。
ま。
そりゃ、いつまでも時間を使えるわけがないってことで。
もちもちも。
ももも。
「あっ……」
黒だるまが、動き始めた。
ゆっくりと、黒い剣を構える。
明らかに、さっきとは違う攻撃が来る。
ひいいい。
一気に青ざめる私。
あっあっあっ。
さっきもそうだったけど、たぶん、しばらく時間がたつと、カードの使用権が相手に移るんじゃないかな!!!
黒だるまのカードが1枚表になる。
《暗黒の小剣撃》
【1体を対象とし、15点の闇ダメージを与える。】
「うひひ、うひひひ……」
これは、楽しくて笑ってるわけではないんですね。
さっき、1ダメージで鼻血が出るほど痛かったことを思い出して、恐怖の呻きが笑みとなって漏れてるんですね。
キラリ、と鈍く光る黒い剣。
15ダメージだって。
こう、これで、この剣で、私に斬りつけるんでしょうね。
「うひゅうううう!!!」
私はバカだ、少しルールがわかったからって、発生する痛みは本物なんだよ!!!
いくら、私のライフポイントがあと99点あるからって、15点なら全然大丈夫、なんて思えないでしょ!!!
ザクッ、ぶわーっ!って血が出て、あはは、死ななきゃ安い、なんて言えるわけがないでしょ!!!
さっきみたいに《防御》で5点軽減しても、10点だよ!!!
よかった、軽減しなかったら指が完全に飛んでたな、ギリギリ繋がってる……とか、だくだく出血しながら言うのはイヤだよぉ!!!
でも。
でもでも。
今、足ががくがく震えて、またおしっこをチビろうとしている北斗つつじもいるのだけど。
カードゲーマーとして、冷静な北斗つつじもまたいて。
あっ、
《暗黒の小剣撃》
白丸が2つついてる。
コスト2じゃん。
そう認識したら、不思議なほどに、体がスムーズに動いた。
震えもなく。
手札の《緊急回避》を右手で抜き、突き出して、宣言する。
「私は対応して《緊急回避》を発動!」
私の横の光る球が2つ、カードに吸い込まれて、カードが巨大化して発光し、消える。
コストを2払って、カードの発動に成功したんだ、と納得する。
《緊急回避》【コスト2以下の攻撃を、1回回避する。】
黒だるまが、
ももも!
ももーッ!!!
と、見た目からは予想もできない速度で、私に斬りかかる。
これが《暗黒の小剣撃》か。
横目で見ながら、私の体は勝手に、足にグッと強く力を込め。
「おあ………
あああああああああああああ!!!!!!」
人生初。
人生初の宙返り。
こ、こんなに飛ぶ必要あるのかな!!!
大きな大きな宙返り。
当然、黒だるまの残撃は空を斬り、もっももももも、と勢い余って地面に転がる。
その横に、すたっ、と優雅に着地する私。
私の顔は、涙と鼻水が少し垂れた酷いもので、回避に成功した者には全く見えなかったけど。
いずれにしても、2ターン目を生き残った。
私は大きく息を吐き、残った手札を墓地へ置くのだった。
このゲーム、わかったぞ。
さすがにもう、わかったぞ!
わかったぞ、わかったぞ、わかったぞ、わかっ……




