2ターン目:ドロー枚数なんて多ければ多いほどいいですからね
AIの力を借りて挿絵を入れてみました。
山札からカードを1枚ドロー。
驚くほど自然な動きで、私は引いたカードを左手に持ち変える。
ま、こちとら死ぬほどカードで遊んできたんでね。
相手がいなくても1人回しを無限にしてたんでね。
空中に浮いたデッキは、触れても全く動かない。そこに固定されているかのようで。
今引いたカードの手触りも普通だ。
まるっきり、現実世界のカードのそれだ。
紙製だとは思えないシチュエーションだけど、慣れ親しんだ感触に私は安堵する。
……ただ、カードを保護するスリーブに入っていないのがとても不安になるってのはあるかな!生のカードをそのままドローするなんて、いつぶりだろうね。
引いたカードを確認する。
あまりにもシンプルなカード。
カード名が《防御》。
カードイラストには……
あっ、えーっ……嘘でしょう……
その、カードイラストには……!!!
な、なんか、ピンク髪の弱そうな女の子が、必死に縮こまって、身を守ろうとしている様子が描かれていた。
率直に言って、無様というか。必死だな、というか。
イラストアドの欠片もないですね、というか……
(私の、私のイラストじゃねーか……ッ!!!)
髪の色以外は、ものすごく見覚えのあるッ!
ぼさぼさロングヘアー!
三白眼!ジト目!貧相な体を包む青い制服ッ!!!
紛れもなく私、北斗つつじの姿が、その《防御》カードには描かれていたのだった。
おごごごご。
辛すぎる……!
こんな形でカードイラストデビューしたくなかった……!
選手権で優勝とかして、私の絵が強いカードのイラスト違いになって、そのカードのあだ名が私の名前になる……とかでも恥ずかしいのに!!!
《防御》て。
どう見てもコモンカード。
スターターデッキに入ってるやつ。
下の効果テキストも、実にシンプル。
【次の攻撃のダメージを、5点軽減する。】
そ、そうでしょうね。
まさに防御といったらそんな感じよね、というテキスト欄。
私のカードゲーマーとしての勘だと、この「5点」はたぶん相当ショボい数値だと思う。
ちら、とカードから顔を上げる。
目の前の、黒い二頭身の鎧騎士は、まだ動きを見せない。
黒いだるまさんみたいなのが鎧を着込み、必死に小さな剣と盾を構えている姿は、見ようによっては可愛かったが。
あいにく明らかな「殺意」が滲んでいるため、私の目尻にもじわわ、と涙が滲むのだった。
(い、いや、カード1枚を見ただけで諦めるなっ、北斗つつじ!)
私は、さらにデッキに右手を伸ばした。
だって、あっちの黒だるまは頭上に3枚のカードが浮かんでいる。
私はまだ1枚しか引いていない。
少なくともあと2枚引く権利はあると見たのだ。
ドロー。
変に力を加えずとも、するりと山札からカードが引ける。
ほらね、まだドローできた。
にへ、と緩む口元が固まる。
引いたカードを見たからだ。
2枚目の手札は《防御》。
さっき見たイラストと効果。
ふ、
ふへへ、
わ、
ワンペア成立だぞぉ……!
いやまだだ。
防御カードがあるなら、攻撃カードもあるはず。
(組んだ覚えもないけど)私のデッキを信じろ!
もう1枚ドロー!
ほらね。
カードイラストが先の2枚とは異なる。
まあ、また私、北斗つつじちゃんの可愛くねーイラストだけど。
今度は必死に、石を投げている私が描かれているのだった!
カード名《通常攻撃》。
カードイラスト、がんばってる私。
カードテキスト、【1体を対象とし、6点のダメージを与える。】
おっ、攻撃カード!
攻撃カードが来たよこれ!
と喜ぶ気持ちと、この《通常攻撃》が6点ダメージで《防御》が5点軽減か……攻撃の方が防御より少し有利、そういうバランスのゲームか、と少し嫌な汗が垂れる。
だから汗っかきなんだって。制服の背中とかたぶん、じわわって染みてると思う。うぐぐ。
さ、
3枚引いたけど……。
しかし、特に、対戦相手(敵モンスター、と言いたくない。恐いから)の黒だるまは動かない。
微動だにしない。
これ、カードゲームだとしたら、もしかして今は私のターンなのかな。だから、私がカードを切るまで展開が進まないのかな。
いや、もしかしたら……
私は、デッキをちらと見た。
薄いデッキだ。
10枚はあるけど、20枚はないかも。そのくらい。
ためしに……!!
ごくり。
私は、カードゲーマーの性として。
もう1枚、ドローしてみようと思ったのだ。
だって……ドロー枚数なんて多ければ多いほどいいですからね!!
ね!!!
同意をしてください!!!
「ドロー。」
あっ、声まで出ちゃった。
でも。
先ほどまでと同じように、山札のカードはするりと私の右手に吸い付き、流れるように左手に移動して手札となる。
今引いたカードはまたもや《通常攻撃》。
少しがっかり。
今の手札は4枚。
《防御》と《通常攻撃》が2枚ずつ。
だから私は……さらに欲張ることにした。
「ドロー!」
ああ、大声が。
めったに出さない大声が出ちゃった。
ちょっと裏返っちゃった。
それでもまるで、カードアニメのキャラクターのように。
私は5枚目のカードを引き、その表面を確認する。
ぶお、と軽く風が吹き、私のピンク髪が大きく広がった。
ふ……!
《大暴れ》
【1体を対象とし、15点のダメージを与える。】
ほらね!!!
よしよしよし!!
こういうカードが入ってると思ってた!!!
さっきの《通常攻撃》が6点ダメージだから、2.5倍の火力のカードだ!!!
問題は!!!
カードイラストが、泣きながら両腕をぐるぐる振り回して『ウワアアアオオオオ!!!』と叫びながら突進している、私!!!
クソカードめ!!!!!
つつじちゃん(私)が可哀想でしょ!!!
イラストレーターを呼べ!!!!!!
私は憤りをおさえながら、さらにデッキに手を伸ばすが。
バチッ、と弱い衝撃で右手が弾かれる。
デッキに拒否されたかのよう。
もうこれ以上、カードを引くことはできない。
なるほどね。
つまり、私の手札は、5枚ってことなんだ。
理解可能理解可能ッ!
そして私にはこれ以上の手札はもう要らないのだった。
だって、相手の黒だるまを見ていて、私は気がついたのだから。
赤いハートマークの横に、10/10って数字があからさまに浮かんでいることに。
これ、どう見ても相手のライフポイントでしょ。
最大値が10で、現在値が10ってこと。
これをゼロにしたら、私の勝ち、そういうことでしょ。
つまり……
あーっ、申し訳ないなぁ。
黒だるまくんのライフが10しかないのに、15点ダメージのカードなんて引いちゃったんだよなー。
おいおいこれじゃあ……meの勝ちじゃないか!
カードゲームにおいて、1ターン目での勝利は少しマナーが悪い。……とはいえ、それはカジュアルな場での話だ。
真剣勝負なら、むしろ少しでも早く勝負をつけるのが正しい作法ッ!
私は《大暴れ》のカードを手札から右手で抜く。
そして、大仰に突きつけるのだ。
くらえっ、黒だるまくん!!!
ばんっ!!!
んっ。
しかし何も起こらない。
カードを突き出すだけでは、発動として扱われないのかな?
くそー、恥ずかしい。
「悪いけど終わりだよ!《大暴れ》発動!」
……
……
……
んー。
要らん言葉をつけたからかな。
「お、《大暴れ》発動!」
……
……
……
「あ、あの、メイン入ります、
《大暴れ》をキャストしたいんですけど、何かありますか?」
……
……
……
あっ、あっあっ、
嘘でしょ。
カードの発動方法がわからない。
私は何度も《大暴れ》を持ってポーズを決めるが、何一つカードは効力を発揮しないのだ。
そのうちに。
そんなことをしているうちに。
今まで動かなかった黒だるまが、ゆっくりと。
もちもちも、と足(?)をこちらに進めた。
鈍く光る黒い剣が、嫌でも目に入る。
これは……
まさか……
ターンが、相手に移った、のでは?
もちもちも。
チャキ。
黒だるまが私の目の前で立ち止まると。
そいつの頭上に浮かぶ3枚のカードから、1枚が大きく広がり、表になる。
《通常攻撃》
あっ、知ってる、そのカード。
へー。
イラストは人によって違うんだ。
黒だるまくんが体当たりしてる絵が描いてある。
テキストはいっしょなんだね。
【1体を対象とし、6点のダメージを与える。】
はーん。
1体に6点ね。
誰に?
……
……
……
私に6点だよおおおおお!!!!!
足は動かない。
さっきの、デッキにさわれなかった時のように、問答無用で動かない感じだ。
ルール的に逃げたらダメってこと?
だったら、
だったら、
チュートリアルをちゃんとやってよ!!!!!
じわわ、と。
涙でも汗でもないものが漏れた気がした。
気のせいであれ。
気のせいではないです。




