1ターン目:ルールがわからんゲームを突然やらすと友達を失くすんだよなぁ
女の子しか書く気はないので、百合ものだ!と思って読んでください。カードも少し出るよ。
ずっと前から、ゲームが好きだった。
おおよそ、ゲームと名の付くものが好きだった。
ボードゲームやパーティーゲーム。
デジタルゲームもアナログゲームも。
RPGにシミュレーション、ノベルゲームにパズルや謎解き、脱出ゲーム。
その中でもやっぱり、私がずーっと大好きなのはカードゲームなんだなぁ。
空を見上げると、真っ青に透き通っていて。
心地よい風が頬を撫でる。
そんな中、私は、つーっと冷たい汗を流していた。
頭の中に、今までやってきたカードゲーム遍歴が次々と流れていく。
モンスターを召喚して戦うものだったり。
魔法を打ち合うバトルだったり。
領土カードの取得数を競うゲームもあったなぁ。
とにかくみんなが、同じルールに従って、最善と信じたカードを切る。
反射神経や難しいコマンド入力は要らない。
判断力や先読みの力が勝敗を左右する。
そして、経験値や知識といった、ゲームの中に表示されないパラメータが、私という人間の中に蓄積していくことで強くなっていく感覚。
ひどく平等なのに、とても大きな差がついてしまう。
何より、カードをドローするのがどのカードゲームでも一番楽しいよね。
ドローしたカードによって、そのターンの動きを決めるんだから。
すべてはドローから始まると言ってもいいんだ。
だから私は。
本当に何もわからないけど。
ここがどこなのか、何が起きているのか。
そしてルールも全く把握できていないけど。
これが、カードゲームであるのならば。
とりあえず、ドローしてから考えるか、と。
おそらく私のデッキであろうカードの束、山札へと、ゆっくりと右手を伸ばしたのだった。
【剣と魔法の世界で私だけカードバトルしてるのは何なの】
先に私の説明をするね。
私は北斗つつじ。(ほくと つつじ)
中学三年生の女子です。
趣味は、さっき言ったとおり、ゲーム全般。
得意なのは、じっくり考えてプレイするタイプのゲームかな。別に、アクションゲームをやらないわけじゃないんだけど、ヘタクソすぎるんだね。へへ。
だからと言って、考える時間があるゲームがうまいわけでもないんだけど。
だから、特技とは言えない。
趣味としてゲームをやっている。
小学生の頃はよかったな。
友達と集まって、ゲームで対戦したり、モンスターの交換なんてしたりしてさ。
中学校になって…。
そんで、3年生。受験生になってからはもう特にダメです。
誰も私とゲームで遊んでくれないんだね。
部活や勉強、ファッションに恋愛。
競合相手が多すぎてさ。
みんながわいわい、ティーンエイジャーを満喫している間、私は教室の隅っこで、パーティメンバーの転職ルートをノートにまとめていたりするんだね。
今はとてもいい時代だよね。
私みたいな陰キャのオタク女子も、すみっコぐらししてる分には、それなりに生きていけるんだもん。
ああ、多様性。
みんなは運動場で、私は隅っこで暮らそう。
いじめられるわけでもない。
グループ学習とかで必用な時はちゃんと会話してくれる。
平穏に流れる時間の中で、私はひとりぼっちのようで、そうでもない感じで、孤独にもなりきれなかった。
……
……
……
……というのが、昨日までの私の話。
ゲームオタクの陰キャ女子、北斗つつじ。
その私が、今。
モンスターと対峙している、というわけ。
一対一で、睨みあっている。
もう、それだけで汗だくだくなのだ。
おおー。
知ってる知ってる。
流行りの、異世界ものでしょ。
あたりは、涼しげな平原で。
晴れ渡った空に、気持ちいい風。
当然、全く見覚えのない場所。
でもわかるわかる。
ここは、私が住んでいた日本ではない。
気持ちいい平原くらいなら、日本にだってあるけれど。
黒い鎧を重そうに着込んだ、黒いだるまさんみたいなモンスターはさすがに日本にはいないもんね。
はは、可愛いけど。
デザインは割と可愛いけど。
目とかつぶらで、すばやさのパラメータ低そうで、たぶん真っ黒だから闇属性。
2頭身のスライムみたいな、小さな黒い鎧騎士。
私の目は、そいつが持ってる黒い剣に釘付けだ。
鈍い輝きを持つそれは、オモチャなんかではなさそうで。
あっ。
斬れるやつや。
刺さったら、死ぬやつやで。
私の頬にだらだら汗が流れる。
汗っかきなんだよ。
ついでに言及しておくけど、私の伸びっぱなしのぼさぼさ髪は、相変わらず伸びっぱなしのぼさぼさ髪だが、色が…
(ピンク髪……!この、この私がピンク髪!!!)
い、いやだ…!
メインキャラにしか許されない髪色ですよピンクは。
①いつのまにか知らない場所にいる。
②目の前にモンスターがいる。
③髪の色が、ピンク。
以上3点から、私は今、ファンタジー系の異世界にいることがわかりますね。
なにがきっかけでどういう過程を経てここにきたのかはまるでわからないけど。
トラックにひかれる、とかこう、衝撃的な何かがあったのかなぁ。
今言えることは「目を開けたら、なんかここでした」以外にないんだね。
……あー、鏡が見たい。
髪がピンクになっとるんだから、顔も美少女になっているのかもしれない。
現実世界での、私のコンプレックスだった、じっとりした目付きも改善されているかも。えへへ。
チキ、と黒い騎士の剣が鳴った。
あはは。
鏡か……。
何が鏡だよぉ……。
そのフェイズにたどり着くには、まず、ここを生き残らなければ、じゃん…!
逃げる…逃げるにも、あたりは見通しがよすぎて、かなり走らないと逃げ切れない。
陰キャのオタクに難しいことを言わないでほしい。
戦う……
戦う……?
真剣を持ってるモンスターとですかぁ!?
せめてもう一段弱そうなのと遭いたかった!
体当たりくらいしか攻撃手段がないやつと!
この黒い鎧騎士は2個目のダンジョンくらいで出るやつでしょ!!!
武器もない。
服なんて、これ、学校の制服のままだよ……!
青いセーラー服だよ!
手抜きだ!手抜きの異世界転移だ!
異世界に来た人は、だいたいチートスキルみたいなのがあるものじゃないのかよぉ……!
念じても、何も魔法が使えそうな気配もなく。
私は、じわわと涙を浮かべたまま、黒い鎧騎士を見た。
見た。
その頭上を、見た。
なんだ、あれ。
こう、大きな長方形が3つ…。
いや、薄いから3枚と言った方がいいのかな。
同じデザイン、同じ大きさの、けっこうデカい長方形が3枚、モンスターの頭上に浮いているのだった。
か、
カード……?
まるで。
カードゲームのカードが、3枚。
こちらに裏面を向けて、並んでいるようで。
私は、なんとなく懐かしさを覚えていた。
近所の友達と、よくやったよね。
こうやって、カードを5枚ずつ持ちあってさ。
ルールも曖昧、算数もヘタクソなのに、必死にライフポイントを削りあうんだよね。
ああそうだ。
あれはまるで、あのモンスターの「手札」みたいに見えるんだ。
手札は可能性だ。
それが3枚もある。
……
……
……
ズルいじゃん。
私には武器も防具もなくて、手札だって与えられないのかよぉ。
手札だって……
手札……?
手札は、引くものだ。
ドローするものだ。
……
……
……
どこから?
それは、自分のデッキから。
私は、ゆっくりと、視線を下ろした。
そこに。
小さな束が、浮いていた。
すごく見覚えがある、紙束。
どんなカードゲームでも、こんな感じだ。
自分のデッキはだいたいこの辺、右手の届くところにあるんだ……!
すぅ、と息を吸い込んだ。
本当に、本当に、私には何もわからないけど。
ここがどこなのか、何が起きているのか。
全く把握できていないけど。
もしこれが、カードゲームであるのならば。
とりあえず、ドローしてから考えるか、と。
おそらく私のデッキであろうカードの束、宙に浮く、その山札へと。
私はゆっくりと、右手を伸ばしたのだった。
ドローするまでにいっぱい書いてしまった。
みんなも、カッコいいドローができるようにつつじちゃんを応援してくれよな。




