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第76話 それが怖いんじゃないよ?
「ここだよ、ここー!」
ワナビが指さす方を見ると、確かに『パール出版』という文字の書かれたビルがポツンと建っていた。
ビルの規模から見て中小程度の出版社っぽい。
半ば崩れたコンクリートから鉄筋がむき出しになっている。壁面にはツタが這い、ガラスなど一枚も残っていない窓に吹き込む風の音だけが周囲の静寂を破っているようだ。
そしてここに潜む出版物の内容。
俺にとってはいろんな意味で怖い。
バイクを止め、荷物をリュックに入れて背負う。
「さぁ行こう!」
意気揚々と声を出し、俺の手を握りしめてくるワナビ。
中に進もうと引っ張っては来るのだが、俺の足は縫い付けられたように動かない。
「どうしたの? けっこう光も差し込んでるし、そこまで不気味じゃないでしょ?」
前回行った廃工場に比べたら雰囲気は随分ましだ。
だけど俺の足を重くする理由はそっちじゃない。
「私たちのために必要な勉強をするんだから、お兄さんも頑張って」
そう言って真っすぐに俺を見るワナビの表情は真剣だ。
ただの知的好奇心だけかと思っていたが、本当に俺たちの関係を考えて勉強しようとしているのが伝わってくる。
これだけ真摯に向き合われたら、俺も強く反対が出来なくなってしまう。
どうか、健全な図書を扱っている出版社でありますように……。




