第51話 俺がそんな人間に見えるか?
「バカってなんだよー。せっかく快く送り出してあげようと思って、最後の思い出作りをしにきたのに」
目にいっぱい涙を溜めて文句言っても、迫力がないんだよ。
「俺がいつここを出て行くと言った」
「え?」
言葉の意味が咄嗟に伝わらなかったようで、キョトンとした顔のワナビ。
少し間抜けな表情だけど、今はなぜかそれすらも心が揺さぶられてしまう。
俺としたことがすっかり情にほだされてしまったみたいだな。
「俺は副村長なんだろ。村長からこれだけ頼りにされて、それを見捨ててどこかに行けるほど薄情な人間じゃねーよ」
「でも、いずれまた旅に出るみたいに言ってたし……」
以前言った言葉を覚えていたのか。
さっきの話を聞く限り、あの時は平気な顔をしていたけど心の中では言い知れぬ寂しさを抱えていたのかもしれない。
「人間ってのは心変わりするもんだろ。ワナビから慕われて、デートまでして。それにも関わらず旅を続ける理由なんてないっての。俺もお前のことは可愛い妹みたいに思っているしな」
「お兄さん……」
とうとう目に溜まっていた涙が溢れだした。
でもそれは寂しさからくる涙じゃなく、喜びの涙なんだということはその表情から読み取れる。
「えへへ、ありがとう。これからもよろしくね。でもひとつだけ間違ってることがあるよ」
「何を間違えてるんだ?」
「わたしは妹じゃなくお兄さんの恋人だもん!」




