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26 5人の攻略対象

途中から視点が変わります。

正確には、暗躍術の基礎である“影の跳躍(シャアドウリープ)”を使い、目に映らない程の速さで階段を降り、5人の脇を通ってドアから出た、が正しい言い方だ。



――――ロゼス様なら気付いたかもしれない。


でも、こうするしかなかった。あの場所から5人を見下ろし続ける事は出来なかった。


「本当はちゃんと挨拶したかったのに」


あの場から逃げるように外へ出てしまった。


3年振りなのに、私の意気地なし。主人公が逃げてどうするのよ……。


あんな大勢の前で挨拶する勇気もないのに、今更後悔するなんて情けない。全員を攻略して仲間にするって決めたのに。



影の跳躍(シャアドウリープ)で中庭の大きな木の上まで駆け上がると、先程までいた教室棟を見た。


あの場所にはロゼス様以外にも、ユラ・フィラ様、アラトマ様、ガゼロ様、爛諭様がいて、その姿は気高くて神々しかった。5人の周りだけ時間がゆっくりと流れていて、空気まで透き通っていた。


学園の禁止事項である「敬称」を思わず付けてしまいたくなるようなそんな光景が、瞼に焼き付いている。


現に、今だって心の中で「様」付けで呼んでいる始末。


あの姿にすっかり影響されてしまった。先程まで「ガゼロ」「爛諭」と呼び捨てで呼んでいた事が嘘みたい。攻略対象者だから、他の人よりも近い立ち位置にはいるのに。住む世界や格の違いを見せ付けられて、すっかり委縮してしまった。


ロゼス様を「ロゼス」だなんて気軽に呼べる日は来るのかしら。思うだけで体中が真っ赤に火照るのに?


「あ~、と、とりあえず冷静になろう。学園探索と寮の荷物を片付けて、今後の対策を練るのはその後だわ」


キナナの事も、花粉の犯人捜しの事も、ロゼス様の事も全部一旦置いておこう。


――――トンッ。


影の跳躍(シャアドウリープ)を使い太い幹を片足で強く蹴り、その場から消えた。



◇◇ ◇◇



――――数分前、螺旋階段の下にて。


蒼天の節の風を思わせる心地の良い風が吹き抜けた後、ユラ・フィラがロゼス・エンペストに声をかけた。


「ロゼス、今のって……」


「ああ、分かっているよ、ユラ。3年振りなのに挨拶もなしに逃げちゃうなんて、ちょっと傷付いちゃうよね」


嬉しそうに笑いながら、ロゼスは言った。その様子にユラもつられて笑った。「確かに……」と言いながら相槌を打つ。


ユラの胸元には、3年前にリコリスからもらった花飾りが付いていた。その飾りをユラは愛おしそうに、手のひらに包み込んだ。


ガゼロ・ギガトは興味津々で、2人の会話に割って入ってきた。


「へぇ、ロゼスもユラもリコリスの事、知ってんのか」


隙のない目をして、ガゼロはロゼスの腹の内を探った。


「それはもちろん。キミなんかが入り込む余地はないくらいに」


ガゼロの言葉をロゼスは軽く受け流すと、ガゼロは「チッ」と舌打ちをした。そんなガゼロの怒りを鎮めるように、紅爛諭はガゼロの肩を軽く叩き口を挟んだ。


「彼女がどういう人かは知りませんが、その様子を見ると有名な人なのでしょう。外来凶毒種に襲われるくらいですから」


爛諭の言葉に、僅かにロゼスは反応を見せた。

釣れた――――と口角を上げて爛諭は笑ったが、ガゼロは逆に警戒心を強めた。


ロゼスの静かな怒りが波紋のように伝わってくるのが分かったからだ。

ユラも「あちゃ~」と呟き、頭を抱えた。


ロゼスの静かなる怒りが途轍もなく“面倒”だという事を、長年の付き合いからユラは良く知っていた。

ユラは爛諭を睨み付けるが、爛諭は気にもせずにロゼスの心に踏み込んでいく。


「一貴族が狙われるなんて余程の恨みを買っているのでしょう。何なら私が……」


その言葉の続きを爛諭が言う前に、ガゼロは力で爛諭をねじ伏せた。目には見えないガゼロの神炎が首元に纏わりつくのを感じて、爛諭は黙った。


「ねぇ、俺にもそのリコリスって子の事、教えてよ」


今までずっと黙っていたアラトマ・デスロが、沈黙を破って言った。気まずい空気を物ともせずに、無邪気な目をしている。

しかし、誰もが沈黙を貫いた。


アンドーラ国の治者であるアラトマは、謎が多い。千年事に起きる大戦争の犠牲となった孤児が集まって出来たアンドーラ国は、比較的歴史の浅い国だ。


アラトマのお陰で平時の統制はとれているものの、一度ひとたび戦争が始まると個人主義で動くと言われていて、民の気性は至ってドライ。

アンドーラ国の民は結束しない。戦時にはほぼ国は空っぽになり、それぞれの国や人に雇われ暗躍すると言われている程だ。


彼らが何で動くのかは、それぞれ違うと言われている。金か、物か、土地か、愛か、感情か――――。


そんなアンドーラ国の民を買おうと、ペテロ帝国、ペツィート王国、ユリネス大公国、モナス島国は、躍起になっている。アンドーラ国そのものが、暗殺者マーケットのような役割をしていると言っても過言ではなかった。


だから、アラトマには腹の内どころか一分の隙も4人は見せなかった。


「ま、いーよ。自分で調べるから」


1人仲間外れにされたアラトマは、頬っぺたを膨らませた。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。


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