27 悪児(オニ)ごっこ①
途中、視点が変わります。
そんなアラトマを尻目に、ロゼスは螺旋階段から顔を覗かせている女子生徒たちに愛想を振りまいて、手を振った。そうして女子生徒たちを焚き付けた後、「僕は今から悪児ごっこをしなくちゃいけないから、後を宜しく」と言って、瞬時に消えた。
「あ、お前ずる……」
いち早く気付いたガゼロが言葉を発するや否や、我慢できなくなった女子生徒たちの大群が螺旋階段の下まで押し寄せてきた。4人はあっという間に囲まれてしまった。
「ロゼスに出し抜かれてしまいましたね。でも、今日の課題は終わりそうですよ」
そう言い放った爛諭の目は、笑ってはいなかった。
「他の生徒たちと親交を深める、だっけ。それが学園長から言い渡された僕たちの今日の課題だけど……」
ユラは困った顔をして言った。
「確かに課題は達成出来そうだけど、時間はかかりそうだねぇ」
「おい、アラトマ。何でお前そんなに嬉しそうなんだ?」
「困っている表情を見るのが好きだからかな?」
ガゼロの質問にアラトマは笑顔で答えた。そんなやり取りを見て、ユラは溜息を吐く。
「女性の扱い方はロゼスの方が得意なのに。ふぅ、仕方ない。ほら、ガゼロも爛論もアラトマも、他の女子生徒たちに失礼のないようにね」
もみくちゃにされながらも、ユラは丁寧に接していく。
「なかなか見どころがありますね。モナス島国の王子は」
「チッ、腹括ってやるしかねぇか。おい、爛論。お前はそっちを頼む」
「分かりました」
学園の中では誰もが平等で、その学園の規則にもう女子生徒たちは順応している。貴族という身分を忘れて、1人の女の子として積極的に迫ってくる。瞳の中にハートを描いて。
そんな彼女たちを4人は嫌がる素振りも見せずに対応した。
時折ガゼロが鬱陶しそうに威嚇するも、女子生徒たちには逆効果だった。
「お付き合いしてください」
「結婚して~」
そんな声まで飛び交っている。
困り果てた3人と面白がっている1人が解放されるのは、まだまだ先の事だった。
◇◇ ◇◇
「うん、完璧だわ。やっと終わった~!」
アカネイラ先生から秘密裏に渡された学園内の地図や設計図が、実物と差ほど変わりがない事を確認し終えて、寮の方へ向かった。
一般女子寮は、だだっ広い裏庭の左向こう側にある。真ん中には夕闇の森。右手には一般男子寮と特別寮があった。他にも温室や決闘場、訓練場などの施設も確認した。
時間があれば、夕闇の森や島の外れにある小さな町の探索をしたいわ。
顔を上げて、空の色をもう一度確認する。
空気中に“夜の粒子”を見つけると、残りの探索は休日にしようと決めた。動くなら人目の多い明るい時間帯が良い。例え「戦争の火種となる行為をしてはいけない」という学園の法律があるにしても、それは度々破られている。
今日人喰い植物に襲われている事からしても、一段と気を付けた方が良いのは明瞭だ。
「暗躍するのは良いけれど、標的にされるのはごめんだわ」
夜の闇に紛れて暗殺者は動く。音を立てずに夜闇に呼吸を合わせ、獲物の位置を正確に測り迷いを殺して絶つ。これは暗躍術を使った暗殺の基本だ。暗殺者はこうして獲物に近付く。
そんな暗躍術と暗殺術は私の得意分野だった。
実践経験はないけれど、前世からの真面目な性分が功を奏し実践でも通用するレベルまで技術を磨いた。人の命を摘み取る覚悟があるのかと問われたら、まだその問いに答えを出していない。けれど、その覚悟が出来た時に命を摘み取る技術をアカネイラ先生から伝授してもらった。
――――だから、ほら。
「あと10秒で来る……」
何者かが影の跳躍を使い、気配を殺して私の元へ向かって来ている。
不要な争いをして目立つ事は避けたいわ。
影の跳躍を使い“それ”から逃げる事にした。その直後、視界は真っ暗になった。
「え…………嘘。もう夜!?」
夜の粒子が一気に空を染め上げた。
“夜の粒子”とは、夜を連れてくる粒子の事だ。空気中に夜の粒子が多くなればなる程、夜が近い事を意味している。夜の粒子はこの島限定の現象で、誰でも確認する事が出来る身近なものだった。
まだ夜になるには時間がかかると思っていたわ。
「でも、違った」
視界は真っ暗になり、私も“それ”も瞬く間に夜の一部になった。
そう言えば、アカネイラ先生が言っていたわね。この島だけ時間が意志を持っているような進み方をするって。気まぐれに時間を早めたり、遅めたりする不思議な島だって……。1日が24時間なのは同じなのに。
でも、この夜闇は好都合だわ。このまま隠れて寮まで逃げようかしら。
私はだだっ広い裏庭を草音一つ立てずに駆けて、駆けて、駆けた。
――――ん? ちょっと待って。どういう事なの?
違和感を感じて止まる。
影の跳躍のスピードを最大限の一歩手前まで上げているのに、“それ”は私のスピードに遅れる事なくぴったり付いてきている。
もしかして、私に合わせて動いているのかしら?
そう考えると、思わず鳥肌がたった。
追い詰められているのは私の方だった? ううん、そんなはず絶対ない。
全速力の影の跳躍で駆けると追手もそのスピードに付いてきた。
今度はわざと止まってみる。すると追手は、私を捕まえる事なく一定の距離を保って止まった。
――――ああ、これはきっと悪児ごっこだわ。目的は分からないけれど、遊ばれてる?
「いいわ、やりましょう。悪児ごっこ」
暗闇の中にいる“それ”に呼びかけた。
この世界の悪児こっごは、悪児と人間に分かれて、追いかけたり追われたりする“ごっこ遊び”だ。そこまでは前世でよく遊んだ鬼ごっこと同じ。
ただ違うのは、この世界の悪児ごっこは1対1の“全力”の悪児ごっこ。追いかけたり追われたりするだけではなかった。
悪児は捕まえるためなら卑怯な事をする。人間も悪児に触らなければ退治だって出来る。悪児が勝てば、人間は何か1つ差し出さなければいけない。人間が時間内に逃げ切れば、その逆。
もし悪児と人間が異性同士ならという特別ルールもあるけれど……。それはこの際考えないようにしよう。
「この光が消えるまでが制限時間よ」
周りを照らさない程の小さな小光玉を打ち上げた。
悪児の返事がない事を暗黙の了解だと受け取り、悪児ごっこは始まった。
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