表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/138

21 仕掛けられた罠②

「で、お前は、いつこの花粉が付けられたと推察する?」


「……豪華客船に乗る時だと思うわ」


ガゼロの質問にはっきりと答える。


キナナを犯人ではないわ。眠る直前までずっとキナナを観察していたのは、私なのだから。


「俺も同感だな。上船時にパスを確認した船員が怪しい」


私とガゼロの意見が一致した。


私の目を盗んでこんな事をした船員は、きっとその道のエキスパートだろう。背景や人に溶け込み、何食わぬ顔をして犯罪または国罪に加担する――――その道の専門家プロフェッショナル。理由は分からないけれど、何者かが戦争に向けて暗躍し始めているのかもしれない。


眠り草の花粉で眠らせて、下船を遅らせる。孤立したところを狙い人喰い植物をけしかける。そんな手間で面倒な計画までして私を傷付けたい理由が、少しも思い浮かばない。


「どうして狙われたのかしら……」


すっきりしない頭でいくら考えても、答えは出なかった。

ガゼロだったらどう考えるのかしら。


ふと気になりガゼロを見ると、ガゼロの肩も私と同じように汚れていた。

思わずその肩に触れて確認してみる。


「ガゼロ、貴方の肩にも……」


「ああ、先程確認済みだ。油断した理由も花粉を付けられた理由も、俺には心当たりしかねぇな」


「でも、私の眠り草の花粉とガゼロの眠り草の花粉は、違うみたい」


「――なッ」


ガゼロは、肩に付いた花粉を掌で拭った。


「ガゼロの花粉は一見黒色だけど、ばらつきがあるの。黒一色ではないわ。これはペテロ帝国産の眠り草の特徴ね。私のは、黒色オンリーだわ。これは確か――――」


「ステラ島だ」


私の代わりにガゼロはそう言った。ステラ島だとはっきり言い切った。


――――うん、ステラ島。分かってる。


この黒い花粉を見た時にそうだと思った。けれど、記憶違いだと思いたくてあまりその事に触れたくはなかった。

ステラ島にしか咲かない眠り草の黒い花粉と聞いてまず考える事は、犯人はステラ島の誰かだという事。希少性の高い眠り草の花粉を扱える人間は限られてくる。


嫌だわ、ステラ島の皆を疑いたくない……。


ふっと力が抜けて地面に座り込んでしまった。


「おい、どうした?」


「私、ステラ島出身なの。ステラ島の人々に狙われる理由が分からないわ」


「……そんな事はまだ分かねぇだろ? 何者かがステラ島の人々に罪を擦り付けたのかもしれない」


「うん、そうかもしれない。でも、違うかもしれない……」


すっかり気落ちしているとガゼロは困ったような表情をした。それから、座り込んでしまった私と同じくらいの高さまで目線を下げてこう言った。


「ったく。居眠り仲間のよしみで犯人捜しを手伝ってやるから。ほら、立て」


子供をあやすような優しい口調だった。


「ガゼロは優しいのね」


「……優しくねーよ」


耳を赤く染めて、小さい声でガゼロはそう呟いた。



◇◇ ◇◇



「まだ罠が仕掛けてあるかもしれねぇから、慎重にいくぞ」


「うん、分かったわ」


ガゼロは先頭を切って、私のペースに合わせて歩いてくれた。なるべく尖った枝や棘のある植物、毒を含む植物がない所を選び、リードしてくれる。


やっぱり優しいわ。仲間になりたい。


ガゼロの大きな背中を見ていると、ふとアカネイラ先生の事を思い出した。

過酷な授業を受けてきた私にも、致命的な点があると先生は言った。それは、実践に至っては素人だという点。

誰かを傷付けた事も、人を殺めた事もない。命のやり取りなんて、全部お話の中だけでしか見た事がない。

だから、今後もし自分の身が危険にさらされた時には「せめて気丈でいろ」と言われていた。それから「実践を積め」とも。


今の私には人を傷付ける覚悟がない。

ステラ島の誰が犯人でも、向き合う覚悟と気丈さが私には足りない。


「ねぇ、ガゼロ。貴方は人を殺めた事があるかしら?」


「あ゛?」


振り向く事もしなかった。答えたくない質問をしたのだから、当然の反応だわ。

それでも続けて言った。


「私ね、誰も傷付けたりせずに、大戦争を止める事が出来るとは思っていないの。その一方で、大戦争を止める為に――平和の為に人を傷付けるのは、それはそれでおかしいって思ってる。つくづく甘いよね、私。人を一度も傷付けたり殺めた事がないから、そんな夢物語のような事を……」


自分でも何を言っているのか分からなくて、誤魔化すように笑った。

ガゼロはどう答えるのかしら。答えてくれないかもしれないわね。


植物の葉が擦れる音、地面を踏み歩く音だけが耳から入って来る。途切れた会話に沈黙が重く圧しかかる。

ふと仰いだ植物の隙間から建物が見えた。


――――聖教王都学園だわ。


「あ……」


学園の建物を見ていると、真剣な目をしたガゼロが視界に映る。


「どんな人間でも多かれ少なかれ、手は汚れてる。でも、その手が真っ黒なのは王族だけでいい。大戦争をけしかけ利益を得る奴らをお前が止めるって言うんなら、そいつらを断罪し手を汚すのは王族だけで充分だ。もしその王族が戦争を煽り民を傷付けたのなら、その責任は全て王族にある。擦り付ければいいさ、全部」


王族を恨んでいるような悲しい目だった。自分で言った言葉に自分自身が傷付いているような目。

ガゼロの言葉は、ガゼロルート攻略の鍵を握っているような重みのある言葉だった。


ロゼス様やユラ・フィラ様同様、ガゼロにも苦しい過去があったのかもしれない。その苦しみを分かち合って手を取る仲間が私であると良いと思った。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。正直な感想に飢えてます。『111回以上婚約破棄されましたが、まだ婚約者の座を死守しています』☞https://ncode.syosetu.com/n1599he/の方も読んで下さると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ