20 仕掛けられた罠①
出方を窺っていると、ガゼロは「面倒くせぇ」と呟いた。
噂に名高い称号の力で右手に神炎を宿すと、ガゼロは周りの原生林を焼いていく。黒い煙がたちまち視界を遮った。
「あの、原生林って焼いて大丈夫なのかしら?」
そう聞いてみると、溜息を吐かれてしまった。面倒くさそうな顔をしながらも教えてくれる。
「よく見ろ。俺が焼いてるのは人喰い植物だけだ。しかも、これは外来凶毒種。この島には本来いない植物だ。誰かが持ち込みやがった」
ガゼロにそう言われて、よく目を凝らす。
人喰い植物の特徴は、表側に大きな赤い花を咲かせている事だ。
獲物が近付くと裏側を向けて花の中央にある口を開ける。口からは消化液が常に垂れていて、その消化液に触れると溶けてしまう程の威力を持っていた。口の上には目の様な模様があり、人間に擬態しているのだと聞いた事がある。
言われてみると、人喰い植物の葉は人の手のような形をしていて、立ち姿はどことなく人間に似ていた。
在来種と外来凶毒種の違いは、花の部分に白い筋があるかどうか。在来種にはそれがない。神炎の中で半分燃え落ちた人喰い植物をじっと見つめて、それを探した。
――――あ、あったわ。花の部分に白い筋。
「ガゼロって……すごく物知りで観察力もあるのね。すごいわ」
思った事をそのまま伝えると、ガゼロはまたふいっと横を向いて黙ってしまった。
それでも好印象には違いない。顔は少し怖いけれど、根は良い人。
「私にも……手伝わせて?」
返事を聞く前に風を解放する。
輝きの意味を持つ風の使い方は、様々だ。風は心の在り方一つで輝いたり濁ったりする。風を練り上げれば武器も作る事が出来た。風のように自由な力で、見た目も風そのものだった。
そんな風を身体から放つと、視界を遮っていた黒い煙は一瞬で消し飛んだ。見やすくなった視界の中で、ガゼロは驚いたような表情を浮かべている。私と目が合っても、今度は目を背けなかった。
獣のような綺麗な目が私を見てる。
全方位に風を向けて探ると、南西の方角にそれを見つけた。
その場所に風を集中して叩きつけると、何かに突き刺さった感触がした。急いで確認しに行くと、人喰い植物がぐったり倒れている。矢のように尖った私の風にその身を貫かれて絶命していた。風を解くと、矢のように尖ったそれも消えた。
「これで全部かしら」
周りをざっと確認してから、ガゼロを見据える。
ぺツィート王国の第二王子は名ばかりではなかった。幼少期から帝王学を叩き込まれているのだろう。ガゼロは私の風に中ってもびくともしていなかった。さすがだわ。
――――あ。
ガゼロはそのまま私に向かって近付いてきた。
「入学前にもう風を使いこなせるのか……。これ程の力の持ち主が一体この学園で、これ以上何を学ぶんだ?」
そんな事を聞いてきた。
「先程も言ったけれど、入学前に沢山勉強をしたわ。大戦争を起こさせないようにする為に、真面目に……死ぬ程予習をした。私の夢は、大戦争回避。それと、平和な世界で好きな人と幸せになる事だから」
意気揚々と言うと、ガゼロは黙ったまま、また私の目を見た。
――――あれ、もしかして私の話を聞いていないのかしら?
ガゼロは私の言葉や表情よりも、目の中ばかりを見ている。言葉は聞こえているはずなのに、聞いていないような素振りは何だか違和感を覚えた。
やっぱり噂通りの野獣なのかしら。
他人の言葉を信じず、己の目だけを信じるしたたかな野獣。嘘を吐こうとすれば、首元に牙を突き付けられ噛み殺される。そんな野獣。
ガゼロの本性を垣間見た時、そんな事を考えた。
けれど、それが全てじゃない事も先程知った。他者には飼い慣らせない野獣のような気性があっても、第二王子としての冷静な思考や気遣いは持ち合わせている。
うん、攻略して仲間に引き入れたいわ。野獣だろうが関係ない。私にだって毒々しい一面はあるのだから……。
「――――ま、お前が本当の事を言っているのだとしても、俺には関係ない。一つアドバイスをするなら、気を付けた方が良いって事だ。革命を画策する者は、すぐ命を狙われる。現に、お前の左肩には眠り草の花粉が付いている」
「え!?」
左肩を触るとすぐに手のひらを確認した。
「あ、本当だわ……」
手のひらに眠り草の黒い花粉がべったりと付いた。
――――もしかして、私が豪華客船の中で不覚にも居眠りをしてしまったのは、この眠り草の花粉のせいだった? でも、どうして……。
考えながらも、ハンカチで汚れを拭き取る。お気に入りのハンカチがあっという間に汚れてしまった。制服の汚れも薄くはなったけれど、汚れは完全には取れなかった。
――――絶対に犯人を見つけ出したいわ。
黒い花粉を付けられた事も、人喰い植物に襲われた事も、その随所に作為の跡が見え隠れしている。黒い花粉には大いに心当たりがあると思いながら、汚れたハンカチを握りしめた。
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