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それから三日後、カイルに頼んでおいたライアンに関する調査書が届いたが、そこには驚くほど詳細に彼の行動が記されていた。
隠すつもりがあるのかと聞きたくなるほどライアンとマリアは頻繁に会っており、宿屋の宿泊記録や証言もきっちりと押さえてあるので、とても友人などと言い逃れのできる関係ではない。
(呆れた、本当に不貞しているのね。婿入り先がなくなったらどうするのかしら)
疑問に思ったが、調査書によるとマリアもひとり娘で、ライアンはどうせ婿入りするなら彼女のほうが良いと考えたようだ。爵位は下がるが、傲慢でわがままなエレノアの顔色をうかがうよりは気楽に暮らせる生活を選ぶということらしい。
だが、慰謝料は払いたくない。そこでエレノアを煽ってチャールズを頻繁に呼び出すように仕向け、互いに思う相手がいるのだからということにして円満な婚約解消を狙っているらしい。
チャールズの話によると、自尊心の高いエレノアは当然、何度も婚約を破棄して欲しいと父親に訴えているが、公爵家と縁を結べるのだから我慢しろとの一点張りで、聞き入れてもらえないそうだ。
リリアナの話には興味を示さないくせに、エレノアのことを尋ねるとチャールズは喜々としてべらべらとしゃべり出す。情報を得るには便利だが、エレノアがどれほど誇り高い人であるかなど、褒め言葉を延々と聞かされるのにはうんざりした。
情報は集まったものの、リリアナは婚約解消に向けてどう手を打ったらいいか悩んでいた。
チャールズに蔑ろにされている証拠を並べ立て、自分とチャールズの両親に突きつけたところですべてなかったことにされてしまうだろう。
ライアンとの婚約がなくなれば、エレノアがチャールズを引き取ってくれるかもしれないと考えたこともあったが、集めた情報から判断するにそれはなさそうだ。そもそもチャールズは彼女に男性として見られていない。
なんとか相手の有責で婚約破棄に持ち込みたいが、良い案が浮かばない。リリアナは頭を抱えた。
(いっそゴシップ紙に売り込んでやろうかしら)
そんなことを本気で考えていた二日後、事件は起こった。
クラレンス公爵家で催されたライアンの誕生祝いの夜会で、エレノアが彼に婚約破棄を告げたのだ。
仕掛けたのはライアンのほうだった。
いつもならファーストダンスだけはエレノアと踊る彼が、この日は婚約者を出迎えもせずマリアの手を取り、ダンスこそしないもののずっと彼女の腰を抱いて寄り添っているのだ。
さすがに父である公爵が息子を諫めようとしたが、エレノアのほうが早かった。
「よくもそんな恥知らずな真似ができたものね。あなたとなんか結婚しないわっ!! 婚約破棄よ!!」
とうとう我慢の限界を迎えたらしい。怒りのあまりエレノアは顔を真っ赤に染め、人差し指をライアンに突きつけて叫んだ。
だが、彼はまったく動じる様子もなく、その顔にはうっすらと笑みさえ浮かんでいる。
「そういきり立つなよ。円満に解消といこうじゃないか」
「なんて図々しい。あなたが浮気したのよ。慰謝料はきっちりと払ってもらいますからね」
「浮気? それは違うな。私はただ友人との会話を楽しんでいただけだよ。夜会でも君以外と踊ったことはないだろう?」
「はっ、一曲踊ったきりで婚約者を放っておいて、後はずっとその女といちゃついていたくせに」
「ずいぶんと下品なことを言うのだな。ふたりきりで会話をしていたのをいちゃつくと言うなら、君だって同じじゃないか。チャールズとずいぶん距離が近かったよな。君がその男とばかりいっしょにいるから、私はマリアに悩みを聞いてもらっていただけだよ」
「なんですって!? よくもそんなことが言えるわね!!」
わなわなと肩を震わせながら、エレノアはライアンを睨み付ける。あまりの屈辱に言葉も出てこないほど怒っているようだ。
チャールズは彼女の後ろで何も言えずにおろおろするばかり。
あまりのふがいなさに、リリアナはますます嫌気が差した。ライアンに守られているマリアに比べ、孤立無援のエレノアが少しばかり気の毒になる。
確かに、エレノアとチャールズは婚約者がいる者同士としてはあるまじき距離感だった。
エレノアは納得しないだろうが、これ以上醜聞を広げないためにもどちらの非も問わない形で婚約をなかったことにするというのはあり得ない話ではない。
(ここでおふたりの関係が問題になれば、チャールズ様の有責で婚約解消できるかも)
ふと悪魔の囁きが脳裏をよぎったが、あちらのふたりとは違い、彼らはいわゆる清い関係なのだから同じ扱いをされるのはやはりおかしいと思う。
「だからお互い様ということで、きれいに別れようじゃないか。金の話なんか無しでね」
ライアンが悪びれることなく言い放ったのを聞いて、リリアナはひどく腹が立った。
そもそもライアンがエレノアに対して誠実であれば、チャールズがここまで頻繁に呼び出されることはなかったかもしれない。リリアナだって、何度も置き去りにされるという恥ずかしい思いをせずに済んだはずだ。
エレノアもチャールズも好きではないが、先に裏切ったのはライアン達なのだ。彼らの思い通りになんてさせたくない。
「お待ちください」
気がつけば、リリアナは声を上げていた。
「エレノア様とチャールズ様の距離が近すぎるという意見には賛同いたしますが、不貞をされているあなた方と同じというのはさすがに言い過ぎではないかと」
「なんだと? 無礼な奴だな。おまえは誰だ?」
ライアンが怒りの目を向けてくる。
「リリアナ・バークレイと申します」
「バークレイ? ああ、チャールズの婚約者か。子爵家の娘ごときが私を侮辱するとはずいぶんと怖いもの知らずだな。自分の家がどうなってもいいのか? 今すぐひざまずいて謝れば許してやってもいいぞ?」
脅されても何とも思わなかった。
すでに修道院行きを覚悟していたし、両親がリリアナを罰したことにすれば、子爵家まで罪に問うことはできないだろう。
だいたい人生が変わってしまうぐらいの迷惑を掛けられたのはこちらのほうなのだ。もう黙っていたくない。むしろ、ここで言わずにどうすると闘志が湧いてきた。




