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帰宅しちゃった 自宅篇

 自分の家に着いたぞ。正確に言えば、まだ敷地の中に入っただけで、家までたどり着いてないんだけど。


 みんな、どこかへ寄ったりせずに真っすぐ帰っていった。ちょっと残念。町に寄り道して、買い食いなんかしちゃったりして、カフェなんか入ったりなんかして・・・そんな学園生活、過ごしてみたい。いつか、できたらいいな。


 まあ、とにかく、無事に入学一日目を終えられてよかった。今日はそれだけで満足しよう。

 わたしは、屋敷を目指して歩き始めた。朝出かける時にも思ったけど、門から家までが遠い。これだけで軽い運動になりそうだ。玄関のドアに着くまでに、日が暮れるんじゃないかしら。そんな風に考えたくなるくらい距離がある。


 庭園を横目に、わたしはずんずん進んでいく。庭をゆっくり眺められていないから、今度暇があったら散歩してみようかな。庭師さんたちにも、あいさつしたい。今日はもう時間が遅いので、庭の見学は一旦おあずけ。


 やっとのことで目的地の玄関前へたどり着く。ドアの前でメイドさんが、箒で掃き掃除をしてくれている。おや?朝、わたしの部屋でシーツを取り換えに来てくれたメイドさんだ。まだ名前は分からないけど、彼女にあいさつをしておこう。


 「ご苦労様」

 「あら?エドガー様。お帰りなさい」

 

 メイドさんは顔を上げると、丁寧にお辞儀をしてくれた。よし、こちらも丁寧にお辞儀を返そう。感謝の気持ちは、はっきりと全力で出していくスタイルでいく。


 「ご丁寧にありがとうございます」


 クスクス笑いながら、お礼を言われた。丁寧過ぎるのがおもしろかったみたい。ウケ狙いでやった訳ではないので、ちょっと恥ずかしい。


 気を取り直してメイドさんに扉を開けてもらって、屋敷の中へ入る。転生した時は自分の部屋からスタートしたので、外から家に入るのはこれが初めだ。


 どこで売ってるのか分からない、デカい真っ赤な敷物が玄関のロビーの中央に敷かれている。ロビーの大きさにはびっくりだ。元の家にロビーなんて言えるほどの空間はなかったもんな。それだけで、ビックリだ。

 また、不必要なくらい天井が高い。シャンデリアなんかもぶら下がっている。きらびやかで、とても素敵なんだけど、落ちてきたら怖いなあとか、どうやって掃除するんだろうとか、夢のないことを考えてしまう。


 敷かれているカーペットは、きれいな、花のような模様が刺繍されている。見るからにお高そうである。職人さんが手作りしてるんだろうな、きっと。いったいどこで売っているんだろうか、こんな大きさの敷物。売り場の大きさを勝手に想像してみる。これほど大きい敷物を扱うのだから、お店もさぞ立派なんだろうな。


 それにしても、洗うの大変だろうな。分厚いから絶対乾きにくいぞ、これ。もしかして、あのメイドさんが洗ってくれているのかしら?それとも、洗濯のプロみたいな人が働いているとか?うーむ、わたしの家には分からないことがいっぱいある。この世界に来て初日だからな、そこのところは今後少しずつ解明していこう。


 そもそも、この家には全部で何人の人がいるのだろうか。・・・百人とかいたらどうしよう。そんなにいたら、一人ひとり識別できるようになるまで、どれくらいの時間がかかるか、考えてみるだけで恐ろしい。


 わたしは今日一日の経験から、とりあえず貴族=デカいという結論に達した。校舎の門しかり食堂しかり、わたしの住んでいる屋敷と、この敷物もしかり。とにかく、大きいものが多い。

 

 大は小を兼ねるって考えなのか、それとも、大きいって何かいいよね~とか、とりあえずデカくしようぜ!みたいな、めちゃくちゃ浅い考えの、ほとんどノリみたいにして作っちゃってる可能性もある。

 ・・・それはそれで、憎めなくて、よろしい。

 

 ノリのいい貴族っているのかな?ウェ~イみたいな感じの人。いたら、会ってみたいかも知れない。


 そんなくだらないことを玄関で突っ立ったまま、ぼけーと考えていると、奥の扉が開いて、誰かが出てきた。


 「お帰り、エドガー」


 目の前に現れたのはタリアさんだ。エドガーくん(わたし)のお母さんである。何時間かぶりの再会だ。朝に会った時にも思ったけれど、なんとも、ぽわぽわした雰囲気の人だなあ。小走りで玄関まで出て来てくれた。喜びが動きから伝わってくる。


 にっこりと笑うその姿は、なんともおしとやかで上品で、尚且つかわいらしさもある。こんな人がお母さんとはエドガーくん、うらやましいぞ。一緒にいて楽しそうだし、ぜひぜひ仲良くしていきたい。

 タリアさんは、わたしの前まで来て


 「うーん、うーん」


 と、つま先立ちして、なんかうなっている。どうしたんだろう?トイレかな?・・・いや、違うみたいだ。


 「しゃがんで~」


 体を伸ばしながら、タリアさんが言う。ちょっと足がプルプルしている。


 「しゃがみますか?」


 わたしはほんの少し膝を曲げた。なんだろう?


 「よし、これで届く」


 手が伸びてきて、わたしの頭の上にぽんと乗せられた。


 「無事帰ってきたわね~。えらいわ。よ~しよし」


 おおっ頭を撫でられた。どうやらタリアさんは、甘やかしにかけては手練れのようだ。ごく自然な手つきで撫でてくる。その余りにも無駄のない動きに、わたしはビックリする暇もなく受け入れてしまった。しかし、帰宅するだけで褒められるとは、もしわたしがテストでいい点取ったりしたら、果たしてタリアさんはどんな反応をしてくれるんだろう?

 なんか、逆にちょっと怖い感じすらする。


 タリアさんは、細い目をさらに細めて微笑んでいた。いやあ、この頭ナデナデは、なかなかの破壊力である。すごく癒されるんだけど、気を付けていないと骨抜きにされてしまう危険がある。あぶないぞ、これは。自分をきちんと保つのが、肝心だな。ある意味で精神の修行と言えるかも知れない。


 「友達はできそう?」


 少し心配そうに尋ねてきた。やはり、その辺りは話題に上がると思っていた。ふふふ、ご心配なくと胸を張って言えるぞ。友達ができそうどころか、次々と来る人の勢いがすご過ぎてタジタジしているくらいだもの。もはや友達ができるかどうかという悩みではなく、迫り来る好意の波状攻撃をどう受けとめていくのか、そこが問題だと言っていい。

 この問題も、ある意味で深刻ではあるんだけど、まあ今は考えるのはよそう。


 タリアさんにいきなりそんなこと言っても訳が分からないだろうから、ビックリさせない程度に今日出会った人の話をしていく。


 「はい、お昼に食堂に行ったり、帰りも一緒に帰ってきました」


 アウグストくんやロベールくん、エステルさんとの出会いを語った。担任のユーリー先生も、いい人そうだったと、伝えておく。


 放課後、クラスにやって来たマニュエラさんは・・・・・・まだあいさつをしたくらいだからなあ。話はしたんだけど、わたしはロベールくんとマニュエラさんが喧嘩をしないように、場の空気を和ませるのに必死だったから、ほとんど覚えてない。


 覚えているのは、押しが強いってことと、ポーズがカッコいいということくらいだ。なので、さらりと触れる程度にしておく。あ、あとロベールくんと仲が悪そうってこともあったけど、これは伝えなくていいだろう。


 嬉しそうに話を聞いてくれるタリアさん。うんうんと、うなずきながら、わたしの話の些細なところにも反応してくれて聞いてくれるのが嬉しい。さては、この人、かなりの聞き上手とみた。わざとらしくなく自然体って感じなのが、ポイント高い。

 話を聞くコツを聞いてみたくなって、ちょっと聞いてみる。


 「あの、お母さん」

 「ん?なあに」

 「お母さんって、とても聞き上手だなって思うんですが、なにか気を付けていることあるんですか?」

 「聞き上手?あらあ、そうかしら」


 タリアさんは、両手を頬に当てて、うふふと照れ笑いしている。こういうところ、かわいいな。


 「気を付けていること?そうねえ・・・」


 腕を組んで眉をひそめて、真剣に考えてくれている。


 「相手の言うことをしっかり聞くことかな~。気になったらちゃんと質問するのがいいと思うわ。むこうも、聞いてもらえると嬉しいと思うし」


 意外とシンプルだった。なるほど、質問するのが大事なのか。でも、それがなかなか難しいんだよなあ。つい自分が喋るのに夢中になって、聞いてない時とかあるし。


 「分かったかな?」


 小首を傾げるタリアさん。動きの一つ一つに愛嬌がある。


 「はい、ありがとうございます」

 「いえいえ、どういたしまして」


 タリアさんは笑った。というか、基本的に常時ニコニコしている。・・・怒ったりするとどうなるんだろうか。これは、何の根拠もない単なる推測だけど、めちゃくちゃ怖そうな気がしている。もちろん、かわいらしく怒るタイプってこともあるから、そっちなら安心なんだけど、確かめるためにワザと怒らせる勇気は、わたしにはない。


 すごく恐ろしいことになる予感がする。触らぬ神に祟りなしって奴だ。


 雑談している途中で、メイドさんの名前がついに判明した。マリーさんというそうである。朝からずっと気になっていたので、喉につかえていたものが取れたような気分だ。スッキリ爽快。これで何か用事を頼んだりするのに、声をかけやすくなった。名前が分からないままだと、どう呼んでいいか分からず、妙に緊張してしまいそうだものね。


 楽しそうに聞いてくれるので、つい長話をしてしまった。わたしもそろそろ勉強しておかないとな。一度部屋に戻って、予習と復習をしよう。


 階段を上がって、廊下の奥に進むとわたしの部屋だ。


 ドアを開けて入ると、壁際にデンと大きな勉強机がある。ドラマや映画で、社長室とかそういう場所に置いてありそうな、木製の立派な奴。広くて物が置き放題だ。元の世界にいた時は、少ないスペースをいかに有効に使えるか苦心していたけど、そんなこととは、もうおさらばだ。


 無駄に教科書を広げたりしてみたくなる。椅子も、とても座り心地がいい。背もたれも付いているぜ。長時間勉強しても疲れにくそうで快適だ。


 よし、やる気は十分。ササッと片付けよう。

 こうして、わたしは予習と復習をこなしていく。まだ登校初日で、本格的に授業に突入していないから、軽くノートを流し見する程度で済んでいるのが幸いだ。超効率的な学習法を知らないので、教科書を読んだり、ノートを見直してみたりと、すごい地味なやり方だけど、とりあえず正攻法で地道にやっていこう。


 長い一日が終わりに近づいていた。なんだか、まだ少し頭の中がフワフワとしているようだ。さっきまで学園で、てんやわんやの大騒ぎだったのに、広くて静かな自分の部屋にいると寂しいような気がする。そりゃそうか、あれだけ賑やかなところにいたから、温度差がすごくて、とまどっているんだろうな。


 ふと、みんながわたしに向けてくれた笑顔を思い出す。・・・みんなをがっかりさせないように、勉強とか頑張らないとな。


 わたしの予定では、もう少し大人しくして、密やかに学園生活を楽しむはずだったんだけど・・・なんだか、当分騒がしい日々が続きそうな気がしている。まあ、ただの勘だけど。

 よ~し、あとちょっとだけ、勉強頑張ろう。わたしは伸びをして、再び教科書を開いた。

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