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登校しちゃった

 二日目の朝だ。校門の前にクラスの人達が集まっているのが見えた。なぜか左右に分かれて一列ずつに並んで手を繋ぎ、アーチみたいなのを作っている。なにしてるのかな?みんな、きゃっきゃっと楽しげである。


 その内の何人かがわたしに気が付いて、声をかけてきた。


 「おっ来たぞ」


 「いらっしゃったわ」


 「こっち!こっちですよ」


 手招きしてくれる。何かな?おもしろいゲームでもしてるのかな?それともいい知らせかしら。とにかく、近づいてみよう。


 「おはよう。さあ、ぜひここを通ってくれ」


 「いやあ、なんか自然な流れで道を作ってエドガーを出迎えようって、そんな話になってさ」


 このアーチは、わたしを出迎えるため準備してくれたらしい。どうしたら自然な流れで、みんなで並んでアーチを作ろうという発想へたどり着くのか。そんな発想が生まれるクラスとはいったい・・・。

 

 まあ、ともかく・・・なんで、そういう流れになったんだろう。

 純粋な疑問を、側にいた女の子にぶつけてみよう。

 

 「えっと・・・どうしてこんなことを?」

 

 やはり、気になったことは質問だ。昨日、タリアさんから習得したテクニックを使う時が来た。

 

 「どうしてですって?理由なんてありませんよ。したいからです!」

 

 キラキラした笑顔できっぱりと言われた。そうか、理由がないのか。なら、仕方ないな。

 

 わたしは自分で自分を納得させようとするけど、全然納得できない。でも、これ以上聞いても意味がないんだろうな、たぶん。なんか、すごく真っすぐな目をしてるんだもん。


 「さあさあ、遠慮なく」


 「わわっ!」

 

 わたしは一人に手を引かれて、別の一人に背中を押され導かれていく。拍手で迎えられながら、列の間を通るのがものすごく恥ずかしい。みんながわたしを見てくる。歩きながら、控えめに手を挙げてみんなの拍手に応えた。

 これも、昨日学んだことだ。みんなの好意には、控えめにでもリアクションをとること。

 

 しかし、これ登校って言うより、入場である。

 

 「きゃ~朝から素敵ですわ~」


 「いいぞ~」


 「素晴らしい登校っぷりだ~」

 

 ただわたしは登校しているだけなんだけど、えらい歓迎ぶり。

 

 しかし・・・素晴らしい登校とは何だろう?逆に素晴らしくない登校は何かを考えてみると、分かるかしら。暴れながらとか、後ろ向きに入ってくるとか?

 ・・・すっぽんぽんで登校するのは、だいぶ素晴らしくない登校だろうな。いや、これは登校がどうのこうのというレベルじゃなくて、普通に逮捕される話だ。

 

 考えても結局分からなかったけど、ともかく、わたしはいい登校っぷりだそうだ。一応、褒められているのだと、そう思うことにしよう。

 

 「なんだなんだ、この騒ぎは」

 

 アウグストくんがやって来たぞ。この光景に出くわしても、冷静である。

 

 「やっぱりエドガーか」

 

 わたしをじーと見て、なぜか納得したように、うなずいた。どうやら昨日の経験から、ある程度予期していたらしい。やっぱりって言われるのは、複雑な心持ちではある。

 アウグストくんにとって、わたしはどんなイメージなんだろうか。

 

 「やあやあ、みな、ぼくのためにすまないね」

 

 ロベールくんも登場してきた。すぐに自分のための列だと思えるのは、すごい自己肯定感の高さだ。いつか大きな勘違いとかしないといいけど、それだけが少し心配である。

 

 「ロベールさんも、どうぞ~」


 「おうっ入れ入れ」

 

 わたしが通った後は、みんなが列の中に自由に出入りし始めた。

 

 ユーリー先生がナチュラルに入って来て、わたしに話しかけてきた。

 

 「なんだ?今日は楽し気な催し物だな」

 

 呑気である。とめたりはしないらしい。

 

 「みなさ~ん。わたしくのために、ご苦労様ですわ」

 

 マニュエラさんまでも、手を振りながら現れた。

 

 ロベールくんと同じ反応をしている。やはり似ている、この二人。

 ・・・本人達に言ったら怒りそうな気がするけど。

 

 彼女は別のクラスだったはずだけど、構わずに列に入ってくる。もう、そういうのは関係なくなっているらしい。

 みんな、マニュエラさんを歓迎していた。

 

 「いえ~い、何かやってるね~」

 

 エステルさんも参戦してくる。楽しそうに小躍りしている。テンションが高くて、朝から元気なのがうらやましい。

 こういう賑やかなこと、好きなのかもしれないな。

 

 と言うかそもそも、この場にいる人で、テンションが低い人はほぼ皆無だ。

 落ち着いているのはユーリー先生くらい。

 わたしは、ただただ圧倒されているばかり。昨日の経験があるとはいえ、そんなすぐに慣れるものじゃない。

 

 まだ一日の始まりなのに、このイベントだけで、もうお腹がいっぱいな気分だ。みんなのテンションの高さに若干、わたしは引いてる。冷静に考えると、うちのクラスの人って変わり者が多いのでは?そんな疑いが生まれつつある。

 

 そのままの流れで、みんなと一緒に教室へ向かう。クラス全員が一気に移動するので、なんか大名行列みたいになっている。

 

 先頭がわたしで、隣にユーリー先生。次にロベールくんとマニュエラさんが続いて、アウグストくんとエステルさん。そして他のみんなが付いてくる。わたしは先頭は遠慮したんだけど、多数決によって強引に決まってしまった。

 

 これはすごく恥ずかしい。隣のユーリー先生はさすが、堂々と歩いている。なんか絵になるなあ。先生がみんなを引き連れて歩いているようだ。カッコイイ。

 

 しかし、すごく人目を引いているな。幸い、怪訝そうな顔をする人はいない。さすがとか素晴らしいとか、褒め言葉が耳に入ってくる。みんないい人過ぎる。怪訝な顔をしてもいいんだよと、そっと言ってあげたくなる。

 

 無事到着した。なんだか、妙な達成感がある。みんなも同じことを思っていたらしく、自然と拍手が起きた。

 達成感はあるけど、何を達成したのかあんまりよく分からない。

 

 教室に入ると、すばやくみんなは席に着いた。すごくみんな切り替えが早い。見習いたい、そのスイッチのオンオフ。

 

 ユーリー先生が話し始める。

 

 「よし、みんないるな。朝礼を始めるぞ。今日は特別な行事はないが、一つ連絡がある。この学園には、委員会というものがあってな。生徒が所属し、みなの学園生活を手助けする役割を担う。各自一つは、この委員会に入ってもらうことになっている。自分が所属したい委員会を考えてみてくれ。詳しくは後ろの壁に掲示してある。今月中だから、まだ時間はあるが、早めに知らせておいたほうがじっくり考えられるだろう」

 

 あ~委員会か。この世界にもそういうものがあるんだ。どうしよう。わたしって、これといってすごい入りたい奴とかないんだよなあ。どれもそこそこ関心があるってくらいで、何でもいいっちゃいいんだけど、何でもいいが一番困るんだよな。本とか好きだけど、図書委員にすごく入りたくて、迷わず即決ってほどでもない。

 

 「おい、委員会だってよ」

 

 朝礼が終わると、アウグストくんから声をかけられる。

 

 「・・・うん」


 「ん?浮かない顔だな」


 「これっていうものがなくてね。決められるかなって」


 「まあ、まだ時間はあるんだし、気長に考えれば大丈夫だ。心配すんなよ」


 「ありがとう」


 「おう」

 

 励ましてくれた。アウグストくんは優しいな。わたしがお礼を言うと、爽やかに笑う。

 なんだかいいな、こういう穏やかな感じのやりとり。


  「ふふふ、迷っているだなんて、君もまだまだ青いね」

 

 ロベールくんだ。青い?未熟者的なことかな?

 

 「ぼくは、図書委員に決まっているよ。よき本を読み、教養を深める。これこそ、貴族の嗜みさ。みんなにもそれを啓蒙していかないとね」

 

 得意げな態度と啓蒙という少し上から目線の発言は気になるけど、やりたいことがはっきり決まっているのはいいなあと思う。図書委員か~わたしも、どうしようかと思っていたけど、ロベールくんがやりたいなら譲ろうかな。

 

 「あたし、まだ考え中~」

 

 さて、わたし達の話を聞きつけてエステルさんも来た。彼女はまだ決めかねているみたいだ。そういえば、エステルさんってどんなことが好きなんだろう。

 よし、ここは思い切って聞いてみよう。

 

 「やっぱり好きなことに関係のある委員に入った方が楽しめる気がするよね。エステルさんは、どんなことが好きなの?」

 

 「ん?あたし?そうだな」

 

 唇に人差し指を当てて考えている。

 

 「服とか?おしゃれ好きなんだよね~」

 

 わお、おしゃれ。近所の安い服屋さんで、とりあえず地味目な色のシャツを買うことで乗り切ってきたわたしにとって、最も縁のない言葉と言っても過言ではない。すげえぜ、エステルさん。自分をおしゃれが好きだと言える、それだけで尊敬の気持ちが芽生えてくる。

 

 「それだと、何委員会だろう」


 「風紀委員は違うっしょ?」


 「そうだね。それだと、生活指導って感じだもんね」


 「保健委員とか?」


 「保健委員かあ」


 「ふふふ、身体測定とかするんでしょ。みんなのスタイルチェックできるかも~」

 

 エステルさんの目が、生き生きと光った。なんだか動機がちょっと不純な気がするけど、大丈夫かしら?


 「ちょっとそれは、動機が不純なのでは・・・」


 「え~そうかな~?えっと・・・じゃあ」

 

 エステルさんは掲示を確認すると、声を上げた。

 

 「待って!文化祭実行委員会とかある!これだ!これ」

 

 ピョンピョンとジャンプしている。文化祭・・・確かにお祭りとか好きそうなイメージはある。明るいし、盛り上げるの上手そうだ。

 

 「なんか、イメージ通りだな」

 

 アウグストくんが言った。

 

 「似合う気がする」

 

 わたしも同意する。エステルさんなら、楽しくしてくれそうな気がする。

 

 「ほんと~?これにしよっかな~」

 

 彼女もノリノリである。

 

 「まあでも、まだしばらく考えられるから、候補って感じでいいんじゃないかな」

 

 わたしは、慌てて決めなくてもいいとエステルさんに言っておく。

 

 「そだね~。でも、これは有力候補だな!」

 

 ニッコニコのエステルさん。

 

 いいなあ、しっくりくるの見つかって。わたしは掲示を眺めながら、そのどれもが何だかピンとこなくて、どうすればいいのかなと、途方に暮れそう。まあ、気長にじっくりと考えるかと、そう思っていると、チャイムが鳴りだした。

 

 とりあえず、委員会のことは心の片隅に置いておこう。

 

 さあて今日も一日、無事に過ごせるといいな。昨日のこともあったし、ここでは何が起きるのか、まったく予想できないのが怖いんだよなあ。


 不安もありつつ、とにかく一日が始まった。

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