貸し切っちゃった
・・・ん?なんだこれ。
お昼休みになったので、みんなで食堂へ行こうとしたら、なんか高級そうな赤いカーペットが教室から出ている。
どこかへ続いているみたいだ。
こんなのあったっけ。しかも紙が貼られていて、こんな文字が書かれている。
エドガー様専用のカーペットです。他の方が踏んだら、ぶっ殺しますわ♡ ―マニュエラ・デル・エティエンヌ―
これ、マニュエラさんが用意したのか・・・。なにやら物騒な文言が書かれている。
ぶっ殺すって・・・なんか、本気でしそうな予感がして、身震いする。
けど、いったい何が目的なんだろう。先をたどっていけば分かるのかしら?
昨日会ったばかりだし、どんな人なのか分からず、何が待っているのかが予測できない。
・・・と言うか、いつの間にこんなもの用意したんだ。さっきまでなかったよ。
「行ってみようぜ?おもしろそうだ」
アウグストくんは、ワクワクしながら、わたしを覗き込む。
「行こ行こ」
エステルさんも、目を輝かせて身を乗り出している。
みんな、好奇心旺盛である。
「彼女のことだ。ろくなことじゃないよ。きっと」
一人、ロベールくんは渋い顔をしていた。
とにかく、行ってみないことには始まらなさそうだ。
まあ、マニュエラさんも人を陥れたり騙したり、そういうことをする人には見えなかったから、危ないことはないだろう。
わたしが先頭になって、カーペットの上を歩いていく。わたし以外の人もカーペットを踏んでしまっているけど、多分同行者だから、ぶっ殺されはしないだろう。
・・・・・・ぶっ殺されませんように。
どうやら食堂の方へと続いているみたい。
カーペットは、食堂の扉の前まで敷かれていた。
わたしは、みんなと顔を見合わせると
深呼吸して扉を開けて中へと入っていく。
「ようこそ、いらっしゃいませ~」
広い食堂の中央に、マニュエラさんが立っていた。他には誰もいない。ただでさえ広い食堂が、人がいないと、とてつもなく大きく感じられる。
「本日、少しの間ですが貸し切りにいたしましたの。エドガー様と食事を楽しもうと思いまして」
貸し切り!すごっ・・・。わたしのために、そんなことをしてくれたのか。
なんだか、感心してしまった。
さすがマニュエラさんだ。やることのスケールが大きい。
でも・・・ちょっとみんなに悪い気がするな。その間、使えない訳だし。
「そんなことできるの?他の人たち困らない?」
「おほほほ。そこは、しっかりとご理解してもらいつつ、ほんの短い時間だけということで、貸し切らせていただきましたの」
「なるほど、時間を区切ったんだね」
「もちろんですわ。わたくしとて、悪魔ではありません。むしろ、エドガー様に対しては、大天使と言っても差し支えありません」
グイっと顔を近づけてくる。
圧がすごい。大きな目でジーと見つめられると、なんか照れる。
「そういうことだ」
声のほうを向くと、ユーリー先生が姿を現した。手には料理の乗ったお皿を持っている。
なんで先生が?
「やはり、味方につけておくべきは先生ですわ」
なるほど。勝手にやったのではなく、ちゃんと許可をもらっているのね。どうやら、きっちりと手続きは踏んでいるみたいだ。まずは、安心だ。
「許可とってたんだね」
「あら?そんな強引な女に見えまして?」
ちょっと見えると言いたくなったけど、こらえる。ほんとは、ちょっとじゃなくて、すごい見えるんだけど、言ったらどうなるか分からないので、ここは沈黙するのが吉だ。
「誰がどう見ても見えるだろう」
あ、ロベールくんが言っちゃった。
「あら?そこにおりましたの・・・気づきませんでしたわ。エドガー様の存在感で、かき消えておりましたのね」
マニュエラさんは笑顔は崩さないけど、何か雰囲気が怖い。
「ほう・・・この存在感の塊であるぼくに気づかないだと?君の視力が悪いんじゃないかな?」
すぐにバチバチとやり合おうとするのは、昨日と同じだ。彼らにとって、もはや喧嘩するのは世間話みたいなものなのかも。
「でも、なんでそこまでのことをするんだ?」
アウグストくんが、二人の間に割り込んで、バチバチしたムードをぶった切った。完全にロベールくんとマニュエラさんの会話をスルーしている。付き合ってられんということなのだろう。
「それは、誰にも邪魔されずゆっくりお話しして、もっとエドガー様のことを知りたいと思いまして・・・いやですわ、そんなズケズケと聞くなんて」
マニュエラさんは照れている。照れ隠しにアウグストくんの背中を、扇子でバシバシと叩いている。すごい痛そう。力加減というものを知らないらしい。
でも、はっきりと、わたしのことを知りたいって言われると嬉しい気持ちになる。興味を持ってくれてるってことだものね。
その押しの強さには辟易することもあるけれど、やはり感じはいい人のような気がするな。
・・・ロベールくんへの口の悪さや舐めた態度については、今は横に置いておこう。
「マニュエラさんって、すごくパワフルだね」
「あら?そうですか?お褒めいただき光栄ですわ」
わたしの言葉が嬉しかったのか、ニッコニコである。
「こら、エドガーくん。マニュエラ嬢をおだてるんじゃない。増長するぞ」
ロベールくんがすかさず口をはさんだ。それに対してマニュエラさんはすぐに言い返す。
その反応速度はすごい。
「ハッ・・・増長?結構ですわ!人は上手くいっている時しか増長なぞしませんもの。ゆえに、わたくしは今、すこぶる順調であると、そういうことですわ!」
ビシッと人差し指を突き立て、ポーズを決めるマニュエラさん。うーん、カッコイイ。
謎の説得力がある。
単に勢いだけなのかも知れないけど、なんか許せてしまう。
増長?結構ですわ!だなんて、ポジティブが極まっている。
・・・この人、もしや無敵か?
そのポジティブさ、ぜひ見習っていきたい。
・・・・・・と一瞬思ったけど見習い過ぎるとヤバそうな気がする。
ほどほどにしよう。
これは、マニュエラさんだから通用している可能性がある。
「ぐぬぬ」
ロベールくんも、さすがに言い返せなさそうだ。お前調子に乗っているぞって言ったら、調子に乗ってます!だって調子がいいんですからって返答された感じだもんな。
「まあ、落ち着いて、お前たちも座ったらどうだ」
ユーリー先生が席に座るように促してくれた。
まあ、せっかくだから、楽しもう。
わたしは、ロベールくんをなだめながら、席に着いた。
みんなで食事を始める。
マニュエラさんは、やっぱり所作がきれいだった。マナーとか叩き込まれてるんだろうな。
「食べ方がきれいだなあ」
彼女のことをもっと知りたいから、積極的に話しかけてみる。
「エドガー様は褒めるのがお上手ですわ」
わたしに褒められて、彼女はアウグストくんの背中をまた叩いている。叩くのに丁度いい人として、認定されてしまったのかも知れない。
叩かれながら、アウグストくんは、マニュエラさんをジロ~と見ているが、完全に無視されていた。
少し、かわいそうな気もする。
気を取り直して、せっかくだからマニュエラさんの話を聞こう。好きなものとか。
「マニュエラさんは、好きなものや趣味はある?」
「わたくしですか?やはり、演劇鑑賞など好きです。実にいいですわ。やはり、美しい物語を、その場で見る、これが醍醐味でしょう」
なるほど、観劇が趣味なのか。
なんか納得感がある。マニュエラさんは、立ち振る舞いが堂々としているし、芝居ががっているからイメージにぴったり。
と言うか、舞台に出てたりしてそう。普段からポーズ決めたりもしてるし。
「自分では、出ないの?」
「わたくしが?」
「うん」
「わたくしが出ては、みなさん、わたくしの威光に目が眩んでしまいますわ。存在感がありすぎるのも、困りものですわね」
「あ、え~と・・・そうだね」
思わず返答に困ってしまった。
この自己肯定感の高さよ。ロベールくんの自信満々な態度にも驚いたけど、彼女は彼女で、すごい。
呆れるとか馬鹿にするとか、そういった気持ちにはちっともならず、ただただそのすごさに圧倒される感じだ。
しばらく、雑談をしたあと
わたしが食事をとりに行こうと立ち上がろうとすると、マニュエラさんが一緒に立ち上がって、ニコニコしながらわたしの横に並んでくる。
「おほほほほ」
「ん?どうしたの」
「いえ、あちらの方に気配を感じますわ」
「気配?」
彼女は、奥の方にあるテーブルを指さした。
なんだろう。
「あっちへ行けばいいの?」
「ええ、おもしろいと思いますわ」
「よし、行ってみようか」
わたしはマニュエラさんに導かれて、歩いていく。
そのテーブルには、料理が乗っているお皿があった。
蓋がしてあり、中は見えない。
その蓋には、なにやら紙が貼ってあって、エドガー様専用と書かれている。
「どうぞ、蓋を取ってごらんになって」
「う、うん」
わたしのために用意してくれたらしい。嬉しいけど、何だろう。
言われるまま、蓋を取ってみる。
するとそこには
エドガー様、ご賞味あれ、と文字が描かれているケーキが乗っていた。
「どうです!これぞ、おもてなしですわ!」
シェフの人に頼んで作ってもらったのかな?わざわざ悪いなあ。
しかし、そこまで準備してくれてるなんて・・・。
わたし、今日誕生日でも何でもないんだけどな。いいのかしら。
「わざわざ作ってもらうなんて、すごいね」
「作ってもらう?」
「ほら、ここのシェフさん、すごいなって」
「おほほほ!こちらのシェフの方は、普段の食事の準備で大変忙しくしていらっしゃいますもの。余計な手間を増やすようなこと、いたしませんわ」
「へ?じゃあ、これは」
「わたくしの、手作りですわ~」
マニュエラさんは胸を張った。
わざわざ、わたしのために作ってくれたなんて・・・ほんとに?
なんだか、その気持ちがとても嬉しい。これはグッとくる。
ちゃんとお礼を言わなきゃな。
「ありがとう、大変だったでしょう」
「歓迎の意を表すのに、これくらいのことは当然ですわ!」
マニュエラさんは明るくニカッと笑った後で、ビシリとわたしを指さして言った。
料理を取っていたロベールくんが、わたし達に近付いてきて言った。
「なかなか、いい心がけなんじゃないか」
おろ?ロベールくんが、マニュエラさんを褒めている。なんか、意外な感じだ。
「あら?明日は嵐かしら」
マニュエラさんもそう思ったらしい。
「珍しく褒めているんだから、素直に受け取りたまえ」
ロベールくんはブスッとしているけど、そんなに機嫌は悪そうじゃない。まあ、マニュエラさんと喧嘩している時も、本気で怒っている感じではないんだよな。
「おほほほ~」
勝ち誇ったみたいにしているマニュエラさん。
なんだか今日は、彼女のことが少し分かった。
人をもてなすのが好きな人なんだな。そこに好感を持った。
「さあ、お召し上がりくださいませ」
「う、うん」
一口食べてみる。
ふわっとした生地と、その上に乗ったクリームがとても上品だ。甘ったるくない。濃厚なんだけど、ちっとも重くなくて食べやすい。
中が層になっていて、それぞれ入っているものが違う。くるみやアーモンドに似た香ばしい香りがする。
作り方とか全然わからないけど、これは、すごくおいしい。
「うわあ、おいしい」
自然に口から出た。笑顔になっちゃうなあ、これは。
「うれしいですわ。みなさん~やりましたわ~!」
いつの間にか貸し切りの時間が終わっていたらしく、他の生徒が入ってきていた。
たくさんの人が、わたしたちを囲むように集まってくる。
わたしがいると、たくさんの人が集まってくるのは、まだ解けない謎だ。
マニュエラさんは、みんなに向かって手を上げて、こぶしをグッと握った。
カッコイイ。
周りのみんなが、わたしとマニュエラさんに、声をかけてくれる。
「素晴らしいです~」
「さすがエドガー様、そして、マニュエラ様も~」
「いいぞ~二人とも~」
勝どきみたいな大きな声と拍手で、食堂はいっぱいになる。
とても賑やかになってきた。
騒ぎを察知して、いつの間にかエステルさんがわたし達の隣に来ていた。
それは別にいいんだけど、なぜか彼女はみんなに手を振っている。
マニュエラさんが手を振ったりするのは分かるんだけど、エステルさんはさっきまで、あんまり関わってなかったから、ノリノリでみんなにファンサービス的なことをしているのは、どうも不思議な感じがする。
・・・まあ、楽しそうだからいいか。
「ども~」
エステルさんは、調子に乗って投げキッスをしている。
なんとも明るい人だなあ。細かいことはどうでもよくなってきた。
途中から、マニュエラさんも一緒にやり始めちゃってるし。
さすがに、わたしに投げキッスは、いくらなんでもハードルが高過ぎるので、ノリノリの二人に挟まれながら、小さく手を振り続けるのだった。
ぎこちなくても、みんなに手が振れるようになっただけでも、自分の成長を感じるぞ。
今は、それでよしとしよう。




