帰宅しちゃった 帰り道篇
なんと、わたしはアウグストくん、ロベールくん、エステルさんと一緒に帰ることになった。集まって話をしているうちに、なんとも自然な成り行きで教室から出ていく。これは、もしかして友達になるルートに、乗っているのでは?それどころか、もうすでに友達の段階に達していると思っていいかも知れない。いいぞ、わたし。なかなか順調だ。
今日はいろいろとあったけれど、いろいろあった分だけ、みんなとの距離が縮まっているような気がする。よ~し、このまま仲良くなれるように、頑張っていこう。
廊下を歩いていく。すると、すれ違う生徒たちが振り返って、わたしたちを見ている。あれがエドガー様よ、なんて声が聞こえる。わたしはどうやら他のクラスの人にも、そこそこ認知されているみたいだ。まあ、さっきマニュエラさんが噂を聞いてやって来たくらいだしなあ。どうか、変な噂が広まっていませんように。
みんなはいったい、どんな話をしているのだろうか。とても気になる。さりげなく、断片的に聞こえてくる言葉に耳を澄ましてみよう。そうすると、優しそうだとか、感じがよさそうだとか、いい感じのニュアンスの言葉が耳に入ってくる。ふむふむ、どうやら褒められているみたい。話している人の表情を、ちらっと確認してみると、みんな笑顔だった。これは少なくとも陰口は言われてなさそうだな。あんな笑顔で陰口とか言われていたら、わたしは人というものを信じられなくなりそう。なので、とりあえず、褒められていると思い込んでおくことにしよう。
どうやら周りの話し声が聞こえたらしく、アウグストくんが、わたしのわき腹を肘で突いてきた。
「ずっと、みんなから見られてるな。すごい人気だぞ」
「そうかなあ」
人気なのかなあ。いまいち実感できない。確かに、わたしのクラスの人が好意を示してくれているのは、すごく伝わってくる。握手会に胴上げまでされたら、どんなにわたしがおバカでも分かるに決まっている。でも、興味ない人だって、そこそこいるだろうし、うちのクラスが特別、変わり者の集まりの可能性だってあるしね。
「控えめなのも度が過ぎると、逆に嫌味だぞ」
コツンと頭を叩かれる。全然痛くなかった。なんというか、ふざけ合うと言うか、じゃれ合うって感じだ。うーむ、こういうコミュニケーションってしたことなかったから、新鮮だ。
「今日は、驚かされっぱなしだぜ」
「ごめん、いろいろお騒がせしたね」
「ん?そうじゃねえよ。おもしろかったってことだ」
おもしろがってくれているみたい。ちょっとホッとする。迷惑に思われていないか、心配だったんだ。
エステルさんが、わたしとアウグストくんの間に入ってきた。
「そうそう。気にしなくていいよ。また受付してあげるから、いつでもいいなよ」
彼女も、わたしの周りのドタバタを楽しんでいるらしい。優しいなあ、みんな。
「すごい人気だよね。まあ、分からなくないかも」
エステルさんは、同意を求めるようにアウグストくんを見る。
「まあな。物腰が柔らかだし、それでいて鼻につくとか、嫌な感じがしないからな」
「そうそう」
「あと、なんて言うか。ちょっと隙がありそうなのが、いいんじゃないのか?よく分からねえけどさ」
「え~?アウグストくんってさあ、なんだかんだ、ちゃんとエドガーくんのこと、見てるよね~?」
「そ、そんなに見てねえよ!今日一緒に過ごして、なんとなくそんな感じがした、それだけだ」
アウグストくんは目を逸らした。どうやら、照れくさいらしい。エステルさんはからかうように、ケラケラと笑っている。
「おおい、ぼくを差し置いて、何を楽しんでるんだい」
後ろから付いてきていたロベールくんが追いついてきて、口を開いた。
「やあ、エドガーくん。昼間は、なかなか話す時間がなかったね」
やれやれと、髪をかき上げて、なんだか一仕事終えたみたいな顔をしている。確かに、いろいろゴタゴタしていて、ゆっくりと話す暇がなかったな。・・・あれ?でも、お昼ご飯の時は、そこそこゆっくりできていたけどな。アウグストくんとエステルさんとは、その時に雑談したし。記憶をさかのぼってみる。ロベールくんも一緒にいたけど、あんまり会話した覚えがない。なんでだろう?
・・・そうだ、思い出した。彼は、ご飯のおかわりを取り行くのに忙しくて、ほとんど席に座ってなかったんだ。何度か話しかけようとしたけど、すぐ席を立ってしまうせいで、ほとんど会話せずに終わったのである。恐るべき食欲だ。
「昼、すごい勢いで食べてたもんな、お前。ほとんど座ってなかっただろ」
アウグストくんが、早速ツッコんだ。わたしは、うんうんとうなずく。
「何を言うんだい。あれでも、ぼくはだいぶ遠慮していたんだよ」
自信満々の顔をしている。なんで自信満々なのかは、分からない。
アルグストくんは呆れたような顔をしている。本気で呆れているというよりは、どこか楽しんでいるみたいだ。ちょっとその気持ち、分かる。堂々としているからか、なんか憎めないんだよね。もしかしてロベールくんって、なんだかんだ好かれるタイプなのかも知れない。ちょっとイラっとはするけど。
せっかくの機会だし、ロベールくんのことをもっと知りたいな。話を振って、親睦を深めていこう。そういえば自己紹介の時に、本が好きって言ってたっけ。おすすめの本を聞いてみれば、いろいろ教えてくれそうだ。
「本を読むのが好きって言っていたけど、おすすめとかある?」
「ほう・・・ぼくにそれを聞くとは、君は見る目がある」
何冊かおすすめの本を紹介してくれる。歴史小説に、推理ものなどの小説をよく読むみたいだ。そして、それぞれの本に関して、すごく丁寧に説明を始めた。丁寧過ぎて、話がちっとも終わらない。ひたすら長い。長くて詳細で・・・・・・物語の結末まで、バッチリ教えてくれた。ありがとう、ロベールくん。読む前から犯人と、その動機がすっかり分かったよ。
「なにやってんの!それ言ったらダメでしょ。バカなの!?」
しびれを切らしたらしく、エステルさんが話にストップをかけた。ついに、バカって言っちゃったよ、この人。
「バカ?」
さすがに、聞き捨てならなかったらしい。ロベールくんの眉がピクリとつり上がった。
「待て待て待て!」
アウグストくんが、すかさず二人の間に割り込んでくる。このまま放置すると、喧嘩が勃発する危険を感じたんだろうな。アウグストくんの危機察知能力が、わたしたちと出会って初日にして磨かれてきているようだ。
「ていうか、あんたがおかしいの!結末まで言う奴いる!?普通!」
ロベールくんを指さしてにらみながら、エルテルさんは、わたしと肩を組んだ。本の盛大なネタバレをくらったわたしに、強い味方が現れたぞ。なんだか、すごく連帯感と頼もしさを感じる。今、エステルさんとわたしの心は、一つになっていると言っていい。
「なにを言うんだ。結末なんて、知っていても楽しさは変わらないよ」
「はあっ!?」
エステルさんには全然、理解できないみたいだ。驚きのあまり、声が裏返っちゃってる。ロベールくんは、ネタバレが平気なタイプらしい。
「まあ、犯人まで言うのは、控えてもよかったかもな」
そっとアウグストくんが、言葉を挟んでくる。あくまでも、二人を刺激しないような穏やかな口調だ。わたしのセンサーが反応する。ちゃんと言葉を選んで言っているのが分かるぞ。気を使ってるなあ、アウグストくん。
「むむ、ま、まあ、その・・・それは、そうかもだが」
ちょっと揺らいでいるロベールくん。さては、強く当たられると反抗するけど、穏やかに諭されるのに弱いのかな?よおし、ここで、わたしも一押ししておこう。
「もしよかったら、一言、結末まで話していいか聞いてくれると、助かるよ」
できるだけ、角が立たないように気を付ける。彼も悪気はなかったんだろうしね。
「ん、そうかい?それくらいなら、まあ・・・」
はっきりとは謝らないけど、ロベールくんからしたら、かなり譲歩しているのが感じられる。アウグストくんとわたしの連携が効いているみたいだ。隙を見逃さず、アウグストくんは言った。
「今度から気を付けてもらえばいいじゃないか。な、それでいいよな、エドガー?」
よし、上手く話をまとめてくれたぞ。わたしも言葉を繋げる。
「うん。そうしてくれると、うれしい」
「う、うむ・・・善処する」
ロベールくんは、頭をポリポリ掻きながら返事をした。ひとまず一件落着って感じだ。結構不器用な人なのかも。多分、謝るのとか苦手なんだろうな。
「え~!?みんな甘くない?とりあえず、いったん首絞めとこうよ!」
一人、過激派が残っていた。エステルさんは、ニコニコしながら、がしっとロベールくんの肩をつかんだ。笑顔がなんか怖い。
「ちょ、ちょっと待つん・・・・・・」
「うりゃ~」
ロベールくんは、エステルさんに首を絞められた。がっちり決まっていて、そこそこ苦しそうだけど、大丈夫だろうか?反省してもらうために、様子を見ながらそのまま泳がせておく。ネタバレした罰として、彼女にお仕置きをしてもらおう。ありがとう、エステルさん。心の中でお礼を言っておく。
「ぐ、ぐるじい」
もがいている。そろそろかなというタイミングで、アウグストくんと一緒に止めに入った。
解放されたロベールくんはコホンと咳一つすると、身だしなみを整える。
「まったく、乱暴な人だ」
呆れているようだけど、怒ってはいないみたい。彼なりに反省しているんだろうな。
「あたし、結構才能あるかも」
エステルさんは、腕をブルンブルンと振りながら、満足そうな様子だ。なぜか、とても晴れやかな顔をしている。どうやら首絞めに手ごたえを感じたらしい。あんまり手ごたえを感じちゃいけないことのような気がするけれど、まあ、大丈夫だろう。・・・・・・一抹の不安はあるけれど、大丈夫だと信じたい。
そんなこんなで、おしゃべりしながら、わたしたちはゆっくりと帰り道を歩いて帰った。会話しながらだから、やっぱり進むのは遅い。でも、それがなんだか心地いい。歩きながら、とりとめのないようなこと、何でもないことをぽつりぽつりと話した。何気ないかも知れないけれど、こういう時間は穏やかでいいなと、しみじみと思った。




