放課後になっちゃった
すごく濃い一日だった。転生したこととか、入学とか、授業とか。新しい環境へ飛び込んだこと、それ自体も大変なことだけど、それだけじゃない。自己紹介に昼ご飯、そして体育の授業の時間で、みんなから熱いアプローチを受けたことが、衝撃だった。それがもう、すごかった。転生したこと自体よりも、ビックリしたかも知れない。
だって胴上げまでされてるもんな、わたし。いきなり胴上げされるなんて、どんな人生なんだろうか。今、振り返って思い出してみると、ちょっと怖くなってきた。うーむ、人気者の苦労ってこういうことなのかな?ちょっと分かる気がする。なんか今、ちょっとナルシストっぽくなってる気がする、わたし。すでに自分が人気者であることを、ナチュラルに認めちゃってる。いや、でも握手会、二回開催されてるし、少しは人気あると思ってもいいのでは?と、自分を納得させる。でも、もしかして、わたし調子乗ってるのかなあ?自戒せねばならないかも知れない。
明日からは、どうなるんだろう。ちょっと物思いにふける。いくらエドガーくんがイケてる男子だったとしても、今日みたいなことがずっと続くなんてことは、ないだろう。みんなもわたしも、たんだん慣れて落ち着いてきて、いい感じの距離感になって、穏やかでまったりとした学園生活になっていく・・・・・そういう流れになるといいな。
今も視線は感じるけど、お昼休みと体育の時間以外は、みんな意外と話しかけてこなかった。遠くから温かい目で見守ってくれている感じ。ただ、その温かい目の温度が高いというか、凝視って言っていいレベルで見てきてはいる。まあ、それでも、そっとしておいてくれるのは、ありがたい。今、わたしはすごく、そのありがたみを噛みしめている。
席でそんなことを、ぼんやり考えていると、ユーリー先生が教室に入って来た。終礼の時間だ。
ユーリー先生が、話を始める。
「お疲れ。初日ということで、緊張した者もいるかもしれないが、少しずつ慣れていけばいい。まあ、ゆっくりやれ」
先生は基本的にさっぱりしているけど、みんなのことを気にかけてくれている感じがする。こういうことを、さりげなく言ってくれるのは、なかなか好感が持てるな。
続いて明日の予定についての確認だ。特別な連絡事項や行事はないみたいだから、ひとまず、安心。普通に授業を受けていけばいい訳だな。まだまだ、この学園には慣れていないけれど、早く慣れていきたい。
終礼がささっと終わったので、わたしは帰り支度を始めた。そうすると
「エドガー様は、こちらのクラスでしょうか?」
ガラッと教室のドアが開いて、一人の女の子がやって来た。入口の近くにいた男子に話しかけている。あれ?わたしに何か用事があるのかな?
彼女は、きょろきょろと教室の中を見回している。長い金色の髪が夕日に照らされて、ツヤツヤしていた。きれいな白い肌が目を引く。鋭い目元と、クイッと上がった眉のせいか、なんか高飛車そうな女の子だ。自己紹介の時、見覚えがないので、他のクラスの子だろうな。でも、なんの用かな。
女の子は、クラスメイトの男子に案内されて、わたしの席の前に来た。
「初めまして、エドガー様ですわね。わたくし、同じ一学年のマニュエラ・デル・エティエンヌと申します。よろしくお願いしますわ」
彼女は手に持った扇子をヒラヒラしながら、あいさつをした。そして、大きな目でわたしのことを、すごい、じーと見てくる。なんか、恥ずかしいな。いきなり他のクラスから来るなんて、特別な話があるのかな?
「お噂は、聞いておりますわ。なんでも食堂で、料理の配置で芸術的センスを惜しげもなく披露し、体育では、ゴールを突き破るような見事なシュートを決めたとか」
「へ?」
尾ひれが!なんか尾ひれが付いている!こりゃ、まずい。わたしの知らないところで今日の出来事が、思いもよらない大きさになっている。噂って怖い!とにかく、早めに対処せねば、マズイことになる。
「あ、いや、違うんだ」
誤解されたままだと、今後の生活に差し支える。ここは、ちゃんと訂正しておこう。
かくかくしかじかと、事情を説明する。慌てて否定すると、照れ隠しとか、謙遜しているとか、間違った方向に解釈されてしまう危険があるので、なるべく穏やかに話す。これ、大切。
わたしは喋り終えると、彼女の様子をうかがう。どうだろう。分かってもらえたかな?・・・少しドキドキする。
マニュエラさんは目を閉じて、手に持った扇子をパチンと閉じた。
「なるほど、お話は分かりました。噂というものは得てして、誇張されがちですから、そういうこともあるのでしょうね」
お!分かってくれたみたい。グイグイ来るから、猪突猛進型というか、あんまり人の話とか聞かないタイプかなと、勝手に思っていたけど、意外と冷静だった。よかった。
「けれど、あなたは、自分を大きく見せようとしないのですわね。否定しなければ、わたくしから一目置かれていたでしょうに」
「いや、さすがにそれは、あなたを騙すみたいで、申し訳ないと思うから」
「ふむ・・・・・気に入りました。その奥ゆかしい姿勢!あっぱれですわ」
扇子を広げて、おほほほほと笑った。どうやら、正直なところが気に入られたみたい。
高笑いが似合うなあ。おそらく、しょっちゅう高笑いしてるんだろう。慣れている感じがする。
「あなたをわたくしの、お友達にしてさしあげますわ!!」
マニュエラさんは片手を腰に、そして背中を反らしてポーズを決めながら、わたしをビシリと指さした。
なんか、カッコいい。しかし、貴族然とした人は、他の人を指でささなきゃいけない決まりでもあるんだろうか。そこが気になる。自己紹介の時、ロベールくんにも、思いっきり指さされたしな。
「マニュエラ嬢。友達にしてさしあげますとは、相変わらずの上から目線だな」
おや、ロベールくんが来た。
「あら?ロベール様、お久しぶりですわね」
「君とは家が隣同士だろう。今朝、会ったじゃないか」
「そうでしたかしら?すっかり忘れておりました」
「ほう?なんだって、ぼくを忘れていたと?」
「そうですわ。なので、なんだか会うのが新鮮に感じますの」
お、ちょっとロベールくん怒っているみたい。それでも笑顔を崩さないのは、やはり貴族としてのプライドって奴なのかな。
しかしまた、喧嘩を売られている。さっきもエステルさんに甘く見られてたし。うちの学園って、もしかして喧嘩を売る人が多いのかしら?それとも、単にロベールくんがなめられやすいだけなのか。
まあ、ちょっと言動がイラッとくるから、何か一言言ってやりたくなる気持ちは分かる。
そういえば、二人は知り合いなんだな。お隣さんらしい。でも、あんまり仲良くなさそう。おそらく同族嫌悪って奴だろう。なんか、めちゃくちゃ似てるもん。
「あの~二人とも、まず落ち着いて」
にらみ合っていたので、ここは、わたしが仲裁に入る。二人とも、わたしには嫌な感情は持ってなさそうだし、このままエスカレートしたら大変だ。
「あらあら、エドガー様。申し訳ありません、このロベール様が子供っぽいせいで、お手数を」
「おや、誰が子供っぽいって?」
お互いに、チクチクと言い合っているのを、わたしは褒めたり、なだめたり、慌てたりしながら、いろいろ手を尽くして、なんとか場を収めていく。こういうことなら、まかせとけ。大人数への対応は苦手だけど、一人、二人なら、なんとかなる。
だんだんと空気が和らいできた。よしよし、これなら大丈夫そうだ。
「おほほほ、エドガー様は、お優しいのですね。和ませようとしてくださって」
「そうだ、感謝したまえ。彼がいなかったら、ぼくたちは、まだ口喧嘩しているところだ」
「わたくしは、いくらでも構いませんけれど」
「ほ~う?そうかい」
「わ、ちょっと待とう、お二人」
わたしは、再び喧嘩が始まる気配を察知して、すかさずストップをかける。なんか、いくらでも二人は話し続けられそうだな。むしろ、仲がいいと言えるのでは?
その後も何度か衝突しそうになったけれど、大喧嘩にはならずに済んだ。わたしは会話を楽しむというより、二人がバトルを始めないか気にしながら、なんか不穏だなと思ったら、雰囲気を和ませるように頑張っていたので、ほとんど何を話したのか記憶にない。そもそも、ほとんどロベールくんとマニュエラさん同士が話していて、わたしは相槌しかしてなかったけど。
やがてマニュエラさんは、用事があるということで、自分の教室に戻っていった。
「エドガー様~!ごきげんよう。今度また、ゆっくりお話ししましょう~」
手を振りながら、機嫌よさそうに去っていく。それを不機嫌そうなロベールくんが横目で見送っていた。実に対照的だ。
「いやあ、なかなか元気な人だったね」
「元気ってもんじゃない。あれは序の口だよ」
「ん?」
あれで?すごいカッコいいポーズとか決めてたけど、あれ以上があるの?逆に見てみたくなってきたぞ。どんなことをしてくれるんだろう。
「まあ、気を付けることだ」
心配してくれてるってことだよね。なんだかんだ優しいな、ロベールくん。
「おう、なんか騒がしい奴が来てたな」
アウグストくんもやって来た。どうやら、割り込むのも悪いと気を使って、話しかけるタイミングを見計らっていたらしい。マニュエラさんと話をしている時に、遠くの方からチラチラこっちを観察しているのが、わたしの目に入っていた。後ろには、エステルさんが、ついて来ている。
「いや~すごかったよね、あのポーズ。めちゃ腰、反ってた。ありゃ体、柔らかいよ。うらやまし~」
注目するのそこ?確かに、かなり反ってたけどさ。もしかしてエステルさんって、少し変わり者?
「まあ、よかったんじゃないか。友達になりに来たんだろ、あいつ」
アウグストくんが、わたしに言った。
「うん、ありがたいよ」
「もう少し堂々としていいんだぜ。話かけられて、ありがたいだなんて、少し謙虚過ぎるかもな。体育のシュート決めた時も、大人しかったし」
「そう?」
謙虚?あまり意識したことなかったけど、わたしって謙虚だったのか。確かに、目立たないようにはしているけど、なんか面と向かって言われると、照れるな。
「まあ、またシュート決めた時は、試しに、思いっきり手を上げて、アピールしてみろよ」
「え、あ、うん・・・努力してみる」
「おうっ!」
アウグストくんは、ニカッと笑った。とてもまっすぐで優しい笑顔だ。まぶしい。あまりの爽やかさに目がくらむ。なんか、青春って感じだ。今もしかして、青春って奴の中にいる?わたし。
シュートを決めてアピールかぁ。わたしが、そんなことをする日は来るのかな。今のところ、想像できない。
そこまで、できないだろうけど、でも、もう少し自己主張することは、頑張ってみようかな。・・・・・・まあ頑張ってみる、かも。一応の努力目標というか、そのくらいの気持ちでいこう。うん、そうしよう。




