勧誘されちゃった 後篇
「生徒会ですか?」
わたしが?なんか生徒会の人に認めてもらうようなことしたかしら?
・・・・・身に覚えがない。
生徒会長さんと副会長さんが、わざわざ、わたしをスカウトに来てくれるほどのことは、絶対してないぞ。
エカティリーナさんは、胸を張った。
「そうだぞ」
「えっと・・・どうしてわたしが?」
それだ、一番の疑問。なんで、いきなりわたしに来たのだろう。
「昨日、逸材が入ったと学園中で噂になっていてな」
噂?嫌な予感がするぞ・・・。マニュエラさんが来た時のことを思い出す。
「なにやら、有料の握手会を開けば、すぐに券は完売して長蛇の列ができたらしいな。食堂ではシェフに新メニュー開発のアドバイスをしたり、体育の時間には、グラウンドを抉り取るすさまじいシュートを打ったとか。大活躍だったそうではないか」
感心したように、力強くうなずくエカティリーナさん。
コンスタンティンさんも、一緒に微笑んでいる。
尾ひれがひどくなってる!
昨日の時点でも、すでに尾ひれは付いていたけど、もっとヤバくなっている。
シェフにアドバイスしたり、グラウンドを抉り取る必殺シュートを蹴れると思われているのも、放っておくのはよろしくないけど、自分の握手会で同級生からお金を取ってると思われてるのが一番、マズい。
「これは、すぐに勧誘せねばと急いで来たのだ。早くしないと、他の者に取られてしまうからな」
「いや、あれはですね・・・」
わたしは弁解しようと口を開くと
「謙遜するでないぞ」
さえぎられた。
しかし、ここで引き下がっては大変だ。まずは話を聞いてもらおう。
「いえ、噂の真相は、実はですね・・・」
「ん?なんだ、なにかあるのか?」
よし、ひとまず話は聞いてくれそうだぞ。
わたしは、誤解を解くために丁寧に事情を説明していく。誇張され広まっていることを特に念を入れて強調しておいた。尾ひれの連鎖をここでとめねば!
握手会は無料で、しかもクラスの中でささやかに行ったこと。お昼は、ご飯を食べていただけであること、シュートを決めたのは本当だけれど、グランドを抉り取ったりしてない普通のシュートだったことを伝えた。
聞き終えると、エカティリーナさんは、豪快に笑った。
「ハハハハハ、何を言うか。それほど噂が広まるのは、貴様の人気の高さを示している。残念だったな!自分を低く見せようとしても、そうはいかんぞ!正体を現すのだ!」
すごい勢いでまくし立てられる。
噂を広げられるのは人気があるからだと、そういう理屈らしい。
正体を現すのだ!だって、わたしって化け物か何かだと思われてる?
「少なくとも、みなから一目置かれているのは事実であろう?」
「え、あ・・・それは、どうなんでしょうね」
はっきりと否定できない。みんなから好意的に迎えてもらっているのは、間違いないと思う。
「それだけで十分だ。話題になるのも実力のうちだぞ!」
わたしって思っていたよりも、みんなから認められてる?
「まあ、ともかく何も言わずに、この書類にサインをするのだ」
エカティリーナさんは、一枚の紙を取り出して渡した。
「ちょっと待ってください。これは・・・?」
「まあ、何でもいいではないか」
紙を確認する。真っ白で何も書かれていない。
裏も見てみるけど、白紙だ。
「これは、えっと・・・何でしょう?」
サインする意味は何だろう。何か、危険なにおいがするぞ。
「一応、やめておきます」
わたしは、踏みとどまった。
「いやいや、何でもないぞ」
エカティリーナさんの目が泳いで、わざとらしく口笛なんか吹いてごまかそうとしている。
怪しい・・・。
「何か、企んでますよね?」
「いや、別に何でもない。サインだけもらって、後で文字を書き加えて、生徒会への入会申請書にしようだなんて、そんなことは全く考えてないぞ」
「ほら!」
「まあまあ、落ち着け」
そんなこと考えていたのか。あっさり悪だくみを白状したぞ。しかし、やり口が詐欺師っぽいと言うか、小ズルい感じだ。
「さすがに会長もそこまでしません。軽い冗談ですよ」
コンスタンティンさんが、微笑みながらフォローした。
これは勝手な推測だけど、多分エカティリーナさんは、本気だったと思いますよ、コンスタンティンさん。
「で、どうだ?入りたくなったか?」
エカティリーナさんが、わたしの顔をのぞきこんでくる。
「少し考えてもいいですか?」
大事なことだから、しっかり考えよう。勢いだけで決めるのはよくない。
コンスタンティンさんが、ホッとしたみたいな様子で言った。
「どうやら、考えてくれるようですよ。会長よかったですね」
「うむ、手ごたえありだ」
エカティリーナさんは、満足げにしている。
「会長、生徒会の魅力についても話しをしては?」
「確かにそうだな。エドガーよ・・・・・・もし生徒会に入れば、この学園は思いのままよ!」
どこか遠くを指さしながら、大きな声でエカティリーナさんが言った。
「あまり、鵜呑みにされませんように」
コンスタンティンさんが、くぎを刺す。そりゃそうだ。さすがに、思いのままにはできないだろうな。
「実はな、これは秘密だが、食堂で好きなおかずを、ちょっとの間固定メニューにしてもらうことが可能だぞ」
エカティリーナさんはこっそり、わたしに耳打ちした。
好きなメニューをしばらく固定メニューに?
つまり、好きなものが長い間楽しめるということか。へえ、そんな生徒会特権があるんだ。
若干、己の欲望のために生徒会を使っているような気もするけど、これはオッケーなのか?微妙にアウトっぽい雰囲気が漂っている。
ロベールくんが聞いたら、入りたがったりして。でも、図書委員だと決めてるみたいだから、黙っておこう。いたずらに、心を乱さないようにしよう。
「素直になるのだ~エドガーよ」
エカティリーナさんは囁く。
なんかこの人、勧誘の仕方がヒーローものや漫画やアニメの悪の幹部味がある。
「あの、会長。まずは生徒会の活動内容や、やり甲斐について説明する方がいいのではないかと」
コンスタンティンさんは咳払いをして、しごく最もなアドバイスをした。
「甘いな、コンスタンティンよ。やはり、ここは物で釣るのが一番だ!」
堂々と言っちゃった。果たしてこの人が会長で、この学園は大丈夫なのか・・・行く末に不安がよぎる。
「まあ、冗談はこれくらいにしておかねば怒られるので、少しまじめに説明してやろう」
冗談に聞こえなかったけどな。でも、どうやら、ちゃんとした話に移るみたい。
「生徒会は、何をする組織か知っているか?」
ん?そう言えば、わたしが前の世界にいた時は、全然意識したことなかったなあ、生徒会のこと。何するところだろう。
「あんまり知らないです」
「非常に簡潔に述べるぞ。各委員会の意見をまとめたり、予算の配分を考えたり、行事の運営をサポートするのが主な仕事だ。関わる行事は、文化祭、体育祭、入学式、卒業式など、かなり多岐に及ぶ」
「ふむふむ」
「まあ、もっとすっきりと言えば、全体のまとめ役だな」
「なるほど」
かなり広い範囲で、いろいろなことに関わるみたいだ。
「広く学園と関わっていくのが、なかなかおもしろいのだ」
いろんなことをするってことは、その分大変なのでは?
・・・・・・わたしにできるかなあ。
不安が顔に出ていたのか、コンスタンティンさんが、こう付け加えた。
「やっていけば分かりますよ。わたくしと会長がしっかりと補佐しますから、その点は安心してください。ほかのみなさんも、面倒見のいい方ばかりですから、一から教えてくれますよ」
優しい微笑みだ。これだけで、はい、やりますって言ってしまいそうになる。この人、油断ならないぞ。
的確に、こちらが何を不安に思っているのか察して、いい感じの言葉をかけてくる。
「さすがに、いきなり今日来て、すぐ決めろとは言わんぞ。
・・・・・・ただし、わたし達は貴様を予約した!」
「予約?何か商品みたいですけど、どういうことでしょう?」
わたしは、よく意味が分からないので尋ねた。
「要するに他の勧誘が来たら、まず我々を通してもらおうと、そういうことだ」
「それで、どうするんです?」
「勧誘に来た者と話し合いをするのだ。ただの話し合いだ。何も怪しくないぞ。アハハハ」
笑い方がわざとらしい。絶対にただの話し合いじゃなさそうだ。何をする気なのか・・・。
「会長。今日はこれくらいにしておきませんか?急に来ましたし、お時間をとらせてしまうと申し訳ないので」
ふむ、コンスタンティンさんはさすが、深追いしすぎない感じが玄人っぽい。
「そうだな。とりあえず、今日はあいさつだけだ。また明日も来るぞ。と言うか、お前が入るまで毎日来るぞ!」
「へ?さすがに、冗談ですよね?毎日は」
「うん?何がだ?」
エカティリーナさんは、不思議そうな顔をしている。
あっ・・・これは本気の奴だ。
当然だろうと言わんばかりの表情をしている。
平然としているのが怖い。
「それではな」
「失礼いたします」
二人は、わたしに軽く礼をすると、教室を出て行った。
帰っていく二人を見送りながら、毎日来るという、その言葉に、わたしは軽く戦慄を覚えた。
引き際はあっさりしているけど、明日から続くであろう勧誘の連続攻撃に、すでに今から心はざわついている。
「おーう、お疲れ」
席へ戻ったわたしを、アウグストくんは労ってくれた。ありがたい。
彼は、とりあえずわたしを労ってくれる人になりつつある。
「毎日来るって本当か?お前、好かれてるな」
これは、好かれているのかしら。むしろ、すごい嫌われていると言われても信じるかも知れない。
毎日勧誘にやって来るのは、嫌がらせと紙一重のギリギリのところな気がする。
「でも、今の話、いいかもな。決めかねてたんなら、向こうからの勧誘に乗ってみるのはアリだぜ」
「そうかなあ」
「ま、あの会長さんの勢いすごかったからな。不安に思うのも分かる」
「でしょ?」
「でも、あの副会長さんがいるなら、大丈夫じゃないか?」
なるほど、確かに。コンスタンティンさんは優しそうだし、頼れる気がする。
彼と一緒なら楽しいかも知れないな。エカティリーナさんの、いいストッパー役になってくれそうだ。
突き進む会長と、それを見守る副会長。会長と副会長と言うより、エカティリーナさんが、お転婆なお嬢様で、コンスタンティンさんが執事さんって感じ。ほんとは、二人とも貴族なんだろうけど、そんな印象だ。
しかし、思わぬ勧誘がやって来たな。どこに入ろうか迷っていたわたしには、渡りに船と言うか、ありがたい話ではある。
・・・生徒会かあ。なんだかすごく真面目な、お堅い組織ってイメージだったけど、エカティリーナさんの存在で、ちょっとイメージが変わったな。まあ、コンスタンティンさんがいるから、変なところではないだろう。
今度、見学に行ってみてもいいかも知れないな・・・
なんて、帰り支度をしながら、ぼんやりと、そんなことを考えた。




