寄り道しちゃった
ただいま連載中の作品一覧です。
『 わたしがモテてどうする!!!』
『悪役令嬢は毒舌なので、メイドの私がフォローします』
エカティリーナさんと、コンスタンティンさんが帰ったあと、アウグストくんと雑談を楽しむ。こういう時間が楽しいんだよね。ちょっと帰らないで話しているの。
「早速、勧誘を受けていたみたいだね」
ロベールくんが声をかけてきた。
「うん、まあ」
「君には、ああいう勧誘が来るんじゃないかと、ぼくはうすうす思っていたけどね」
「う・・・そうかな?」
「あれだけ話題になれば、仕方ないよ」
う~む、確かに。結構派手なことをしていたからなあ。
・・・・・わたしが率先してしたんじゃないんだけど、握手会に胴上げだもんね。そんなことしてたら噂になるに決まっている。
なんか、異様なことが起き過ぎて、感覚がマヒしているみたいだ。
「ロベールくんは、どう思う?」
「なにがだい?」
「生徒会にわたしが入ること」
「ぼくが決めることじゃない。でも、意見を言わせてもらうと、なかなかやりがいがありそうだとは思う」
エステルさんが、ひょっこり顔を出して言った。
「でもさ~結構大変そうじゃない?いろんなことしなくちゃいけないんでしょ?あたしだったら、無理かも」
「へえ?どうしてだい?」
ロベールくんがエステルさんに尋ねる。
「あたし、一個のことにググっと集中するタイプだから」
ふむふむ、なるほど。結構大事な視点かも知れない。いろいろなことをしたいか、一つのことに深く関わりたいか、そこが違うんだな。
腕を組んで考えると、
「そんなに深刻な顔しないの~」
エステルさんに頬っぺたをギューと引っ張られる。どうやら、険しい表情だったみたいだ。
「いだだ」
「ほら、笑いな~」
周りから、すごく注目されている。かわいい~とか言われているけど、みんなに教えておきたい。これ、結構痛いよ・・・。
頬を引っ張られながら笑う。ひどく不格好な笑顔になってるだろうなあ。
「そうそう、それでよし」
ニカっと笑うエステルさん。
よ~し、もう少し気楽に考えよう。あんまりちゃんとしようとし過ぎても、よくないな。
まだまだ時間に余裕はあるんだし・・・・
と思ったんだけど、エカティリーナさんの毎日来る宣言があった。忘れてた。
あんなに熱心に誘われたなら最早、入るしかないのでは?そんな気がしてきた。
う~む。もう少しじっくり考えてもよかったけど、少なくとも、見学くらいは早いうちに行った方がいいな。
そのうえでまた、どうするか決めよう。
「おっ、なんだか険しい顔が、緩んだな」
アウグストくんが、覗き込んできた。ちょっと照れる。
「そ、そうかな?」
「ああ、少しは整理ついたか?」
「うん、とりあえず見学に行ってみようかなと」
「おっ、いいじゃねえか。それで違うなと思ったら、やめればいいしな」
「そうだよね」
と言いつつも、正直見学まで行ったら、益々断りにくくなる気がする。
でも、一応の結論は出た。
とにかく、見てみること。それから考えよう。
わたしの気持ちの整理がついたところで、
「そろそろ帰らないか?いい時間だぜ」
「あっ本当だ」
もうだいぶ遅い時間になってしまった。みんな待っていてくれたらしい。私は、鞄を持って立ち上がる。
「待たせてごめん。行こうか」
「よし、帰ろうぜ」
「行こうか」
「おっけ~行こ~!
わたし達は、初めての寄り道してみることになった。周りにどんなものがあるか、みんな興味があるみたい。
とりあえず、ゆっくりできそうな場所を探すことになった。
そこらじゅうにおしゃれな建物が並んでいる。
道の角っこに赤い屋根のかわいらしいお店が見えた。
窓からのぞいてみる。どうやら喫茶店らしい。
「ここなんてどうかな?」
わたしが言うと、みんな乗り気で、入ってみることになった。
「いらっしゃいませ」
若い男性の店員さんが、とても丁寧に応対してくれた。姿勢がよくて黒いベスト姿がカッコいい。ただ歩いているだけなのに、なんだかすごく上品に見える。
もしかして、ここって高級店?お金、足りるかなと心配になってきた。金銭感覚が近そうなエステルさんに話しかける。
「なんか、立派だね、ここ」
「う、う、うん。そだね~・・・・・・まあまあじゃないかな~?」
エステルさんは目が泳いでいる。木でできたこじんまりとしたお店だけど、ただものじゃない雰囲気が漂っているもんな、なんだか、身構えてしまう。
ロベールくんとアウグストくんの様子も見てみる。
「いいじゃないか。なかなか」
「そうだね。小さいから、もっと安っぽい店かと心配していたが、まあ一応合格かな」
うん、食堂に初めて行った時と同じような反応だ。
やはり、ブレない二人だ。そしてロベールくんは、ここでもちょっと偉そうである。
でも、なんだかロベールくんが言うと、説得力があるのはなんでだろう。やっぱり堂々としたその態度からかしら。
「こっちの席だってよ。座ろうぜ」
アウグストくんはさっさと行ってしまう。
「ま、待って」
わたしは追いかける。
「ちょ、ちょっと置いてかないでよ!」
きょろきょろ店を眺めていたエステルさんも、慌てて付いてきた。
わたしたちは、窓際の席に案内された。四人で座っても、たっぷり余裕がある。店自体は小さいけれど、一つ一つの席はかなり広々としている。
そのせいか、座席の数はそんなに多くない。でも、一つのテーブルに一人ずつ店員さんが付いて対応してくれるみたいだ。
何て丁寧なサービスなんだ。商売のことは素人だからよく分からないけれど、そのよく分からないわたしでも、察せられる。ここ、高級なお店の可能性、高し。
横を見ると、机の下に隠れながらエステルさんは、財布の中身を確認している。
一応、大目には持ってきたけど、だんだん心配になってきた。ということで、わたしも机に潜る。
小声で、エステルさんが話しかけてくる。
「もしかして、手持ちの確認?」
「そう、こんなに立派な店とは思わなくて」
「だよね」
「足りなかったらまずいからね」
「うん」
ひそひそ声で話す。
傍から見たら、すごく間抜けな光景だろうな。
ロベールくんとアウグストくんは、トイレに行って席を外しているから、わたし達の席は、ぱっと見ると誰もいないように見える。でも、その机の下には二人の人が隠れているのだ。
机の上に手を伸ばして、メニューを取り、恐る恐る値段を見てみた。
・・・・・・あれ?思ったほどではない。この世界の物価なんかは、ざっと昨日勉強しておいた(メイドのマリーさんに、それとなく聞いたりして)ので、なんとなく分かっていたけど、それにしても予想よりお安い。
あくまで予想より安かっただけで、もちろん、かなりいい値段なんだけど、良心的に感じるぞ。
これなら、今の所持金で何とかなる!
わたしは、ホッとしてエステルさんを見た。
ぱあっと表情が明るくなっている。どうやら、彼女も心の平穏を取り戻したようだ。
二人でうなずいて、モゾモゾと机の下から出る。
すると・・・
「何やってんだ?」
コップを持ってきてくれたアウグストくんが、固まっている。
マズい。変なところを見られた。よ~し、ここは何とか、わたしの前世のスキル(単に無難なことを言ってごまかす)で、対処しよう。
「机の下にお金を落としちゃって、探してたんだ」
苦しいか?言い訳として。でも、何かを落としたくらいじゃないと、この状況を説明できない。
「あ~なんだ。そうだったのか。二人とも、何か具合でも悪いのかと思ったぜ」
アウグストくんが素直な人でよかった。
持ってきてくれた水を飲んで、しばし気持ちを落ち着かせる。
改めてメニューをじっくりと見てみよう。 わたしは、エステルさんと片方ずつ持って一つのメニューを眺める。
ハーブティーなんて、よさそう。
なるほど、ケーキとのセットだと、安くなるのか。でも、マニュエラさんからの手作りケーキを昼に頂いたばかり。さすがに、今日はあのケーキの味を、別の甘いもので上書きしたくない。
よってこれは今日は遠慮しよう。
エステルさんはおいしそうなパンケーキに決めたようだ。
わたしは、甘いものは避けて、普通のトーストと、ハーブティーを選んだ。
「へえ、いい選択だね」
感心したように、ロベールくんがつぶやいた。
別に何も深い考えとかないんだけど、褒められた。
「食堂でみなが、君に尊敬のまなざしを向けていたが、どうやらその理由が分かったよ」
なんか熱く語り始めた。食べることが好きなのは、食堂での彼の姿を見ていれば伝わってくるけど、単に食べるだけじゃなく、語るのも好きみたいだ。
「あえて、なにも手を加えていないシンプルなパンを頼むことで、この店のクォリティを見ようというんだろう?」
「え、いやそんな深い理由じゃなく、なんとなくおいしそうだったからなんだけど・・・」
わたしを評価してくれるのは嬉しいけど、ちゃんと否定しておかないと、わたしがすごい美食家だと勘違いされてしまう。
「な・・・・・・なんだって・・・無意識に、だと」
驚愕の表情をしている。
ん?どうしたんだろう。
「無意識に、そのチョイスをするとは、何ということだ!君は、只者ではない気がしていたが、いよいよ、そのすごさの片鱗が現れてきたね」
「え、いや、そんな大げさな」
「ふふふ、謙虚だね。まあ、そういうことにしておくよ」
ロベールくんは、楽しそうに笑った。なんだか、すごい勘違いをされている気がする。でも、わたしが否定しても、謙遜はやめたまえとか言われそう。否定したいけど、しても意味なさそうなのがもどかしいなあ。
わたしの評判が、意図せずまた上がっていってる気がするぞ。このままいったら、勝手に偉人になったりして。
まあ、さすがにそこまではないよね。
「はあ」
ちょっとため息が出た。
「そう照れなくてもいいよ。ぼくのように堂々としたまえ」
「確かに、ロベールくんは物怖じとかしないよね。すごいなあ」
皮肉とかじゃなくて、そこはすごいと思う。
「いやあ、そんなことあるけどね」
まんざらでもなさそうな、ロベールくん。素直に褒め言葉を受け取れるのも、自信がないとできないことだよなあ。
「そうそう、お前のその自信は、才能かもしれないぜ」
アウグストくんが言った。
みんなで授業のこととか、いろいろなことを話す。ゆったりとした楽しい時間が過ぎていった。別に特別に何があるわけではないのだけど、それがとても、いい。
そんな時、手を洗いから帰って席に座ろうと何気なく窓の外を見ると・・・・・・
そこに、なにかが、いた。




